「炎が照らすもの」後編
ベリカニア、シルヴェルの家。庭でペルーニと一緒に畑を耕していたヘル。するとそこにバッパードがやって来て、妙に騒ぎ出した。
「(え?仲間が戦ってるの?どこで?・・・分かんないかぁ。でも心配だよね。どうやって捜したらいいんだろ)」
「パー・・・」
「(大丈夫、何とかしてみる。ペルーニ、ごめん)」
「うんいいよ。畑はゆっくりでいいから」
バッパードを背中に乗せながら、ヘルは家に入る。
「(ねえシルヴェル、どこかでシーザリアンが戦ってるみたいなんだけど、気配感じたりしてない?)」
最近買った良いリクライニングチェアに座って目を閉じていたシルヴェルは、ゆっくりと目を開けた。
「もう視ている。先程から、2人ほど蘇りし者が現れ、蘇りし者と戦っている。その中にシーザリアンも居る」
「(どんな人達が戦ってるの?)」
「先程来た、ファティマという者と、知らぬ顔達」
「(ファティマ、シザリハウンドたちと仲良く来てたし、きっとあの犬たちだ)」
「パーッ」
「(戦況は?)」
「ほぼ互角だ。気にかかるのであれば、赴いてみるか?」
「(んー。何で戦ってるかは気になるし、行ってみようかな)」
「パーッ」
「(えっ。みんなも連れてくって、ど、どれくらい?)」
「ならば飛ばしてやろう」
ダーラ、アミセルの居る古城。
「雷刃十層!」
右足が何倍も膨れ上がったかのようにシアンの電気を纏うと、レグリムは刃そのものとも言えるような足で突撃してきて、ファティマはそれを剣で受け流す。でもその瞬間の衝撃は凄まじく、辺り一面にシアンの火花が飛び散っていく。バチンッバチンッと1つ1つの衝撃は重たく、何度目かの衝撃でファティマは体勢を崩してしまうがその直後に炎のシザリハウンドが檸檬色の炎を纏い、レグリムに突撃した。
「くっ」
まるで火だるまの鉄球がぶつかってきたかのようにレグリムも体勢を崩すと、そこにファティマが檸檬色の炎の刃を放ち、レグリムは吹き飛んだ。
「雷矢十層!」
ファティマは反応が遅れた。レグリムが吹き飛んでいく事に気を取られていた。だから雷矢に気が付いた時にはどうする事も出来なかった。
「チッ」
でもファティマは無傷だった。何故ならファティマの目の前には、檸檬色の光を淡く纏う岩の壁があったから。そして直後、ファティマの横を“吹雪”が通り過ぎていく。それは檸檬色に色付いた不思議な吹雪。思わず翼でガードしたエメリスだが、すかさずその場から離れた。それは吹雪と言えど、かなり冷たく、一粒一粒が鋭利だったから。
「翼が凍るところだった。また力が増すなんて、やっぱり蘇りし者の力は侮れないわね。今の内に蹴散らした方が良さそう──」
その瞬間、エメリスの両翼は凄まじくインディゴの電気を纏う。それは眩しすぎて、バチバチとうるさくて絶対に近付けない威圧感。
「千雷!」
思い切り広げられた翼と同時に、大爆発する電気。それは全方位を襲う雷矢であり、雷槍でもある。バルコニーも庭の木々も関係なく、周囲の全てにバチバチと雷が落ちていく。
「くっ」
無差別な雷に吹き飛んでいくカースベルク。炎のバリアで防いでいたものの、降り注ぐ雷は1つ1つが鋭く、やがてファティマは雷の雨に呑まれていった。
「ワウワウ!ワオーン!」
岩のシザリハウンドの全身から溢れていく、無数の檸檬色を纏う岩片。それらは花びらが集まって花になるように複数の岩の壁となり、ファティマ達を守っていく。それから、レグリムも両翼にシアンの電気を纏う。
「千雷!」
レグリムから大爆発した電気。それはエメリスのとは性質が少し違い、雷刃のように鋭利で、雷弾のように重たい。やがてバルコニーは崩れ落ちた。木々は燃え、倒れていく。
「アミセル、何でもいいから追い払った方が良いぞ。ここが住めなくなったら出ていくからな?」
