1年後のイアフリード(2)
「イアフリードでは、希望する子供は、無償で学校へ通う事が可能です。教科書や必要な用具、制服も国が支給しますので、ご負担はありません。それと昼食が、無償で出る事になっています」
男は、言葉がなく。その横にいる妻が、目を見開いて確認する。
「そ、それってうちの子も学校にいけるのですよね」
「はい。現在、イアフリードでは、7歳から15歳までの子供を学校の対象としています。希望する者全員が、読み書きや算術を勉強していただきます。また、6歳以下のお子さんを預ける事ができる機関が、学校に併設されていますので、そちらでは子供の面倒も見てくれます」
イアフリードには、孤児院のような児童施設と児童を養育する施設が作られているので、希望者は無料で子供を預ける事ができる。
「す、すごいですね。この国はどうなっているのですか?」
「はい。王を始め大変すばらしい方々が、政治を行っていますので、私達も安心しています。悪い事さえしなければとても良い街ですよ」
受付女性の説明では、暴力事件を起こしたり、盗みを働くと兵士に拘束されると言う事だが、それはむしろ当たり前の事で、住民は安心して暮らせると言う事なのだ。
「次は、住宅ですね。あなた方は、4人家族なので、一軒家が良いですね。では、このカードを3番の受付に出してください。それとこれは、大工ギルドへの紹介状と裁縫ギルドへの紹介状、そして、奥様には、稀少ジョブの紹介状を発行しておきますね。それとこれが、お子さんの入学許可証となります。学校の場所は、この地図に書いてあります。住宅を確保した後は、この食糧との引換券を使っていただければ1月分くらいの食糧を貰えます。これは、一度きりですので大事に使ってくださいね。食料品店で使う事ができますから」
受付女性からカードと紹介状などを次々受け取る。男は、まだ、信じられないと言った顔をするが、妻の顔が真剣そのものだ。
「あなた。しっかりしてください」
妻の叱責で、現実に戻った男は、カードを持って指示された場所に向かう。向こうもこちらのカードを見てすぐに対応を取ってくれた。
「住宅の案内ですね。荷物もあるようですので、すぐにご案内しますね」
カードを確認した男2人が、荷物を持つのを手伝ってくれた。そして、案内された家につくともう男には、言葉がなかった。
「これ、新築よね?」
「ははは。奥さんもちろんですよ。このイアフリードは、毎日家を建てていなきゃいけないほど人が増えているんですからね。建ててもすぐに埋まるんですよ」
用意された家の扉を開くと案内した男達が、にやにやしている。
「うわー」
奥さんが、声に出して喜んでいるが、それは案内した男達も同じだ。
「どうです? 俺たちが作っている住宅は、なかなかのものでしょう」
「こ、これをあんた達が?」
「ああ。俺達は、大工ギルドに所属している大工だからな。ギルドでは、木材の加工から住宅の建設までの手順を教えてくれるから、こうして自分で作って自分で案内しているんだ。この家は、俺とこいつで作った家だ」
先ほどまで無言になっていたテイラーの目が、変わった。
「お、俺もジョブは、大工なんだ。だけど、こんなすごい家は、建てた事がない」
「そりゃ。俺達だってこんな家が、作れるようになったのは、最近だよ。ギルドがうまく指導してくれるから仕事を覚えやすいんだよ。それにジョブの効果が乗っかれば、どんどんできる事が増えるんだ。あんたも大工なら俺達の後輩になるんだよな? それならすぐにこんな家くらい作れるようになるさ」
後ろでは、妻と母が、満足そうに家の確認をしている。水回りを見て「お、お風呂がある!」とか「み、水が出るわ!」とか聞こえてくるが、男は明日からの仕事を考えて興奮している。ジョブは、大工と知っていたが、自己研鑽や見様見真似ではテイラーには限界があった。それにどうすれば、良いかという基本的な勉強をする機会がなかったのだ。これは、モラール王国が、ジョブを秘匿する風習のある国で合ったこと、そして妻のようになかなかジョブの事を言えない文化があったせいだ。
