イアフリードと周辺の状況(1)
獣人国と同盟を結びイアフリードは、新たな体制を構築した。旧モラールの各地や落ちのびてきた獣人の数も増え、イアフリードの人口は増加していく。また、南の魔族国との交流も開始した。大輔は、魔族の国の魔王ドルガと懇意となり、不可侵条約を締結した。魔族の国とは、距離が遠いため簡単に交流はできないが、互いに配下を送り合うなど関係は良好だ。
獣人族の住む北の城塞は、獣人特区として位置づけられたが、獣人達は、身分証さえあれば、自由にマリードに入る事ができる。獣人国も戸籍制度を導入し、イアフリードの方針に従った。そして、学校は、マリードの学校を使う事になり、獣人族の子供と人族の子供が一緒に机を並べている。
そして、大輔の提案で、イアフリードの建国記念日に獣人国が主催する武闘大会が年に1度開かれる事が決まった。これは、国家行事と認定され国をあげて行われるが、主催は獣人国と決まった。これは、種族間の融和を望むイアフリード王の希望できまった事だ。
「さて、ようやくイアフリードができて1年が経過した。長いようで短い1年だったけど当初の目的は概ね達成したと僕は思っている」
いつもどおり、マリード城の最上階で5人が席についている。この日も定例化された会議が開かれており、各自から意見が寄せられていた。
「まず、僕の方でまとめたんだけど。イアフリードの国民は、かなり増加したよ。この1年でモラール領から避難してきた者が数千人おり、最初にいる者と合わせて1万人を超えた。それに獣人族の数を加えるとさらに増加し、合計で2万人ほどになった。住居は、最初に作った1万人分の他、北の城塞に作った1万人分に加え、大工ギルドが毎日のように増築を進めているから日増しに増えている。幸い土地には、まだ余裕があるからこのまま増やすつもりでいる。公共機関が、手狭になったり人口に見合わなくなってきているから増築と増員も指示してある」
君人が、大まか1年間の変化について説明をする。
「人口の流入は、頭打ちするだろうな」
大輔がそう言うと君人が頷いた。
「そうだね。旧モラールの民が、まだ逃げてきているようだけど、ジルバルダもいつまでもそれを許すとは思えない。バルドフェルド達が、定期的に旧モラール領に潜入して、例の噂を広めているからジルバルダの旧モラール領の統治は、かなり難しいだろう」
例の噂とは、東に夢のような国があり、皆そこに逃げていると言うものだ。旧モラール領にかけられた税やジルバルダへの不満に付け込んで民を動かし、ジルバルダの力を削ぐ方策をとっている。税を納める民が減り、人口が減れば、ジルバルダが得る収入も下がる事になる。
「継続してジルバルダには、圧力をかけていく。食糧や資源の問題は?」
「食糧は、新たに漁港を作った事で、漁師ギルドが機能し始めた事で魚介類を安定確保できるようになった。それに農夫ギルドが、希望していた畑と家畜の増産のめどがたったからイアフリードの南東部あたりを開墾している。獣人族や狩猟ギルドが、南北の森で狩猟をしており、ある程度魔物の肉なんかも確保できているよ。問題は、資源の方だね。和美くんが、今後大規模な構造物を作るなら新たな鉱山を確保したい。今は、鉱夫ギルドが獣人国南東部にある鉱山に出向き作業しているが、それは国民が消費する分にしかならないと思っている」
「新たな鉱山を見つけるしかないな。調査を進めておいてくれ。できれば、和美には、新たに南側に北側と同じ城塞を作って欲しいと思っている」
大輔は、今後のプランを遂行するためには、獣人族が住む事になった北の城塞と同様の物を南側にも作るつもりだ。
「了解。デザインを含めて考えておくわ。材料の回収は頼んで良いの?」
「そうだな。それは、考えておく事にするよ」
するとカリンが手をあげる。
「私、眷属を増やしたいので、ダンジョン攻略してきたいです。ついでに素材や魔石の回収をしてきますよ」
すっかり頼もしい発言をするカリンがいる。
「そうだな。戦力の補強もできるし、獣人国にも数か所ダンジョンがあるとブリンガ達が言っていたからそこに向かうのもいいな。魔族国近辺にもまだ未発見のダンジョンもありそうだからドルガにも聞いてみるか」
内政面などについて今後の方針を立てた5人は、次の検討に入る。
「じゃあ。次は、対ジルバルダだね。獣人国での戦闘後、ジルバルダは、大きな動きを見せていない。おそらく何かしらの準備をしていると思うのだけど、その確証が得られない。わかったのは、相手側にやっかいなジョブを持つ者達がいる事だね。そして、おそらくその人たちは、僕たちと同じ日本人だと思われる」
カリンには、すでに詳細を説明しているので、驚く者はいない。だが、最初相手に同郷の者がいるとわかった時は、大輔達も少し驚いた。
「ジルバルダの軍に所属している者と非戦闘員もいるだろうから、ジルバルダにはそれなりの数の日本人がいるだろうな。そして、やっかいな事にジルバルダに従って活動しているか……」
大輔は、息を深く吐いた。このままでは、高確率で同郷の者と命のやり取りをしなくてはならないのだ。
「向こうにこちらが、日本人だと言ってもだめかな?」
「どうだろうね。僕たちより前にこの世界に来ている人は、もうそれなりにこの世界に溶け込んでいるだろう。だから、しがらみもあるだろうし、もしかするとこの世界の人と結婚していたり、子供をもうけているかもしれない。そうなると簡単には、いかないだろうね。むしろ、向こうに従えって言われると思うよ」
君人に言われ、みずきもそうだよねと納得する。
「この世界にどれくらいの日本人が、召喚されているのか全てを把握できない以上、どこかで会いまみえる事はあるだろうな。もしかするともう手にかけているかもしれないな。でも、俺達は、この世界では自由に生きるって決めたんだ。だから、例え同郷の者がいても従わせられるのは、拒否したいと思う」
「賛成。私も拒否したい。例え、同じ日本人でも相手が、どんな人かわからない。それに獣人国にだってモラール王国にだって攻めてきているんだから、きっと人を殺す覚悟もできていると思う。だから、こちらもきちんと覚悟しないと負けちゃうと思う」
和美が、そう言うと皆が頷いた。理由がどうであれ、相手も自分の目的のために覚悟し、ジョブを使って戦っているのだ。だから、遠慮などしては足元をすくわれかねない。
「そうだね。何度か敵の密偵のような者が、行動している様子がある。幸い潜入までは、されていないようだけど、相手に潜入できるようなジョブを持つ者もいると思っているよ」
すでに何度か相手側に探られている事は、大輔や君人もつかんでいる。夜を支配するグリモアやヴァールの目を盗み、城壁の中へ潜入を試みる者がいるようだが、それは簡単にはいかないようイアフリード側も備えているのだ。
「夜間よりむしろ日中堂々と入って来る者の方が脅威だな。難民に紛れて侵入されると打つ手がない」
大輔が、不安を口にする。
「そこは、僕にも考えがある。まず、入国する際に家族を連れていない者、特に1人で入国を希望する者や夫婦で入国する者については、目を光らせている。子供や年寄を連れて逃げてくる者が多いから、それ以外の者は、監視できるようにしているんだ。本人たちには、家族構成の事だと説明してあるけど、そうした者は、僕が指定した建物に入らなければいけない事になっている。住宅を与えられると言えば、良い事のようだけど、こちらからしてみれば監視できる場所に強制的に住まわせる事ができるんだ」
君人は、さらりと怖い事を言う。