クラウンがそう言ってようやく、アミセルは立ち上がった。そんな時だった、光剣獣が2体、エメリスとレグリムに突撃していって大爆発したのは。
「くっ何だってんだ!」
「(大丈夫?)」
2色の千雷が空気に溶けて消えていく中、ファティマはヘルの姿に気が付いた。
「どうしてここに」
「パーッ」
「ワウワウ」
「(このバッパードがさ、仲間を助けたいっていうから。何とか来てみた。さっきシーザーにSOSが来て、それをバッパードたちも感じたみたいで)」
「パーッパーパー」
「ワン」
それからファティマは辺りを見渡した。するといつの間にか、辺りには10体のボルテクスが居た。
「何なんだい、そいつらは」
「(ん?うわお、2人とも変身系なんだ。この動物たちはシーザリアン。蘇りし者のシーザーって人の力だよ)」
「シーザー。なるほど、最初から視ていたか。それで手下を寄越したと。で、あんたは?蘇りし犬だとでも?」
「(えっとー。ボクはただの犬だけど)」
「さっきの力は、明らかにシーザーの霊力とは別物だったぞ」
「(さっきのは、シルヴェルっていう蘇りし者の力。言っとくけどね、ボクと戦うならシルヴェルの力がついてくるから)」
「ほう、それは面白いね。倒しがいがあるってもんだ」
「(何でそんなに戦いたいの?)」
「戦いに理由なんてないさ。ただ戦うだけ、そして勝ち、生き残る」
「(生き残る?何から?)」
「それは、私達に勝ったら教えてあげるわ?」
「(好戦タイプの蘇りし者なのか。ならしょうがないか。フェニックスソウル!)」
ボウッとヘルが燃え上がると、バッパードやシザリハウンドたちは一瞬だけビクッとして、ファティマは小さく首を傾げた。
「あなたも燃えるのね」
「(へへっボク達、力の性質が似てるんだね)」
「なら合わせられるかも知れない」
「(うん。でもこれだけじゃない。相手は蘇りし者で2人だから)」
そう言いながらヘルが取り出したのはリッショウボール。それを名札にぶら下がったペンダント型の濃縮魂子安定装置に嵌める。その直後、ヘルの気迫と存在感は一気に膨れ上がり、バッパードは思わず「パーッ」と驚く。
「あんたに勝っても意味無いけど、邪魔するなら容赦はしない。雷矢十層!」
「フェニックスダイブ!」
突撃していくヘル。真っ直ぐ雷矢にぶつかっていき、そのままインディゴの電気を蹴散らした。目を見開くエメリス。そのまま一瞬でエメリスにぶつかっていくと、負けじとエメリスもヘルを受け止めながら全身から放電する。
「おらあ!」
そこにレグリムが足で掴みかかり、ヘルはエメリスとレグリムに挟まれる。それでもヘルはまるで岩のように空中で動かない。足に力を込めるレグリム。
「フェニックスエクスプロージョン!」
炎と光の大爆発。とっさに離れようとしたものの間に合わず、エメリスとレグリムは吹き飛んだ。そこにファティマが飛び上がり、檸檬色の炎の刃でレグリムに斬りかかった。ボウッと振り下ろされた炎。更に吹き飛んだレグリムはそのまま墜落した。
「ぐはあっ!」
「雷槍十層!」
エメリスの嘴から放たれた雷槍。しかしそれは炎と光の壁に阻まれてヘルの目の前で止まった。バチバチと電気と炎と光がぶつかり合う。
「だったら──」
両翼に電気を溜めていくエメリス。するとそんな時だった、檸檬色を纏う岩片がエメリスを襲ったのは。グサグサと刺さっていく岩片。
「があっ!」
「エメリス!」
素早く飛び上がった瞬間、レグリムは檸檬色の吹雪に襲われた。全身から放電しながら翼でガードするものの、そこに背後からボルテクスがタックルを仕掛けた。
「くっ・・・ぐあああっ」
吹雪が止めば、レグリムはゆっくりと倒れた。起き上がろうとするも体の所々が凍りついて立ち上がれない。体中から出血するエメリスはゆっくりと降下していき、やがてレグリムの近くに着地した。
