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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「未来に微笑む」前編

「明後日なんですが、我が社と提携しているアントラ病院で年4回開催するチャリティーイベントがあります。そこではいつも、フリーマーケットがあったり屋台が出たりと賑わっているんです。それで今回は初めて、もっと世間にジュピターズを知って貰うという目的で、ジュピターズのコーナーを設ける事になりました。まだまだウパーディセーサ自体を怖がる方は多いですから。ジュピターズのスピーチやサイン会を予定してまして、もしシルヴェルさんも参加して頂ければ、きっと蘇りし者のイメージも良くなりますし、ジュピターズの力の印象も良くなると思うんです」

「蘇りし者のイメージ。我へのイメージは悪いのか?」

「まぁ、シーザーと比べられてしまうと。それに認知度も低いかと」

「認知度・・・我にそんなものは必要か?」

コーヒーを飲もうとしていたルアに問いかけたシルヴェル。

「これはみんなに愛される王になる為の1歩でもあるんじゃないですか?」

「・・・そうか。で、我は何をする」

「そうですね。例えば──」

ダーラにて。ベルセルク本社ビルの最上階、ふとカースベルクは眉を潜めた。それはとある病院からの“宣伝メール”。メールを開けば広告チラシの画像と共に文章があり、“いつものやつ”だとカースベルクはコーヒーを一口。以前、カースベルクはケルタニアのアントラ病院に寄付をした事がある。それが縁で、それから毎回、チャリティーイベントの案内が来るようになった。それはイベント開催より1週間前の事だった。

「何それ」

リビングにある巨大な液晶画面に映し出されてるものだから、ファティマは気になって聞いてみた。

「楽しそうね」

「病院が主催してるチャリティーイベントってやつだ」

「何をするんだ?」

問いかけたのはハクジュソウ。

「沢山の人に集まって貰って、食べ物やらを買って貰う。そしてその集まった金は、社会貢献の為に使う。そんな感じだ。オレも2年前に行った。病院には、金をかけないと助からない人達がいる。患者本人や家族がとても払えるような額じゃない。だからこの病院はこういうイベントを開いて、沢山の人から少しずつ金を貰って、患者を治そうとしてる」

「魔法がないと大変なのね。私行ってみたい」

「ん、そうか。じゃあ行ってみるか」

それからチャリティーイベント当日。



第86話「未来に微笑む」



「まったく、あたしは開店準備で忙しいんだ」

「あら、あなたがやってる訳じゃないでしょ」

顔をしかめたアミセル。けど図星なので反論はせず、アミセルはシェフのエレモナと、料理人を1人を呼び出した。

「ベルセルクのカースベルク様でいらっしゃいますか?」

そんな時にやって来たのは病院の広報担当の女性。

「ん、あぁ、そうです。突然すいません、急に連絡して」

「いえいえ、こちらとしても嬉しい限りです。また寄付もして頂いて」

屋台が並ぶその端っこにアミセルの屋台があり、エレモナと料理人は早速作業を始めていく。

「あなた、病院の人?」

「はい」

「私で良ければ、魔法で病気と怪我を治すわよ?」

「・・・え」

「おい、それが目的だったのか」

「だって、寄付するイベントなんでしょ?なら私は魔法を寄付するわ」

そう言ってファティマは檸檬色の治癒玉をポケットから取り出した。

「この子なら、どんな病気や怪我も治せるわ」

「それは、本当なんですか」

「まぁこいつは一応蘇りし者だからな」

「えっと、少々お待ち下さい、院長を呼んできます」

ファティマは治癒玉と見つめ合い、首を傾げた。何故戸惑ったのだろうと。病気も怪我も治せる魔法に、パッと喜んでくれるかと思ったのにと。

少し離れた所で、パッとシルヴェルとルアは姿を現した。待ち合わせ場所は病院の裏口なので、そこにはスカラサイが居て、それから一緒にイベント会場になっている病院近くの広場にやって来た。

