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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「暴食の化身」前編

「出たぞー!怪物だ!」

「すぐにアポロン様を呼べ!」

プライトリアの兵士達がざわめき出した。アポロンを呼びに行く為に霊気検索する者の傍ら、別の兵士達はリッショウをした。といっても兵士達のリッショウは強い者でも第二段階目がいいところ。

雷弾五層(プルグロ・ピアーソ)!」

電気の魔法の弾が兵士達から放たれていく。どんな生き物でも電気には弱い。だから相手の動きを止める為には電気は有効。しかし当たればの話だが。

「何なんだあの動きは。まるで空を掴み、泳いでるかのようだ」

「とにかく動きを止めるぞ!雷弾五層(プルグロ・ピアーソ)!」

パチンッと、1発の雷弾が怪物の脚らしきものの1本を粉砕した。それでも痛むという概念が無いのか、落ちた細い腕らしきものを気にする事もなく、怪物は真っ白な光の球を吐き出した。銃弾のように、ブオンッと空を切ってそれは兵士の1人に直撃する。

「ぐあっ──」

白い爆発が瞬時にそのまま固まったような物体が、兵士の上半身を覆い尽くすと同時に、兵士はパタンと倒れた。すぐさま駆け寄る兵士達。

「何だ・・・これは」

「おい!大丈夫か!返事しろ!」

「これじゃ窒息する!」

そう兵士が、上半身が覆われた兵士の体に手をかけ、よく分からない固まったものを引き剥がそうとするが、それはびくともしない。

「くそ!どうしたらいいんだ!」

「皆!退避しろ!」

兵士達は皆、その声に顔を向けた。それは誰もが知っている待ち望んだ声。

「アポロン様!」

アポロンは空中に敷いたクウカクの床の上に立ち、兵士の上半身を覆うものを見下ろした。

「それは霊気そのものだ。力では壊せない。分離の魔法を施し続けろ」

「はい!」

ギョロっと、怪物はアポロンを見た。しかし怪物を見つめるアポロンは、困惑していた。

「エッグモンスター。未だに倒し方が分からない怪物」

怪物は白い球を連続的に吐き出していく。そんなものを食らってしまえばたちまち全身は固まってしまう。しかしアポロンは立ち尽くして動かない。前方に手をかざし、クウカクの壁を作っていた。バチンバチンと空中で、白い球は見えない壁にぶつかって爆発していき、固まった白い物体はバラバラと落ちていく。その一瞬、エッグモンスターはキョロキョロした。気が付けばそこにアポロンは居なかったから。

二極火柱十層(ドゥボージストグニア・ディシアーソ)!」

真下に転移していた。そうエッグモンスターがアポロンに気が付いた時には、すでに紫と朱の猛烈な炎の中にいた。数本の脚と頭が一瞬でちぎれて飛んでいったエッグモンスターの様子に、兵士達は歓喜した。



第90話「暴食の化身」



ただの胴体だけになったものが空高く打ち上げられた。クルクルと回って、そしてピタリと空中で止まる。それを睨みつけるアポロン。するとエッグモンスターは遥か彼方へと飛んでいった。

「ふう・・・。やはりあいつは、捜してるのか」

地面に降りたアポロンは兵士達の方へと歩き、顔の半分が解放された兵士を見下ろした。

「大丈夫か」

鼻呼吸が何とか出来るようになっただけの兵士は片目でアポロンを見上げ、小さく頷いた。それからアポロンが向かったのは、エッグモンスターを誘き寄せる“罠”が置いてある場所。罠といってもそれは蘇りし者の霊気で作った小さな塊。草原に“置いてあるだけ”のそれを拾い上げると、アポロンは空を遠く見上げた。