「ふう・・・ふう・・・」
「(もう降参でしょ?)」
「降参なんか、しないわよ。こんな退屈しのぎ、他に無いからね」
「だが、勝機は無い」
振り返るファティマ。そこに居たのはアミセルだった。ふと内心でヘルは首を傾げた。きっと蘇りし者だろう。でもその人の臭いとは別に、その人からは知ってる臭いがしたから。──この臭い、まさか。
「あんたは?」
「あたしはアミセル。お前達を寄越したのは誰だ」
「寄越したって・・・」
呟くファティマ。
「差し詰め、こちらの世界の蘇りし者を偵察にでも来たのだろう。そしてそれはお前達の意思ではない」
「そうなの?」
「フフッ半分はその通りよ。でも戦いは私達の意思。それに偵察じゃないわ。倒す為に来た」
「残念だな」
見た目は10代の女性。しかし醸し出している雰囲気は決して子供ではない。まるで王を前にしているかのような重厚な威圧感がある。そんな意味深な微笑みに、エメリスは目を細める。
「お前達は、ここで死ぬ事になる。あたしの意思1つでな」
「私達を嘗めるな」
エメリスは真っ直ぐアミセルを睨み、その眼差しをアミセルも真っ直ぐ見返す。そしてアミセルは徐に手を前に伸ばし、掌をひっくり返した。一瞬だった。巨鳥の姿のエメリスが、インディゴに淡く光る霊魂になったのは。
「エメリス!お前、何した!」
「生と死をひっくり返してやったのだ。まぁ元よりあたし達は蘇りし者。死ぬという事は元に戻るという事でもある。あたしは、生と死を司る」
「くっ・・・」
レグリムの表情が怒りに満ちたその直後、アミセルは再びインディゴに光る霊魂に手を伸ばし、掌をひっくり返した。
「・・・・・ハッ」
「エメリス!」
「私は、今・・・死んでいた・・・。何も、体の感覚が無かった」
「ただ、お前達が今後、私の手足になるのなら生かしておいてやる」
「・・・何だと」
全身が重たいレグリムは、怒りで震えていた。無意識に地面を握り締め、みしみしと土がえぐれていく。
「あたしは、戦争など低俗な事はしない。誰も殺さず、支配する」
「支配して、どうしようってんだ!」
「無論、それがあたしの存在意義だからだ。あたしは生まれた時から王だった。あたしは、人を生かし、殺す側の人間。戦う側でも、支配される側でもない。それだけだ」
エメリスとレグリムはただ敗北を感じていた。このアミセルという者は実際、自分では戦わずに勝利を手にした。そして自分達を支配した。
「お前達に忠誠心があり、お前達の世界に帰るというなら好きにすればいい。だが、あたしに逆らうなら、お前達を無に還す」
半獣の姿に戻ったエメリスとレグリム。ヘルの目には、2人がしょんぼりしているように見えた。それからバサバサと羽ばたいて飛び上がれば、エメリスとレグリムは去っていった。
「それで、お前は?」
パッとヘルを見たアミセル。
「(え、ボ、ボクは、その、このバッパードとか、そのシザリハウンドたちの知り合いっていうだけで)」
「シルヴェルがどうとか言っていたが?」
「(じゃあボク、そろそろ戻るよ)」
パッと消えたヘルとバッパード。突然の脅威というものが去ったところで、ファティマはふとアミセルの服装に目を留めた。それはまるで寝起きだったから。スーッと炎のドレスを消しながら、ファティマは歩み寄る。
「もっと速く来ればバルコニーは無事だったんじゃない?」
「あたしが生と死を返すのは人だけじゃない」
そう言うとアミセルは手を伸ばした。手を伸ばした先へと顔を向けるファティマ。カタカタと浮き上がるバルコニーの瓦礫。そして宙を舞う瓦礫がバルコニーのあったところに集まれば、程無くしてバルコニーは復元された。
「壊れる前と後を返す事も出来るが、あまり好きではない」
「どうして?」
「石には感謝されないからな」