「ん?2人も居るのか」

ボソッと呟いたシルヴェル。イベントは始まる前から、賑やかだった。イベントを準備している人達がすでに生き生きしているから。だからルアとペルーニは顔を見合わせて微笑み合う。

「うおーっ本物じゃねえかシルヴェル!せっかく力を貰ってんのに会った事なかったからな。オレがレッサーで、こっちがオーエンだ」

「よろしくな」

「あぁ」

ジュピターズからイベントに出るのは5人。レッサーとオーエン、そしてササラギとクワイロとハイロ。ジュピターズのコーナーでは「ジュピターズってどういう人達?」というタイトルで動画が流されていて、あとは握手会とサイン会が始まるまで待つだけという状況だった。

「どうも。ジュピターズのリーダーやってます、ササラギ・ソウタです。こっちがハイロで、クワイロです」

「あぁ」

「イベントが始まるまでまだ時間があるので、それまでは自由にして頂いて大丈夫です」

「そうか」

アントラ病院、院長室。

「バナス院長!失礼します」

「どうしたんだい、そんなに慌てて」

「あの、えっと、蘇りし者の方がいらして、病気と怪我を治す魔法を寄付しに来たって」

小さく眉間にシワを寄せたバナス。ふと思い出したのは医療業界で話題になっているサクリアの話。サクリアにあるエル・スタンバール総合病院はとある少女から魔法を買い取っている。それは病気と怪我を何でも治す魔法。その当時は、軽くニュースには出来ないくらい医療業界に衝撃が走った。何故ならそんな魔法が普及したら、たちまち病院は“商売として”成り立たなくなるから。でもエル・スタンバール総合病院の院長は聡明な方だった。魔法という情報を世の中やマスコミに流さなかったから。そしてその使い方も、不治の病にだけ魔法を使うという点で聡明だった。

「こんにちは。私がアントラ病院の院長のバナスです。本日はお越し下さいましてありがとうございます」

「私はファティマ・フォーマルハウト。こっちがカースベルク」

「どうも」

「カースベルク様、今回もご寄付して頂いて本当に感謝してます」

「えぇまぁ」

「それであのファティマ様。ファティマ様に会って頂きたい方々がいるので、ご案内しても宜しいでしょうか」

「え?うん」

カースベルクとファティマ、そして4匹の犬たちは病院に案内されて、とある集中治療室の前にやって来た。

「ここの患者達の病気は、どんなにお金を積まれても決して治る事はありません。再生不良性貧血という病気で、それこそ、ウパーディセーサになって人間を捨てるしか方法がありません」

「ならこの子で治すわよ?」

「はい。魔法を寄付して頂けるなら、是非お願いします」

ファティマと頷き合った檸檬色の治癒玉はスッと浮き上がるとそのままガラスをすり抜けて病室に入っていった。患者達は治癒玉を見て驚いて、ガラスの向こうの院長達を見て、そして歓喜した。何故ならニュースで知っていたから。最近とある街が壊滅して、でもアルテミスのヘルが魔法の球を作って、事件の犠牲者から病院の患者まで片っ端から全ての病気と怪我を治したと。それから患者達は各々叫んだり、号泣したりで喜びを表した。それからファティマの手に戻ってきた治癒玉。直後にファティマの手には檸檬色の光が灯り、治癒玉は“魔力を充電”した。

「ありがとうございます」

「あの人達だけでいいのかしら。全員治しちゃうわよ?」

「あ、あの、それは」

「ファティマ、それはダメなんだ」

「え?」

代わりに発言したカースベルクに申し訳無さそうな表情を見せたバナス院長を見ても、ファティマはただ首を傾げた。

「病院ってのは商売なんだ。怪我や病気をした人から金を貰わないと、病院は治療出来ない。何故なら病院は金で薬を買ってるからだ。病院は、自分達で薬は作れないからな。つまり、患者がいないと、病院は薬を買えない。魔法で病気や怪我が治って、病院から患者が居なくなったら、病院は潰れるんだ。だから魔法で患者を全て治す事は、病院にとっては良い事じゃない」