「しっかし気持ち悪い奴だよな」

アポロンの隣で同じように空を見上げながら、バスは呟く。

「ねー。知り合いの精霊みんなに聞いてみたけど、知らないって」

シーナも裸足で草原を歩きながらそう微笑む。

「だが目的は大体見えてきた。あいつは、蘇りし者の霊気、あるいは蘇りし者を求めてる。理由までは分からないが」

他の場所にも置いてある罠を拾いに兵士達が向かっていき、それから白い球にやられた兵士が回復すれば、そしてアポロン達はゼウス城に帰還した。

「アポローン、お帰りー、どうだったー!」

「現れた。だが蘇りし者が居ないと分かれば去っていった」

「ふーん。やっぱりそうなんだねー」

「しかし倒し方が分からなければ、誘き寄せたとしても意味が無い」

「んー。倒さなくていいんじゃない?へへ」

そうアテナは深刻という概念を知らないかのように呑気に微笑む。

「何だと」

「だからさ、捕獲とか、封印とかでも良くない?」

「まぁ、確かにそうだな」

それから翌日。アポロンはプライトリアのとある広大な草原にやって来た。つまりそこは戦場になっても問題の無い場所。

「では頼む」

アポロンがそう言えば、カンディアウスはダークグリーンの嵐を体に纏った。直後に嵐が真っ直ぐ空に伸びていくと、ガンニアーはウパーディセーサに変身する。そんな3人を、遠くから兵士達が眺めていく。

「本当に、あんな怪物を捕獲出来るんでしょうか」

「さあな」

「セナタ隊長、心配じゃないんですか」

「いやいや、心配するかよ。むしろ信頼しろよ」

「そ、それは、そう、なんですが。でもアポロン様でも怪物を倒せないのは事実ですから」

「何にしろ、負ける事は絶対にない。それが最強の双子だ。オレ達はオレ達の仕事をするぞ」

ティネーラ・セナタが隊長を勤める第6隊の仕事は、周辺の警備、そして“戦場の確保”。

──少し前。ゼウス城内、王間。

「お呼びですか、姫」

「これからエッグモンスター捕獲作戦を始めるの。で、アポロンのサポートを第6隊でやってね」

「分かりました。具体的にはどういう事を」

「場所は適当に広い場所にするんだけど、第6隊でその周りを包囲して欲しいの。入り込みそうな動物とか居たら入らないように、そしてエッグモンスターが出ていかないように、魔法の壁を作って欲しい」

「分かりました」

カンディアウス自身が罠になって霊気を出し、エッグモンスターを誘き出している中、第6隊の20人はそれぞれ広がっていき、霊気検索をしてお互いの位置を視ていく。木陰に隠れて、ティネーラは空高く打ち上げられていくダークグリーンを見上げながら、ふと思い出していた。

「──では、行ってきます」

「あちょっと待って」

任務に向かおうとした瞬間、ティネーラは突然アテナに腕を引っ張られた。そのままスーっとアテナの部屋に入ると、ティネーラよりも少し身長の低いアテナはティネーラに壁ドンした。

「分かってるよね?」

「・・・え。はい、あの、任務はちゃんと」

アテナの人差し指が静かに素早く、ティネーラを黙らせた。

「あたしの部屋に居る時は恋人って言ったでしょ」

「あ、はい、あぁ。はい」

「そろそろ、ちゃんとお父様に言わないとさ。こそこそなんて出来ない。あたし、こそこそが世界で1番苦手なの」

「でも本当にオレで、良いのかな。オレ、全然」

「いいからっ。あたしが決めたんだから。あたしは、決めた事は止めないの。もっとちゃんとしっかりしてよ」

「ごめん」

空から何かが飛んできたのが分かった。ティネーラはそれに目を留めるとすぐに声を飛ばした。それは光壁を作る号令。ティネーラの足元から光壁が作られるとそれはすぐに左右へ伸びていく。それは他の兵士達も同じで、やがてそれぞれの兵士達が作った光壁の両端が繋がると、1つの巨大な光壁の円が出来た。まだ足元までの高さしかない、巨大な光壁の円。それからティネーラはやって来たエッグモンスターを目に留めた。カンディアウスは空に嵐を打ち上げるのを止めて、まるでヘルたちの魔法の鎧のように“嵐”を纏った。

