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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「摩擦が引き寄せるもの」中編

「けど、こいつ幽霊だろ?この時代の食べ物の扱い方分かるのか?」

「ただ蘇らせたのではない。元々、技術を持った霊魂にこの食べ物の霊魂も合わせて蘇らせた。だからもう、シェフはこの食べ物が何かも、扱い方も知っている」

「そんな事も出来るのか」

色々な道具を取り出し、手際良く仕事をしていくシェフを、アミセル達は黙って見つめる。それから2時間ほど経てば、ダイアモンドパインとドラゴンフルーツのタルトケーキは完成した。キッチンに戻って来たアミセル達。切り分けられたタルトケーキを一口食べれば、2人はあまりの美味しさに絶句した。

「・・・・・これはうめえな。このクリームは」

「パイナップルとドラゴンフルーツの果汁をそれぞれ合わせています」

「ただフルーツを乗せてる訳じゃないのか」

「ご苦労」

「はい」

「では行くぞ」

タルトケーキを乗せた皿に、よくレストランで見るようなステンレスのフタを乗せ、クラウン達は転移した。大地の大樹の前にやって来れば、また大地は道を作り、木々は道を塞ぐ。ふとクラウンは思った。──意外と“客が来る事”は好きなんだな。バサッと木々が開けるとそこにシーザーが立つ。

「それは」

「驚け。お前が絶対にしない事をしてやった」

自分が作った訳じゃないだろ。そうクラウンは言葉を飲み込みながら、フタを持ち上げた。

「さあ、食べろ。最高級のパイナップルとドラゴンフルーツで作ったタルトケーキだ」

シーザーは全く疑い深い表情を見せなかった。それはまるで純粋に嬉しがる美食家のよう。スッと手に取り、タルトケーキを一口食べれば、シーザーは眼を見開いて絶句した。

「・・・・・・敵わないな」

「フッフッフ、そうだろそうだろ」

逆に眼を見開いたクラウン。こんなんで勝負が着くなんてと。

「これで桃の借りは返した。返すどころか、これ以上のものをお前では用意出来まい」

一口、また一口と、本当に美食家が食事に魅入られているようにタルトケーキにかぶりつくシーザー。やがてタルトケーキを食べ終えるとその表情はどこかスッキリしていた。

「これを作ったものに心から敬意を表する」

「あたしが作ったも同然だが」

するとシーザーは鼻で笑い、何やらすぐそばに立つ木に手をかざした。

「まぁいい。シーザー、これでお前はあたしの支配下だ、覚えておくがいい」

「勝負はまだ決まっていない」

「何だと?今負けを認めただろ」

「お前には敵わないとは言っていない。オレが敵わないと言ったのは、料理にだ。確かにオレは料理はしないからな」

「さっきから何をしている」

シーザーの目の前の木は急速に成長し、1つの果実を実らせた。それはラグビーボールくらいの大きなもので、何やら刺々しくて、鮮やかな黄色だった。どこかパイナップルのような見た目のそれをもぎ取れば、シーザーはその果実をいつの間にか持っていた包丁で真っ二つに切り裂いた。首を傾げるアミセル。鮮やかな黄色をした果実の中身は真っ白で、所々に黒い粒があった。

「何だ、それは」

しかしシーザーは応えず、一口大に切り取った実をアミセルに差し出した。黙ってそれを食べるアミセル。するとアミセルは絶句した。

「・・・・・あり得ない」

「どうしたんだよ」

そう言ってクラウンもシーザーに差し出された、知らない果実の一片を受け取って食べてみる。

「何だって!さっきのタルトケーキまんまじゃねえか!パイナップルとドラゴンフルーツが融合した甘さと香りだけじゃない、果肉の食感は生クリームのように滑らか。しかも黒い種がタルト生地のようにサクサクだ。どうなってんだよ!」

