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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「炎が照らすもの」前編

「そいつらは、ただの力の欠片ね。そいつらを倒しても、蘇りし者を倒した事にはならないか。フッ」

そう言ってエメリスが剣先を向けた途端、“氷のシザリハウンド”は口から氷のビームを吐き出してエメリスに攻撃した。一瞬だけ驚いたものの、エメリスが氷のビームをかわした直後、続いて“炎のシザリハウンド”が炎のビームを口から吐き出して、エメリスを翻弄していく。

「くっ、うざったいね。雷矢三層(ストレグロー・トリーソ)!」

放たれた雷矢。でもその瞬間、“岩のシザリハウンド”が体から複数の岩片を発射し、それを空中で1つにまとめて壁を作った。岩の壁に阻まれてバチンッと雷矢が消えていく。

「おお、なかなかやるな」

カースベルクが呟けば、岩のシザリハウンドが自慢げに「ワン」と応える。

雷刃三層(クリグロ・トリーソ)!」

ぶん投げられた剣。するとその瞬間、3体のシザリハウンドたちはそれぞれ赤錆色の光を淡く纏い、高速で飛び回り始めた。空を切ってレグリムの手元に戻る剣。それから翼を広げたシザリハウンドたちが高速で飛び回り、氷のビームだったり炎のビーム、岩片で攻撃していくと、レグリムは防戦を強いられていく。

「さすがに手強いね」

飛び回るシザリハウンドたちを眺め、そう呟きながらもエメリスは微笑んだ。それは戦いそのものに楽しさを感じているような武人らしい笑み。そしてエメリスはファティマに突撃していった。双剣に纏ったインディゴの電気と、剣に纏った檸檬色の光がバチンッバチンッと激突していくそんな頃、城の寝室でアミセルは目を覚ました。

「・・・んん・・・ふう」

気配と気配の激しいぶつかり合い。その煩わしさで思わず目を覚ましてしまったので、仕方なく起き上がる。清潔感を大事にして寝る時は服を着ないのでとりあえず先ずは羽織りを纏い、寝る時は必ず添い寝させているクラウンを揺らして起こす。

「・・・何だよ・・・あ?何だ、この気配」

「客人だろう」

「客人?・・・いや、何か戦ってんなぁ」

「朝飯を食うぞ」

「客人はいいのかよ」

「ファティマが何とかするだろう」

寝室を出て廊下を歩き、ダイニングキッチンに向かえば、アミセルは霊魂を呼び寄せた。霊魂に向かって手を伸ばし、そして掌をひっくり返す。すると霊魂の“死はひっくり返り”、それはシェフとなった。

「おはようございますアミセル様」

「あぁ」

高級食材とプロの技術で用意されたとても優雅な朝食を食べながら、アミセルは目を閉じた。ファティマ達と戦っている男と女の顔は知らなかった。

「いつもご苦労」

「ありがとうございます」

もう1度アミセルが手をひっくり返せばシェフの生はひっくり返り、霊魂となった。



第79話「炎が照らすもの」



人が恋しければ誰でも呼べるなら、別に自分じゃなくていいだろ、とクラウンはもう言わない。何故なら拗ねられたら“ひっくり返されてしまうから”。それにアミセルと居れば暮らしには困らなそうだし、拗ねさせなければ死なずに済む。だからクラウンは朝食に満足していた。

「さて」

使用人を1人召喚し、皿洗いをさせながらアミセルは再び目を閉じた。

雷矢十層(ストレグロー・ディシアーソ)!」

「はあっ!」

檸檬色の光は剣から放たれると瞬間的に鋭い槍のようなものとなり、雷矢を真正面から相殺していく。それでもエメリスはインディゴと檸檬色の爆風を飛び抜け、ファティマに向かって剣を振り下ろす。ガツンッと剣と剣とがぶつかる瞬間にも辺り一面にインディゴと檸檬色が火花のように散りばめられる。一方、レグリムがシザリハウンドたちに翻弄されてる最中にカースベルクが突撃するも、シアンの電気が纏う剣が振り下ろされた衝撃には耐えられず、カースベルクは墜落していく。

