古城のヴァンパイア
「グリモア。この奥の物は持って行っても良いか?」
「無論にございます」
ダンジョンを制覇すれば、最後の部屋に様々な財宝やアイテムが眠っている。この理由も定かではないが、いただける物はいただいておこうと大輔は部屋を物色する。
「主。この部屋には、聖剣が1本保管されております。私や主すら傷つける事が可能な逸品ですので、取扱いにはご注意ください」
グリモアに言われ確認してみると明らかにこれだと言う剣があった。確かに何かしらの力を宿しており、普通の剣でない事は見てわかる。
「聖剣があるってことは、魔剣もあるのか?」
「無論、ございます。ここには、ございませんが他のダンジョンに納められているものと思います」
「その場所までは、知らないよな?」
「残念ながら……。ですが、ここより北東に進んだ場所にある小さな島に隠されたダンジョンがあるのは、知っております。主ならば、そのダンジョンすら攻略できるのではないでしょうか?」
新たなダンジョンの情報を得て、大輔は少し迷った。魔石は、燃料にもゴーレムの格にもなるためいくらあっても足りない。それにうまくいけば、さらに眷属を増やす事ができる。ブランやグリモアのようなダンジョンのボスクラスの眷属なら十分戦力として活用できるので、手駒としてほしいのだ。
「わかった。そこにも行ってみる。お前は、俺と共に一度マリード城へ来てもらう。皆に紹介した後は、城外に作る予定の墓地を中心に夜を支配してもらうつもりだ」
「御意に。主に頂いた力の断片を活用し、見事夜を支配いたしましょう。それと、向かう前に願わくばここより南東にあるヴァンパイア共の元へ向かい我が眷属を増やしたいのですが、ご許可いただけますでしょうか?」
グリモアは、ダンジョンに縛られていたが、それなりに周辺の情報を持っていた。そして、ここから南東にある古城に住むヴァンパイアを眷属としたいと言った。
「ついでだ俺も行こう。それに一度行っておけば、いつでも行けるからな」
ダンジョンの財宝や聖剣を回収するとダンジョンの入り口に転移する。転移魔法の事を知ったグリモアが、驚いていたがやはり使える者は、限られているようだ。
ダンジョンを出てグリモアの案内で南東へ向かう。忘れるくらい長い年月、ダンジョンに縛られていたグリモアは、自然の闇を楽しんでいるが、すこはすでにヴァンパイアたちのテリトリーだ。
「主。見張られております」
あたりは、闇に覆われ月明かりもないこの日は、本当に夜目が利かないとほとんど何も見えない。だが、大輔とグリモアには、鋭い爪を突き出してきたヴァンパイアの姿が、はっきりと見えた。
大輔は、その爪を回避すると腕をつかみ握力を込める。途端にヴァンパイアの男が、うめき声をあげた。夜間に身体能力があがると言うヴァインパイからしてみれば、その力をいかんなく発揮できる夜にこうして力の差を見せられるのは、ショック以外の何ものでもない。
グリモアは、グリモアで、闇を操り黒い靄のようなものを出してヴァンパイアの動きを拘束していた。
「さあ。あなた方の主の元へ私の主を案内するのだ」
グリモアの目が、赤く光ると拘束されたヴァンパイアは、抵抗を止め膝を折った。
「主。この者が、ヴァンパイア共の主の元に案内くださるそうです」
「そうか。こいつは、どうする?」
必死にもがいているヴァンパイアを片手で捻り上げながらグリモアに聞く。
「頭さえ配下にすれば、すべての者が従うでしょう。放っておいても大丈夫かと」
年老いた男の声で、グリモアは答える。すでに2人を囲んでいた下っ端のヴァンパイアたちは、その力の差を悟り、抵抗を諦めていた。手を離してやるとすぐに距離を取ったが、もう襲ってくる気配はない。