「あなた。すごいわ。ここに住めるのよ私達。ねえお母さん」
「本当に夢のような話があったんだねえ……」
涙ぐむ母親に案内した大工たちも喜んでいる。
「ほ、本当にこのイアフリードと言う国は、モラールとは違うんだな」
「ああ。俺も最初は何の冗談かと思ったが、暮らしてみればすぐにその凄さがわかった。それと先に言っておくが、この国には種族や身分による差別はないからな。イアフリードに貴族なんて奴らはいないが、逆に獣人や魔族が普通に歩いていたりする。最初は、色々と戸惑う事も多いが、暮らす事には心配がない」
大工ギルドの先輩達に教えられテイラーは、希望を持つことができた。妻や母親は、まだ家の事で興奮しており、あちこちを確認しては騒いでいる。息子は息子で、学校に行けると聞いて大騒ぎだ。
「お前達。少し騒ぎすぎじゃないか?」
テイラーが、家族を窘めるが、家族はどうにも聞く耳はないようだ。
「いいのか。当面の食糧を分けてもらわなくて?」
テイラーの冷静な突っ込みにより、妻や母はようやく話しに耳を傾けてくれた。
「そ、そうよね。食べ物を考えないとだめね」
「母さん。お腹すいたよ」
食糧の話しをして思い出したが、ここ最近は満足いくような食事はしていなかった。長い旅の中で最低限の食しか確保できなかったため。家族はすっかり痩せてしまっていた。
「確か食料品店で、この券を出せば食糧を分けてもらえるって言っていたから行ってみよう。すぐに仕事をしたとしてもすぐに給金がでるかわからないからな」
テイラー一家は、4人で揃って街に出る。迷子にならないよう皆で道を覚えながら注意して歩き、数回道を聞くと目的の食料品店が並ぶ場所に到着した。
「す、すごいな。これ、全部店だよな」
テイラー達が、到着した場所は、商業区であり、そこにはイアフリードにある全ての店が集まっている。食糧品の他にも多くの店が並んでおり目移りするほど盛況だ。
「あなた。あそこに食料品を扱う店があるわ」
妻の指す方向へ移動し、テイラーは店員を捕まえる。
「すまない。まだ、この街に来たばかりなんだが、この券で食料品を分けてもらえると役所で聞いたんだが?」
すると店員は
「はい。国が支給している引き換え券ですね。これで、およそ100マリー分の食糧と交換が可能ですよ」
「100マリー?」
「ああ。このイアフリードの通貨ですよ。と言ってもこの国は、この紙幣が金貨や銀貨の代わりになりますがね。100マリー分とは、そうですね4人くらいの家族が3日くらい食べる分の食糧くらいの価値があります」
店員は、そう言うとテイラーの妻を手招きして食品をあれこれ選ばせる。どうやらこの券1枚で交換できる食品を選ばせているようだ。
「お、お肉も大丈夫なんですか? パンはありがたいです。野菜と調味料と……」
妻にしてみればそれなりに選んだつもりだが、店員は他はと聞いてくる。妻は、おそるおそる食材を追加していき1人では持ちきれないくらい選らんだ時に店員は、「これでちょうどですね」と言った。
「イアフリードは、物価が安いのかい?」
「そうだな。特別安いとは思わないけど物は豊富にあるな。この国では、仕事もきちんとあるから皆給料をしっかりもらえる。給料を貰えれば少しでも良い暮らしをしたいと考えるだろ」
テイラーは、頷く。確かに自分が働きに出て、母親も仕事ができれば、それなりに給料は確保できる。それに妻が、この国では稀少なジョブと言う事でそこでも給料は出ると聞いた。
「ははは。本当にしばらくは、夢のような暮らしだな。これは……」
テイラーは、重たい食糧を抱えてそう言ったが、その目は希望にあふれている。