「強いなぁ、蘇りし者。・・・だったら」

尾状器官の根元から熱を流していき、徐々に尾状器官を膨張させながら先端に熱を溜めていく。

「これでどうだ!」

熱を溜めに溜めて膨張した高熱状態の尾状器官から、一気に衝撃波を撃ち放つ。レグリムに向かって一直線に撃ち上がった真っ赤な衝撃波は、シアンの爆発と共に消えていった。衝撃波は命中したように見えたが、レグリムは無傷だった。

「同じ手なんか食らうかよ。雷弾三層(プルグロ・トリーソ)!」

お返しに撃ち落とされたのは強烈なシアンの雷弾。

「ヤベッ」

とっさに横に飛び込んだものの、カースベルクはすぐ横で爆発したシアンの爆風に吹き飛ばされた。

「ワンワンッ」

アイコンタクトを交わすシザリハウンドたち。炎のシザリハウンドは炎のビームを吐き出してレグリムの気を引いて、同時に氷のシザリハウンドが空中に作り出した無数の氷針を飛ばしていく。剣に纏わせたシアンの電気で氷針をガードしたものの、背後に回られていた岩のシザリハウンドが飛ばした大きな岩の衝撃にバランスを崩し、レグリムはフラフラとなる。そこに全身に炎を纏った炎のシザリハウンドが突撃していけば、レグリムは遂にバルコニーに墜落した。

「レグリム!」

「油断した」

素早く立ち上がったレグリム。そしてその掌に電気の球を作り出す。

雷弾十層(プルグロ・ディシアーソ)!」

瞬間的に10メートルほどとなった巨大な雷弾。緊迫が張り詰め、空中ではシザリハウンドたちが真っ直ぐレグリムを睨みつける。助けに行こうにも、ファティマはエメリスの力に圧されて動けない。このままではあの子たちが。その瞬間、ファティマの瞳に檸檬色が灯り、髪に檸檬色の炎が灯り、全身にはうっすらと檸檬色の炎をドレスのように纏った。そして雷弾は放たれ、スッとファティマは転移した。

「はああああっ!」

巨大な雷弾の形を為す球体が崩れ、その隙間から檸檬色が洩れていく。レグリムにはまだ見えなかった。雷弾の向こうで、どれほどファティマが美しく燃え盛っているかを。その一瞬、レグリムは沸き上がる悔しさを感じ、剣を握り締める。そして洩れ出した檸檬色の炎が爆発し、シアンの雷弾が粉砕されて電気が散り散りになっていくと、レグリムは空中で立っている凄まじい存在感を放つファティマを真っ直ぐ見上げた。ボウッと熱が周囲の空気を温めていく。ただ居るだけで温かく、眩しく、強い。ファティマはまるで太陽のよう。そうカースベルクには見えた。そしてそれはシザリハウンドたちにとってもそうだった。その後ろ姿に、シザリハウンドたちは見とれていた。

「何してんだお前」

振り返ったのはハクジュソウ。声をかけてきたのは、クラウンだった。

「おいおい、めちゃくちゃじゃねえか」

バルコニーに繋がる部屋の有り様にがっかりするクラウン。しかしそんな事よりも、クラウンはただ突っ立っているハクジュソウの姿を気にしていた。そしてクラウンはハクジュソウの隣でファティマ達とエメリス達の戦いを眺める。燃え盛るファティマに向かっていくエメリスとレグリム。

「お前は戦わないのか?蘇らせてやっただろ」

「オレには戦う力は無い」

「・・・確かに。何も感じない。何でだ?あり得ない。今まで何してた」

「今まで・・・覚えてない」

「覚えてないだ?・・・記憶が無いのか。だから力そのものが消えてるって事か。ていうか、何でここに?」

「ファティマがアミセルに聞きたい事があるからと」

「ファティマとは何で知り合いなんだ」

「オレが、牧場に居座らせて貰っていたら急に訪ねてきた」

「ふーん」

クラウンとハクジュソウは並んで眺める。それはファティマ達の戦い。

「あれは、確かにシーザリアンだよな。昨日何かあったのか?シーザーと手を組んでるのか。ていうかあの2人、何でこの世界に」

「お前は、何故そんなに蘇りし者を生んでいる」

「あ?何だよ急に。・・・・・世の中の9割はな、不条理なんだよ。誰のコントロールじゃなく、世界は不条理が絡み合って流れてる。つまり、不条理の中で埋もれた思念が山程ある。生きたかったのに生きられなかった魂が山程ある。だからオレは、チャンスをばら蒔いてる」