「オレは、味や食感、その全てを“実らせる”」

「・・・こんな、事が、出来るとは」

「そうだな、この果実は、“タルトパイン”と名付けよう」

「・・・くっ!またしても。いや、これに関しては引き分けだ、お前は再現しただけ」

そう言うとアミセルは残り半分のタルトパインをシーザーからぶんどった。

「これで、お前を負かすものを作ってやる。行くぞクラウン」

「お、おう」

城に戻ったアミセル達。キッチンに行けば、シェフは食器洗いをしていた。

「悪いシェフ。勝てなかった」

「え」

「いや、お前が作ったものは完璧だ。だが、これを食ってみろ」

「何ですかこれは、見たことがない」

「シーザーが実らせた果実だ」

スッとナイフを入れ、シェフは果実を一口。

「・・・・・なんと。これはすごい」

「これはタルトパインという。これを使って、もっと美味いものを作れるか?頼む」

ふとクラウンが思ったのは、いつも自分に対してのものとは違う、シェフに対しては敬意を忘れないアミセルの態度。

「・・・・・アミセル様のご指示とあれば、やってみます」

大地の大樹。アミセル達が消えていった直後、そこにやって来たのはベリカニアの自警団シュナイベルのリーダーであり、シーザーの親衛隊にもなったウルスだった。ウパーディセーサの姿で空を飛び、まるでヘリコプターでやってきたかのように大地に降り立ったウルス。

「シーザー様」

「ウルスか」

「今日は珍しい果物を持ってきたんですが、それともし良かったら、こちらも」

人間に戻ったウルスは保冷バッグを開け、捌いたばかりの肉の塊を差し出した。

「肉、か」

「シーザー様は、果実しか食べないとは言っていないですよね。なので、どうかなと」

「何の肉だ」

「これは牛です。知り合いの酪農家に譲って貰った、最高級のA5ランクの肉です」

頷いたシーザー。すると体から“ナイフ”を生やし、肉を一口大に切り取って口に運んだ。

「良い肉だ」

「肉にも色々ありまして、魚だったり、大豆から作ったものもありますので、また色々持って来ます。あの、それは」

ウルスが見たものに振り返るシーザー。それはタルトパインの木で、果実が1つ実っていた。

「これはタルトパインだ」

「何ですかそれ」

「オレが作った」

「え?えっと新種の果実って事ですかね?シーザー様オリジナルの」

「厳密にはオリジナルじゃない。ある者が持ってきたタルトケーキを“実らせた”」

そう言ってタルトパインをもぎ取ったシーザーは、それを半分に切り、更に一口大に切って見せた。まだ事態が飲み込めないものの、差し出されたからウルスはそれを食べてみる。

「これはっ・・・すごい!ケーキですよこれ。シーザー様は、何でも果実で再現出来るんですか」

「あぁ」

「すごすぎる。さすがです。これ、ぜひ、沢山作ってみんなに食べさせたら良いと思います」

「なら、毎日取りに来い」

「はい!・・・美味いな、これ。てことは、肉も出来るんですか?」

一瞬だけ遠くを見たシーザー。するとシーザーはすぐ目の前に2メートルくらいの木を1本生やし、その枝元から“雫の形をした赤と白の果実”を実らせた。早速それをもぎ取り、シーザーはウルスに差し出す。

「え、果実ですか。てっきりシーザリアンで再現するのかと。・・・ずっしりですね。形はパパイヤのような、香りは、リンゴですね」

「ベースはリンゴだ」

「・・・ん!美味い!すごい、リンゴの香りはするけど、食感はまるで生肉そのものだ。とろけながらほのかにリンゴの甘みが・・・シーザー様、すごいです」

「それは、サーロインアップルと名付けよう」

「サーロインアップル・・・」

それから3日も経てば、タルトパイン、サーロインアップルは大ニュースとなって世界を駆け巡った。まるでケーキのようなパイナップル、サーロイン肉のようなアップル、その衝撃的な美味しさは沢山の人を魅了した。人々はシーザーに殺到し、2つの“シーザリアンフルーツ”は世界中に流通し始めた。