「このまま高く上げろ!」

再びティネーラの号令がかかった。すると兵士達の足元にあった光壁が勢いよく高くなっていき、そして光壁は巨大なドーム状になった。──アポロン様、後は頼みましたよ。

──少し前。ゼウス城、王間。

「アポロン、あたし捕獲の魔法作った」

「助かる。どういうものだ」

「簡単に言うと、網状の光壁と鎖の融合だよ。クウカクを作る時に霊気を網状にイメージするでしょ?その時に、魂子が網状のままでイメージを光壁に切り替えるの。すると網状の光壁が出来上がる。それを(ツェピー)の要領で操る。これでどう?」

「なるほど」

エッグモンスターは空中から、地上のカンディアウスに向かって勢いよく頭を伸ばした。それはカメレオンが舌を伸ばすように。しかしその噛みつきは簡単に拳で弾き返され、それから数本の脚を伸ばして何とか捕まえようとしたようだが、その全てがダークグリーンの嵐に弾かれていく。

「やはり、蘇りし者に執着があるのか」

アポロンはそう呟きながら、ひっそりと網状の光壁を作り出す。それからエッグモンスターはシュッと頭と脚をしまい込むと、瞬時に銃弾のような速さでカンディアウスに向かって突撃した。それを両手で受け止めるカンディアウス。その重さになのか、カンディアウスの足が地面にめり込む。とはいえカンディアウスはむしろ微笑んでいた。

「おらあっ!」

そこに飛び込んだのはガンニアーだった。リッショウをした上で力を溜め込み、青々と燃え上がった拳を叩き込んだのだった。とても重たい音と共に、エッグモンスターは猛烈に吹き飛んでいき、そのまま兵士達の光壁に激突する。

「硬えな。まるで手応えがねえ」

光壁に跳ね返って地面をコロコロと転がって、ちょっと浮き上がった時にシュッと脚を出し着地したエッグモンスター。それからニュルッと頭を出した瞬間、カンディアウスは“嵐の球”を放った。ドカンッと直撃した嵐はそのままエッグモンスターを覆い尽くした。吹雪のように、津波のように、マグマのように、ダークグリーンが延々とエッグモンスターを焼き尽くしていく。

「やはり、これでもあの殻は燃えぬのか」

するとその時だった、ダークグリーンがエッグモンスターの胴体に入り込んでいったのは。初めて見せる様子に、網を投げるのも忘れてアポロンはエッグモンスターを観察する。すると一瞬、エッグモンスターの胴体にヒビが入った。それは全体的な網状のヒビだった。しかしダークグリーンを全て吸収するとヒビは消え、またシュッと頭と脚を出した。

「ほう。力を、食らうのか」

直後にエッグモンスターは大きな白い球を吐き出した。風を切る鋭い音が響く。しかしそんなものはダークグリーンの嵐の前では無力で、爆風が固まった白い塊はボトッと地面に落ちる。だからエッグモンスターは、もう1つ頭を生やした。

「増えたぞ」

ガンニアーは呟く。それからエッグモンスターは双頭から連続的に白い球を吐き出していき、その度にダークグリーンの嵐の中からボトボトと白い塊が落ちていく。そこに、ガンニアーが回り込んだ。エッグモンスターが白い球を吐き出していくがガンニアーは俊敏にかわしていき、そして右手に作ったバーナーのような巨大な青白い剣をスッと振り下ろした。何の抵抗もなく、まるで豆腐でも切るように双頭は切り落とされて、続けてガンニアーはエッグモンスターの胴体を蹴り上げた。高速移動でもって蹴り上げたその衝撃で、胴体が高く打ち上げられる。それを見上げるアポロンはすでに光の網を投げる体勢をしていた。投げられればすぐさま広がっていく光の網。標的を包み込んだ瞬間、光の速さで網は閉じ、そうしてエッグモンスターは一瞬で捕獲された。

「よし」

そうアポロンが呟いたのも束の間、エッグモンスターは暴れ出し、空を飛び回った。光の網に繋がっている光の鎖を握り締め、アポロンは踏ん張っていく。ふと思い出すアテナの言葉。