「そう、なのね」

「人間社会ってのは、相互依存なんだ。お互いが何かを貰って生きてる。病院が無くなったら、病院で働くスタッフの給料が無くなって困る。厄介だろ」

「相互依存・・・」

「私達も、魔法で病気が治ったらどんなにいいかと日々思っています。ですが、もし本当に患者が居なくなってしまえば、私達の生き甲斐まで失う事になってしまいます。なのでファティマ様の御慈悲は気持ちだけ受け取らせて頂きます」

「そう。それなら仕方ないわね」

それからイベントが始まれば、沢山の人達がやって来た。イベントの入場料は自分で決めていい。イベント開始早々、とある屋台に行列が出来た。ほとんどの人達が最初に真っ直ぐ向かったのはアミセルの屋台。その屋台は無料で、ジュエルで作ったミニクレープを作っていた。ジュエルの果肉と、濃厚なジュレソースがとても好評だった。別の屋台の、肉の加工の過程で出た端材で作った一口大サイコロハンバーグ串も人気で、それをファティマやボンたちも食べながら、イベントの賑やかさをただ眺めていた。

そんな一方、ジュピターズのコーナーでは静かにサイン会と握手会、レッサーとオーエンとの撮影会が行われていて、そして子供達の何人かは“光剣獣とのふれあい会”に並んでいた。

「わー、ツルツルだー。なんだこの犬」

「鳴き声かわいいー」

ちょっとだけ工夫して、シルヴェルは光剣獣を可愛くした。今までは目も口も無い、ロボットのような見た目だったが、今回は“生物”にした。光剣そのものではあるがドラゴンの要素も混ぜ、目も口もある光剣獣を作った。それはスカラサイの提案で、だから子供には人気だった。

「シルヴェルさん、写真撮って貰えませんか?」

若い男女がそう言ってきたもんだからシルヴェルは戸惑った。本来は光剣獣を作るだけでいいと言われていたのに。

「ありがとうございました」

「わー。レアだ」

でも笑顔で去っていく男女を眺めながら、シルヴェルは妙な気持ちになった。王という存在はあまり庶民とは関わってはならない。高貴な存在でなければならないから。そう父も言っていた。だが今はそんな時代でもないし、こういう距離感も悪くないのかも知れないと。

「お前達は、何故人気者になりたいのだ」

シルヴェルがそんな質問を投げかけたのはレッサーとオーエン。

「え?んおー、何でって、楽しいからだ。こうやってさ、楽しい雰囲気を作ってやるのって、面白いし楽しいだろ」

「楽しい雰囲気を作るのが楽しい、か」

「シルヴェルも出てみるか?オレらの動画」

一方、カースベルクはタブレットを見ていた。美味しいものを食べた後は少し退屈だったから。でもそんな時、何やら騒がしさを感じてふと目を向けた。病院の方からやって来たその人達は患者の服装だった。