ダーラ、アミセルの居る古城。キッチンでアミセルは腕を組んでいた。目の前には料理があり、2人のシェフが味見をするアミセルの顔色を伺う。そんな時にそこにやって来たのはクラウン。

「タルトパイン、すげー人気だってさ。しかもこれも」

そう言ってクラウンはサーロインアップルをテーブルに置く。

「あいつは本当に“実らせる”事で世界を魅了して、支配してる。ほんとすげえよな」

「黙れ」

「まだ決まんないのかよ、シーザーに持っていくメニュー。全部美味いんだからどれでもいいだろ。どうせ再現されるかも知れないけど」

「うるさい。確かに全部最高の料理だ。だが、何故だかこれではまた引き分ける気がする」

「んー。確かにな、何の味でも再現か。それなのに真正面から勝負しようなんて、変わってるな」

「あたしのシェフは最高だ。再現されるなど我慢出来るか」

「アミセル様、1つ宜しいでしょうか」

「何だ」

「料理とは、おもてなしです。それは1品だけとは限らない」

「ん?」

「コースです。シーザーをここに連れて来て、フルコース料理を食べさせたらどうでしょうか」

「いや、食事の魅力は料理だけではありません」

もう1人の料理人も口を開けば、アミセルは首を傾げる。

「誰とどこで、どんな料理を食べるか。食事の思い出はそういったシチュエーションが全て合わさって生まれるもの。食事を楽しんでいる時間そのもの、思い出は決して果実には出来ないと思います」

「・・・思い出」

「なるほどな。おもてなし、か。オレは良いアイデアだと思うぞ」

それからアミセルとクラウンは大地の大樹にやって来た。するとその時は何やら先客がいて、“先客達”は大量のシーザリアンフルーツを貨物機に乗せていた。5機の貨物機が飛び立って静かになってから、アミセル達はのんびりとシーザーに近づく。

「毎回、あんなに持っていくのか?」

「世界中に流通させるというからな」

シーザーが振り返れば、アミセル達もその先へと目を向ける。その大地の大樹と呼ばれる広大な土地の一角にはいつの間にか広大な農園があり、大量のフルーツが実っていた。

「魔力は尽きないのか?自然の速さじゃないんだろ?」

「これくらい、なんてことない。太陽光や空気中の水分、それらを魔力の源にしている。その光合成のような魔力変換をやっているのはホールズ中のシーザリアンだ。そしてあの大樹には莫大な魔力の貯蓄がある」

クラウンの問いかけに応えるシーザーの表情はどこか満足げで、そんな初めて見るシーザーの“穏やかな顔”にクラウンは渋い気持ちになった。

「お前は、本当に、大地なのだな」

「何の用だ」

「ああ、お前を招待しに来た」

「招待?」

「あたしのシェフは最高だ。お前でも決して果実などには出来ない。それを証明する」

「ほう、面白い」

「2日後、夜7時、あたしの城に来い」

「良いだろう」

城に戻って来たアミセル達。ついでにその手にはタルトパインとサーロインアップルを持って。

「人数を増やすか」

キッチンで掌をひっくり返したアミセル。それからキッチンに並んだのは5人の料理人。

「この2つのシーザーの果実をメインに使って、フルコースを考えてくれ──」

同時にアミセルが脳裏に思い出しているのはシーザーとの会話。

「良いだろう。ならオレも連れを招待しよう、数が多い方が良いだろ。決まったら伝える」

「──来るのは2日後。人数はまだ決まってないが、それまでにフルコースを完成させてくれ」

「かしこまりました!」

5人の料理人が声を揃えて力強く返事をすれば、アミセルは満足げに頷いた。ふとそんな横顔を見ながら、クラウンはぼんやりとサーロインアップルに目線を流す。王間にやって来ると、アミセルは何となく強めにクラウンの手を引いてソファーにクラウンを座らせる。そしてアミセルはすぐにその膝の上に座り、クラウンに唇を重ねた。

「必ず勝ってみせる」

「店でも開いたら良いんじゃないか?」

「何故だ」

「いや、お前、生き生きしてるから。シーザーを見た時にも思った。ちゃんと“生きてる”って。お前だってずっと城に居ないで外に出たらいい。多分、それがお前の生き甲斐だ」

