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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「ジュピター」中編

オレがジュピターになったのは、サッカー選手になれなかったから。いや、そんな理由かよ。自分で思う。でも他に何かと聞かれたら大した理由はない。きっかけになったのは確かだ。

「とても難しい手術です。日常生活には支障はないですが、長時間走ったりなどの激しい運動は、無理だと」

ドラマの話だと思ってた。オレがそうなるなんて、夢にも思わなかった。最初は車椅子になると言われた。でも良い先生を紹介して貰って、手術のお陰で歩けるようになった。リフティングも出来るようになった。だけどジュピターの選手になる夢は断たれた。そんな時だった、サンナに背中を押されたのは。

「子供達の夢を守る側になればいいじゃない」

サンナはオレがスクールに入る時も、初めての試合の時も、いつも応援してくれた。まぁ従姉(いとこ)だから当たり前なんだろうけど。そういうサンナは何でウパーディセーサに志願したかと言うと、単純にヒーローが好きだからだ。単純だ。でも、スクールで頑張ってる子供達を見てると思う。きっとこれで良いんだと。

ボールを備品庫に戻して出てきたササラギ。するとそこにちょうど子供達がやってきた。すれ違うだけだが、子供達が挨拶をすればササラギも「おう」と返していく。

「おーいササラギ!お前がやったんだぞ、ちょっとは手伝え。それ廃棄だ、下まで運んでくれ」

「はい」

パンパンのゴミ袋を3つ背負って、ササラギはエレベーターに乗った。その直後に入ってきたのはジュピターズメンバー、セキハ。

「この後、実験室だそうだ」

「ああ、はい」

「怖いか?本当に暴走しないか」

「そりゃあそうっすよ。未知なところですから。その男は誰なんすか」

「目撃情報はわずかにあるが、詳細不明だ。それより仮に暴走しなくなったとしても、このままじゃシーザリアンのDNAで全員アップグレード出来ない」

「でもシーザリアン、もう出ないんですよね」

「安心出来るか?」

「いや、まあ」

「いつどこでシーザーのような者が現れるか分からない。シーザリアンDNAで違法改造した犯罪者だっている。だからお前にかかってんだ」

「え?」

「お前の調子が良ければ、シーザリアンDNAを他のメンバーにも組み込む」

「いやいやダメですよね?」

「魔法で暴走因子が封印されたんだ。だから社長が協力要請したんだ。独立自警団アルテミスに」

「え!まじすか・・・・・・・サイン貰えるかな」

オレにとって独立自警団アルテミスは、スター選手。ジュピターズだって自警団だ。フィールドは同じだけど、何もかもが桁違い。オレ達はまだまだ実績が薄い。だってまだ始まったばかりだから。そんな期待を込めて、アルテミスメンバーが招かれた実験室に向かうと、第一印象は案外庶民的だった。ていうか、こんなにすぐ来てくれるものなのか?

「どうも」

「こんにちは

 (こんにちは~)」

「急な要請に応えて頂いて本当に感謝します。私がジュピター・コーポレーションの社長をしている、スカラサイ・レゲルです」

「ルアです。こっちがヘルで、こっちがエルフのイエンです。事情を聞いて、協力出来そうだと思ったので」

「(自警団同士だしね)」

「そちらが魔法を?」

「はい。魔法に関しては、エルフの方が得意なので」

「(シーザーを封印したのもイエンなんだよ?)」

「そうですか!ホールズの脅威を封印して下さり、ホールズの人間として感謝します」

「うん」

「早速ですが、シーザリアンDNAの暴走因子の観察を行いたいので、問題が起こった際は対処をお願いします」

「はい」

市民体育館くらいの広さがある実験室。そこに入っていくササラギを、ルア達は眺めていく。連絡が来た時は驚いた。普通は犯罪者の制圧の依頼が来るから。世界中で自警団が生まれては、こうやって“蘇った人への抵抗”を頑張っていく。その手伝いが出来るならと、ルアは小さな嬉しさを抱いていた。ササラギが変身する中、ふとヘルは何となくスカラサイの顔を伺った。ザ・社長っていう雰囲気で、何かギラギラしてる。

「(うわぁ、すごいウパーディセーサ。8本タイプか)」

それからササラギは尾状器官から放電し、そのまま電気を纏った。慎重に元素をコントロールしている。誰がどう見てもそんな印象だった。自分の意思でもって電気爪の尾状器官を伸ばし、振り回していく。そんなササラギを眺めて小さく頷くスカラサイ。それからササラギの体からは冷気が噴射され、岩のようにゴツゴツした手からは炎が噴射された。