「捕まえたら、何とかドームの中央に留まらせるの。それで最後の仕上げね。最後の魔法は、光の網から光壁の糸を爆発させるの。こう、ボーン!って」

「・・・ん?」

「光壁のドームはね、単なる壁じゃないの」

アポロンは思い切り光の鎖を引っ張り、何とか光壁のドームの中央へと向かう。そんなアポロンの様子を確認しながら、ティネーラは兵士達にまた号令を出し、光壁のドームを狭めていく。そんな時だった、エッグモンスターがまたもや双頭を生やしたのは。でもすぐにガンニアーとカンディアウスはエッグモンスターの頭をぶん殴る。ガンニアーには一瞬、エッグモンスターの眼が回ったように見えた。だからなのか、エッグモンスターの暴れ具合が一瞬だけ鈍った。

「もっと殴れ、気を逸らす」

ガンニアーが更に高速で3発、拳を叩き込む。カンディアウスも頭がちぎれない程度に殴れば、エッグモンスターの動きが止まった。

「胴体殴るより、やっぱり頭殴った方が効くみたいだな」

狭まっていく光壁のドーム。光の鎖を握り締めながら、アポロンは意識を集中させる。そしてドームの直径が20メートルほどまで狭まったところで、光の網は全方位に向かって無数の光の糸を爆発させた。ピタピタッと光壁のドームに光の糸が届けば、ティネーラ達が光壁ドームと糸を結合させる。これがアテナの考えたエッグモンスターの捕獲装置だった。光壁ドーム、その中央には光の網という二重の壁。二重の壁はお互いにしっかりと融合して、とても強固。エッグモンスターの捕獲成功に、兵士達は歓喜した。暴れるエッグモンスターだが、どんな方向に向かってもあらゆる方向に繋がった光の糸が衝撃を相殺してしまう。しかしアポロンは浮かない顔だった。

「アポロン様、やりましたね」

「まだ油断するな。あいつは、霊気を食らう。もしこの光の檻そのものを食らってしまえば、何も意味が無い」

「眠らせられないのか?」

ガンニアーが尋ねる。

「魂子を食らってしまうのなら、魔法は効かないだろう」

「やっほー」

振り返るアポロン達。光壁ドームの向こうにはアテナが居て、満足げに微笑んでいた。転移でパッとドームに入ってきたアテナはそれから宙に浮き上がり、直にエッグモンスターに触れた。

「アテナ姫」

「大丈夫大丈夫。なるほど。これは、まるで純度100パーセントの霊鉄のようね。でもどんなものでも、自然界で出来たものに純度100パーセントな物質なんてないはず・・・・・じゃあこの生き物って、まさか」

その時だった、エッグモンスターがとてつもない爆発音と共に消えたのは。アポロンは吹き飛ぶアテナを目の当たりにしながら、同時にエッグモンスターが作り出した“空の穴”に光の檻が吸い込まれていく様に釘付けになった。でも空の穴はすぐに消えて、残ったのはちぎれた光の檻だった。

「ど、ど、ど、どえええーーっ。どこ行った!?」

「そう来たか。異次元に逃げ道を作られてしまえば、檻など何も意味が無いな」

「ひえーびっくりしたなぁ」

「アテナ、何か分かったのか?」

「んー。まだよく分かんないかな。純度100パーセントの霊鉄だとして、それが何で生き物として動いてるのか。作られたものだとしても、どうやってかが何も分からない」

「生物って感じはしないけどな。まるでAIみたいな動き方じゃないか?」

ガンニアーがそう言えばアテナは口をポカンと開ける。

「エイアイって?」

「あー、こっちの世界のもんで、人工知能だ。人間のように自分で新しく学習する事はしないが、感情もなく決められた事を忠実に動き続けるプログラム。そういう仕組みっていうか」

「魔法の挙動みたいなもん?追いかける炎の魔法を作ったら、その通りにだけ動く」

「まぁ、そうだな」

「そーかー。作られたもの説はありそうだね」

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