「おーい!どこだー!」

何やら必死そうな声だった。だから振り返る人達も誰かを捜してるだけかと、逆に目を背けた。

「あ!いたぞ!あのでかい犬と女だ」

何やらこっちの方に走ってやって来る、めちゃくちゃ元気な患者服の男性。

「お前だろ!」

「え?」

そしてその男性が声をかけたのはファティマだった。

「お前の魔法だろ?オレを治したの」

「あなた、さっき病室に居た人ね」

「あぁ」

「良かったわね。元気になって」

「何でオレ達だけなんだ」

「え?」

「まだまだ病気の奴が沢山居るのに、何で魔法を止めたんだ」

「それは院長が、止めて欲しいって」

「院長が?」

「患者が居なくなったら、病院が潰れるって。病院のスタッフも生き甲斐が無くなるって」

「あ?生き甲斐だ?患者の命なんかどうでもいいってのかよ!」

「でも、お金で治せない患者は魔法で治していいって」

「チッ結局そうなのかよ。どいつもこいつも金か」

「なぁ」

まるで抑えてたものが溢れるように、何かに対して怒りを滾らせる男性。そんな時だった、カースベルクが声をかけたのは。

「何にそんなに怒ってんだ」

「何にって、おかしいだろ?病気も怪我も治る魔法を何で使わないんだ」

「この前の、ビンナーの事件知ってるか?」

「ドラゴンが暴れて、でもアルテミスの奴が魔法で、犠牲者だけじゃなく病院の患者まで全部治したって」

「それでそこの病院はどうなったと思う」

「どうって、怪我人のパンクを免れたんだろ」

「病院の患者が一斉に居なくなった事で、最初は内科外来以外のほとんどの業務が停止になった。でもそれじゃ経営が成り立たないから、近く一旦閉鎖する事も考える事態になったらしい。しかもビンナーのいくつもの病院がそうなった。どれほどヤバイ事か分かるだろ?」

「それは・・・」

「まぁ、それでも周りの街や、国境を越えて病院から患者を分けて貰って現在は問題無く病院は患者でいっぱいだ。つまり、病院にも患者にも、お互いの存在が必要なんだ。そのバランスを崩しちゃならない」

「じゃあ、発展途上国の奴もか?」

「それは・・・」

「金が無い奴らにも魔法は使ってやらないのかよ」

カースベルクは言葉に詰まった。その態度にファティマも何も言えなかった。というよりハッとした。思い出したのは蘇りし者になる前の事。──私は、恵まれてた。一度、王子に聞いた事がある。どうして貧困の民を助けてやらないのかと。でも彼は言った。どんなに裕福でも、世の中のバランスを変えられるほどの力なんか無いと。

「・・・分かったわ」

「・・・え?」

「発展途上国の人達、私が助ける」

「そんなに簡単な事じゃない。いくら魔法があったって、世の中にはバランスというものが存在する。存在しなきゃならない」

「大丈夫よ。私は、1人じゃないから」

そう言ってファティマはボンの頭を撫でる。それからイベントは無事に終わった。穏やかな表情で自分の場所を片付けるシェフ達を見守るアミセルに、ファティマは歩み寄る。

「参加してくれてありがとう。あなたのお陰で人も沢山来たし」

「たった1品しか作れなかったのは退屈だったがな。良いものは出来たから良しとしてやる」

「あなたは作ってないわよね」

「あたしの力だ!」

「そうだ。私、これから貧しい国に行くの」

「何をしに?」

「お金が無くて病院にも行けない人達を助ける。あなたも時々でいいから手伝ってくれないかしら」

「大層な事を。まぁ、時々なら手伝ってやる」

「うん」

イベントが終わってベリカニアにて。シルヴェルの家がある街で、レッサーとオーエンは動画を撮り始めた。

「イエーイ!みんな!レッサー&オーエンだ!今日は何とオレらの裏ボス、シルヴェルが居るんだぜ!見ろよすごいだろ!」

「そんで今日はちょっと面白い事を発表するぜ。オレらが所属するジュピター・コーポレーションが主催して、チャリティーイベントを開催する事になったんだ。開催する場所はケルタニア中の記念公園だったりで、全10回を予定してるんだ」

動画を撮り終え、隣にお座りさせていた“可愛い光剣獣”を見下ろしながら、ふとシルヴェルは思い出していた。それはアントラ病院のチャリティーイベントが始まる前、家にスカラサイが来た時の事。

「──例えば、シルヴェルさんのお力をもっと沢山の方々に知って頂いて、親しみを持って頂くのはどうかと。シルヴェルさんの力が欲しいと思わせるより、シルヴェルさんのお力に守られていれば安心だと、そう思って貰えるようになったら、その方がいいのではと思うんです」

「なるほど」

「なのでこれから、シルヴェルさんには我が社で主催するチャリティーイベントに主役として参加して頂きたいんです。それでアントラ病院のチャリティーイベントで、チャリティーイベントとはどういうものかを感じて頂ければと思います」

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