グリモアは、1人のヴァンパイアを操り、古城に案内させるとそのまま大輔を連れて古城の中にある王の間へと向かった。そこには青年ヴァンパイアと女性のヴァンパイアが立っており、玉座には壮年のヴァンパイアが座っていた。
「この城に何のようだ?」
玉座で足を組み、大輔とグリモアを見下ろすヴァンパイアの王の表情は険しい。すでに2人の力について部下から報告を受けているのだろう。
「俺の下につけ」
「断る」
大輔が、そう言うと考えるそぶりもなくヴァンパイアの王は、それを拒否する。
「ヴァンパイアの王よ。それは、賢明な判断とは言えませんよ」
グリモアが、そう言うと一層ヴァンパイアの王は、機嫌を悪くする。
「何を偉そうに。そこの人間も含めお前らごときに降る必要などないわ」
すると主の手前、おとなしくしていたグリモアの表情が変わった。自身の事なら看過する事もできるが、主と決めた者が、ごとき呼ばわりされれば黙っていられないのだ。
だが、そんなグリモアの表情を見てか大輔が、行動に出ようとするグリモアを制止する。
「相手の力量も読めないような者なら、どうせ大した事ないだろう。そんな者を無理してまで配下にしなくても良い」
これは、大輔の挑発だ。存外に無能な者など必要ないと言われた事で、明らかに怒りを表したヴァンパイアの王が、牙をむいた。ヴァンパイアの王は、一瞬で玉座から飛び出すと赤く眼を光らして大輔を殺さんと飛び掛かった。だが、そのヴァンパイアの王の爪は、空を切り代わりに大輔の拳が王の腹部に突き刺さる。
「ぐうううう」
唸り声をあげて強烈な一撃に耐える。夜の世界において、不死に近い存在である純血のヴァンパイアは、強力な再生能力を持っている。だから腹部に与えたダメージは、すぐに回復していくが、攻撃を避けられた事実も逆に攻撃を貰った事実も変える事はできない。
距離を取ったヴァンパイアの王は、たくさんの蝙蝠をマントの中から放出する。一匹一匹が、吸血蝙蝠であり、するどい羽根で相手を切りさき、その血を吸い尽くす凶暴性を持っている。
だが、そんな蝙蝠たちも大輔の側に向かうとバラバラと落ちていき、身体までたどり着く事もできない。全体攻撃スキルを使うと通常攻撃すら一定範囲内にいれば、ダメージを与える事ができるのだ。
「それで終わりか?」
大輔が、手をぱんぱんと払うとヴァンパイアの王は、再び特攻を開始した。王と言うからそれなりの者だと思ったが、どうにもこのヴァンパイアの王はそうは見えない。鋭い爪を伸ばし、必死に大輔を攻撃するが、当然大輔には脅威とならず、逆に腹部に再び重い一撃を受け吹き飛んだ。
「ぐふううう」
「なるほど。耐久性が売りか。確かにそれくらい丈夫なら使い道もあるかもしれないな」
腹部がめり込むほど強烈な一撃を入れたが、ヴァンパイアの王は、すぐにそれを回復していく。だが、明らかにヴァンパイアの王に余裕は感じられなくなった。
「さて、俺に刃向った以上覚悟はいいんだろうな」
威圧を込めた言葉をヴァンパイアの王にぶつける。そして、そのわずか後にヴァンパイアの王の首が両断された。ごろりと首が転がり、恨めしそうな顔を向ける。不死性の高いヴァンパイアは、首を落されても即死しないのだ。このまま首をくっつければ、すぐにそこから回復し元通りになるだろう。
だが、その首にさらに追い打ちが入り、細かく寸断されるとさすがに回復する事はなくヴァンパイアの王は絶命し燃えカスのようになって消えた。
首を落したのは、背後に控えていた青年のヴァンパイアと女性のヴァンパイアだ。2人は、静かに膝を折ると大輔に忠誠を申し出たのだ。