「チャンス・・・」

それからクラウンは溜め息を吐いた。このままここで暴れられると何かと迷惑だから。アミセルの機嫌が悪くなるのは面倒臭いからと、そしてバルコニーに出た。

「おい、お前ら!」

檸檬色に燃え上がるファティマを見上げるエメリスとレグリムはパッと振り返ると、すぐに思い出したようにハッとする。

「何しに来たんだ?」

「あんたには関係ないわよ。何をしようが自由なんでしょ?」

「そうだけど、だからってオレの平穏な暮らしが邪魔されるのは無視出来ない」

「それは悪いね。けど、こっちは蘇りし者に用があるのよ」

「とにかく、城は破壊するなよ?」

そう言ってクラウンは部屋に戻り、そのまま階段を降りていく。廊下を歩き、向かったのはアミセルの居るダイニングキッチン。

「あいつら、何しに来たんだか知らないが、追い払いたきゃお前がやればいい」

腕を組んで目を閉じていたアミセルはゆっくり目を開けた。

「まったく手の焼ける」

さっさと去っていったクラウンなど気に留めず、エメリスはインディゴの電気で全身を包み込んだ。それは瞬時にエメリスが見えなくなるほどの眩い光の塊となる。バチバチとバルコニーを叩いていくインディゴの電気。それからエメリスを覆い隠す電気が一瞬で弾けて消えれば、エメリスの姿は完全な鳥となった。

「ここからは本気で行かせて貰うよ!」

5メートルほどの巨大な鳥。そのインディゴの体毛は更に羽毛のような電気を纏う。その美しさはまるでインディゴに眩い不死鳥のよう。飛び上がったエメリス。大きな翼がはためけば、風と共に無数の雷矢が雨のように吹き荒ぶ。雷矢の雨の中、ファティマは檸檬色の炎のバリアで身を守り、シザリハウンドたちもその後ろに隠れていく。

「はああああっ」

雷矢の雨が止むその瞬間、檸檬色の炎は巨大な塊となって放たれた。目を見開くエメリス。とっさに翼でガードすれば、翼に纏う電気と炎がぶつかり合い、凄まじい爆発を生み出した。

「クッまだまだ!」

エメリスの全身がバチバチと逆立つ。その瞬間に周囲に無数の雷矢が浮かび上がる。

「この雷矢は100ある。けどただの雷矢じゃない。全てが十層の力が込められたものよ。さて、これを一気に解き放ったら、あんたは耐えられるかな?」

「みんな下がって!」

「クウン」

「ワンワンッ」

「私なら大丈夫。絶対に、耐えて見せる」

ファティマはふと思い出していた。それはあの時、燃える城の中で何も出来ずにいた時の事を。そして最初の雷矢は放たれた。ファティマが剣を振り上げれば、バチンッと雷矢は空に消えていく。すぐさま雷矢は放たれてまたファティマはバチンッと雷矢を切り裂く。すると次は2つの雷矢が同時に襲いかかり、ファティマは1つの雷矢をまともに食らった。

「ぐっ」

それから剣を構える隙も与えずに数発の雷矢が立て続けに向かっていき、ファティマはその数発をまともに食らえばそのまま墜落した。ファティマはふと、燃える城の中で支配する息苦しさを思い出していた。

「ワンワンッ」

パッと目を見開いたファティマ。地面に落ちる前に飛び上がり、更に襲ってきていた数発の雷矢を反射的に弾き飛ばしていく。

「しぶといわねぇ、フフッ。でももう、限界なんじゃない?」

襲いかかる10発の雷矢。その直後、ファティマは消えた。誰も居ないところで雷矢が爆発したと同時に転移したファティマはエメリスに斬りかかる。ドカンッと激しく舞い広がる檸檬色の炎。炎に煽られるエメリスだが、直後に数十発の雷矢がファティマを襲う。そんな時だった、ファティマが手を天に掲げたのは。少し吹き飛ばされながら、エメリスは雷矢の爆発に包まれたファティマを前に笑みを浮かべる。