そう言ってアミセルが城に戻る傍ら、ファティマは元の姿に戻ったシザリハウンドたちを撫でていく。
「ありがとう、一緒に戦ってくれて。頼もしかったわ?」
シザリハウンドたちが目一杯尻尾を振るそんな可愛らしい姿を見ながら、カースベルクはふうと溜め息。
「まさか異世界にも居るなんてな。そういや蘇りし者って、誰が蘇らせてるんだ」
「クラウンよ?」
「え、誰だよ」
「言ってなかったかしら。昨日、アミセルと一緒に居た」
「あいつが、今までの蘇りし者を全て蘇らせたのか?」
「それは分からないけど。少なくとも私が蘇った時、目の前にはクラウンが居た」
「あいつが・・・。ちょっと聞いてみるか」
城に入ってクラウンを捜すと、クラウンはアミセルと共に王間に居た。と言ってもクラウンはソファーで寝っ転がるくらいな体勢で座って雑誌を読んでいて、とても執事のようには見えない。
「あんたは、今までの蘇りし者を全て蘇らせたのか?」
「え?何だよ急に。そうだけど?」
カースベルクには目もくれず、クラウンはパラッと雑誌をめくる。
「何でまたそんな事」
「使わないと勿体ないからな」
「何を」
「蘇りし者ってのは、超濃縮されたテムネルっていう魔力の塊から生まれるんだ。そのテムネルの魔石はある時大量に出来て、でも強すぎる魔力が込められて危険だから回収される事になったが、でもせっかくだから、オレが何個か拾って、蘇りし者を生み出したって訳」
「せっかく、だから?別の使い方は無かったのか?」
「例えば?」
「いや、そう言われると・・・聖剣とか?」
「聖剣?・・・何かのゲームの話か?」
「何だったら、オレに1つくれないか?次に異世界から蘇りし者が襲ってきたら負けない為に。オレじゃ全然敵わないから」
「まぁ、それならいいか。どんな剣が良いんだ?」
雑誌を閉じたクラウン。でもだらけた体勢は変えずにカースベルクに顔を向ける。
「剣なら何でも。強ければいい」
「剣か・・・確かにそれも良い発想だな」
ベリカニアにて。シルヴェルの家に戻って来たヘルとバッパード。庭にはルアが居て、ペルーニと一緒に畑を耕していた。
「お帰り」
「(うん)」
「どうかした?」
「(ファティマが戦ってた城に、アミセルが居た)」
「アミセルって、前にグラバードさんが言ってたベンダンの蘇りし者だっけ」
「パー」
「(戦いには勝ったから良いんだけどさ、アミセルっていうか、問題なのはアミセルに付いてた臭い。あの臭いは、クラウンだった)」
「え・・・」
「(結構新しい臭いも、こびりついた臭いもある。きっと、クラウンは今、アミセルと一緒に居ると思う)」
「そっか」
「(どうする?多分、きっと勝てると思うけど、あっいや、ちょっと難しいかも)」
「え?」
「(アミセルだよ。臭いからしたらアミセルとクラウンはすごく近い存在。多分戦う時も一緒。アミセルの力、すごい厄介そうなんだ。簡単に、一瞬で人を霊魂に変えて、殺しちゃったんだ。しかも一瞬で生き返らせて、敵の蘇りし者を支配したっていうか。あの力、相当ヤバイと思う)」
「んー。そっか」
「パー」
「(うん。何か、力じゃ勝てない相手っていうか)」
「パーパー」
「(え、あそっか。もしクラウンを殺しても、アミセルが一瞬で蘇らせちゃうよね)」
「そしたらさ、蘇りし者の人達との関わり方を見直した方が良いかもね」
そうペルーニは植木鉢に花を移す。
「(関わり方かぁ・・・)」
それから土に野菜の種を植えていくルアとペルーニとヘル。ふとヘルは思い出していた。エメリスとレグリムに勝った時、何となく覚えのある臭いがもう1つあった事を。それは名前の分からない、とある男のものだった。
読んで頂きありがとうございました。
何かと“惹き付けてしまう”ファティマですが、その暖かさに照らされた者達は、ファティマが思うほど不幸ではないんですね。