「生き甲斐・・・」

「お前が、シェフ達と向き合ってる時とか、シェフを自慢してる時とか、良い顔してる」

「ならば、お前は永遠にあたしの夫だ。それを約束してくれるならお前の言う事を聞いてやってもいい」

「・・・フッ何だそれ」

ベリカニア、シルヴェルの居る家。そこにやって来た1体のボルテクス。スタスタと庭に入ってきたボルテクスに気が付いたヘルが庭に出ると、ボルテクスの頭の花が大きくなった。

「オレだ」

「(お、スピーカーになった。何か用?)」

「2日後、アミセルの城で食事をする。時間は夜の7時だ、共に来い」

「(・・・・・なんじゃそりゃっ)」

「アミセルから招待されたんだ。オレの果実で最高に美味いものを作ってやるとな。興味あるだろ」

「(仲良しだったの?)」

「そうじゃない。これはあいつなりの戦いだ。タルトパインは、元々アミセルのシェフが作ったものをオレが実らせた。するとアミセルは、果実に出来ないものを作ってやると躍起になってる」

「(ふーん。確かにタルトパインは本当に美味しい。しかもそれで料理か。行ってみたい)」

「お前達も5人ほどで向かえばいい。オレも4人ほど連れていく」

「(分かった。ここに伝えにきてくれたって事は、ルアとシルヴェルを誘いたいって事でいいんでしょ?)」

「あぁ」

「じゃあルアに伝えとくね」

「あぁ」

シルヴェルの家のリビングで、シルヴェルとルアにそんな話を伝えると、ルアはただキョトンとした。

「分かった。他に誰を誘うんだ?」

「(そうだなぁ)」

そして2日後。ルアはシルヴェルの家で、普段は絶対に着ない優雅なワンピースドレスを着ていた。照れ臭そうに笑う相手はシルヴェルとヘルとペルーニ。

「(いいなー。ボクは服を着る文化が無いもんなぁ。シルヴェルもちゃっかりスーツ着てるけどさ。別にドレスコードなんか無いんじゃないかな?)」

「でもルア、とてもキレイだよ」

そう言ってペルーニが笑顔を浮かべたところで、「こんばんは」とシルヴェルの家にやって来たのは気品のあるワンピースドレスを着たテリッテ。

「(わあ、テリッテもオシャレしてる)」

「えへへ、どうかな」

「キレイ」

ルアがそう言うとテリッテは楽しみが溢れんばかりの笑顔を浮かべる。

「(それにしても、アミセルって読めないよね。全ての蘇りし者を支配するとか言ってるくせに、食事に招待なんてさ。これも支配なのかな)」

「んー。どうだろう」

「でも、これでアミセルも平和な人だって確信出来るよね」

「(えー、テリッテ、それはまだ早とちりじゃない?)」

「そうかなぁ」

「(例えばさ、ど、どく──)」

「ヘル、そんな事考えたら美味しく食べれない」

「(そういう問題?)」

それからインターホンが鳴り響けば、やって来たのはヘリオスとレイカ。

「こんばんは」

テリッテが笑顔で声をかければヘリオスは冷静に返事をして、レイカは女の子らしく翼人にテンションが上がった。

「犬2匹は、招待に含まれるのか?」

「(含まれない想定で行くけど、何か貰えるよきっと)」

「まぁそうね。貰えそうになくても、何かちょうだいって言うし」

「そうか。で、最後の1人は?」

「(それでさ、考えたんだ、何でアミセルはシーザーを誘ったのかって。元々蘇りし者に宣戦布告するような人だし、しかもシーザーもシルヴェルを誘いたかったみたいだから、もしかしたらアミセルは蘇りし者に関わりたいのかなって。で、ダメ元で誘ってみたんだけど、そしたらオッケーしてくれたんだ、ディンクルス。ヘリオス達も来たし、迎えに行ってくる)」

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