「ワンワンッ」

消えていく電気の爆風。するとそこには檸檬色のウエディングドレスに身を包んだファティマが居た。

「何だって・・・」

そしてファティマは消えた。そうかと思ったらエメリスと距離を取って姿を現したファティマは、その場で思い切り剣を振り上げた。それは津波のような、ビームのような、流れ星のような炎だった。その熱風圧に思わず翼で身を守ったエメリス。そして気が付くと、周囲の雷矢は全て消滅していた。

「フフッやるじゃない。まぁ“単なる雷矢”にやられるくらいじゃ張り合いはないわよ」

そこで飛び出したのはファティマ。まるで炎が燃え上がるような速度で詰め寄れば、剣を振り下ろす。そしてまるで爆発のような衝撃を放てば、エメリスは吹き飛んだ。でも追い撃ちをかける暇はなかった。何故ならその瞬間、ファティマはレグリムがぶん投げた剣を受け止めたから。

「オレも本気出してやるか」

シアンの電気に包まれたレグリム。それから変身した姿は、シアンに眩い美しい不死鳥のような巨鳥。直後、レグリムは足に電気の刃を作った。

「本気の雷刃を受けてみろ!」

5メートルの巨体が迫ってくる。それでもファティマはそれを剣で受け止めた。レグリムの足と、ファティマの剣とが激しく押しつけ合う。真っ直ぐ睨み合うレグリムとファティマ。それからファティマがレグリムの足を弾けば、負けじとレグリムもファティマの剣を弾き返す。

「オラオラオラオラ!」

両足の雷刃での怒涛の攻撃を耐え切ってから、ファティマは檸檬色の爆炎を解き放つ。吹き飛んでいくレグリムだが、その背後からは雷矢十層が駆け抜けていき、ファティマを牽制する。

雷槍十層(グロピオ・ディシアーソ)!」

直後にエメリスの嘴から放たれた雷の槍。とっさに受け止めたものの、ファティマはゆっくりと空中で押されていく。その隙にレグリムが雷弾十層を放つと、その爆発にファティマは吹き飛んだ。

「互角か、いや、2対1じゃ不利だ」

「クウン」

「ワン」

「いや、助けたいに決まってるだろ。でも、オレ達じゃ足手まとい。くそ。ていうかお前ら、シーザーの力なんだろ?シーザー呼べないのかよ」

「クウン」

「じゃあ、何で急にそんなに姿になったんだ」

「ワン、ワンワン」

「このまま見てるだけでいいのかよ」

「ワウワウ、ワン」

「ワオーンッ」

その直後、カースベルクの背後に腰丈ほどの木が一瞬で生えた。

〈放っておけばいい〉

「ん?何だ!誰だ、お、お前」

「ワンワンッ」

するとシザリハウンドたちはまるで知ってる人かのようにその木に注目した。

〈蘇りし者は、こういう運命なんだろう〉

「クウン」

「まさか、シーザー、なのか?」

「ワウワウ」

「ワンワンッ」

〈落ち着け。そんなに戦いたいのなら好きにすればいい。あと2段階くらいなら、強化に耐えられるか。そのファティマという者ともっと心を通わせろ。そうすればそれが養分となり、自ずと力が解放されるだろう〉

木が瞬時に朽ち果てると、お座りしていたシザリハウンドたちは立ち上がり、ファティマを見上げた。

「行くのか。だったらオレだって出来る限りはサポートするぜ」

そうして飛び上がったカースベルク達。ファティマ達の戦いは互角に見えて、でも少しだけ不安を感じずにはいられない。だから駆けつけると、ファティマは黙って頷いた。

「また来たのか、大人しくしてればいいものを」

「大丈夫、私が守る」

ふと炎のシザリハウンドは鼻を利かせた。それはファティマから漂う“炎の匂い”。その暖かい匂いは、自然と力が沸いてくるような気がした。

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