「問題無さそうだな。セキハ。準備を」

「はい」

〈ササラギ、これからセキハにシーザリアンDNAを投与する。暴走したらアルテミスの方を向かわせるが、もし可能なら暴走を押さえてくれ〉

「はい」

セキハと研究員が数人実験室に入っていき、物々しく10本ほどの注射器をセキハに刺していった。眠るようにただ立っていた状況が変化したのは、20分ほど経ってからだった。急に変身した途端、苦しみ出した。

「セキハさん?」

「うぅ・・・ぐっ」

「セキハさん!」

「ぐあああっ」

セキハの体から爆発するように放たれる電気、冷気、炎。それはまるで、体の中の何かが目覚めたようだった。手当たり次第、というか目の前にいたササラギに襲いかかったセキハ。

「お願いします」

スカラサイに頷いたイエンはパッと実験室の中に転移すると、素早く5本の(ツェピー)でセキハを縛り上げた。しかしそれからイエンはセキハを眺め、そんな沈黙にササラギは息を飲む。

「どうするんだ」

「んー。先ずは・・・(ソーン)

必死に暴れていたセキハは急に電源でも落ちたようにだらんとなった。

「気絶させたのか?」

「眠らせた。後は、シーザーの霊気を、やっぱり分離かな。・・・分離(ラズデーレ)

眠ったままのセキハ。なのにイエンは頷き、パッと実験室から出てきた。

「(イエン、出来た?)」

「うん」

「どんな魔法を?」

「シーザーの霊気を引き離した」

「なるほど」

「セキハさん?」

少し遠くから、ササラギが尾状器官でセキハの頬をペチペチと叩く。するとセキハは目を覚まし、縛られている状況をゆっくりと理解した。

「これは・・・」

「セキハさん、無事ですか?」

「オレは、暴走してたのか」

「はい。でも魔法で解決しました」

鎖も解かれてセキハとササラギが安心する中、ヘルはふと真剣な顔をしたスカラサイを見た。

「セキハに、シーザーの霊気があったという事ですか?」

「うん」

「それは、シーザリアンDNAにシーザーの霊気が含まれているという事ですか?」

「うん」

「つまり、保管しているDNAも全てという事か。すみませんが、少々お付き合いをお願いします」

スカラサイがルア達を連れて来たのは実験室と同フロアの研究室。薬品の匂いがいっぱい。犬にはちょっとキツイ。そうヘルは鼻の穴をクウカクで塞いだ。

「ここに保管しているシーザリアンDNAは、これからジュピターズに投与予定のものです。投与してから対処するより、もし保管段階でシーザーの霊気を取り除ければ、その方が安全だと思うのですが、可能でしょうか」

「んー、どうだろう、今はシーザーの霊気感じないけど」

「(え、何で?)」

「小さすぎる」

「(え、じゃあ何でササラギさん達は暴走したんだろ)」

「それは、超感覚が目覚めさせたという事でしょう。つまり、投与しなければ、シーザーの霊気を取り除けない。だが、それでは負担がかかってしまう。何か方法は無いものか」

「何とかなると思う」

「本当ですか!」

「シーザーの霊気がある事は確かだから。ちょっと時間かかると思うけど」

「待ちますよ。よろしくお願いします」

並べられた保管ケース。それを見つめるイエン。何を見ているのか、考えているのか、それはイエンにしか分からない。そんな沈黙。すると徐に、イエンは保管ケースに手をかざした。

「・・・・・・分離(ラズデーレ)

「(・・・どう?)」

「集中したら微かにシーザーの霊気感じたし、多分、引き離せたと思う」

再びの実験室。強化ガラスを挟んでイエン、ルアとヘルが見守る中、ササラギの前にやって来たのはハイロだった。

「緊張してんの?」

「するでしょ。そりゃあ」

〈では始めてくれ〉

投与が終わり、研究員達が実験室を去り、数分。

「上手く扱えそう?その力」

「まぁ、出来る事が増えたから、訓練を重ねて自分のものにしていくしかない。サンナだったらすぐ覚えられる」

「そういえば、あの話、受けたの?」

「まだ決めてない」

「何でよ。コーチ向きじゃないって思ってる?」

「まぁ。選手としての実績も無いからな。ただの広告塔じゃ、意味ない」

〈ササラギ、せっかくのオファーなんだ。やってみればいい。コーチとしての才能が開花するかも知れない〉

「どうですかね」

〈サッカーと関わりたいんだろ?・・・その為にウパーディセーサになったんじゃないのか?〉

「それは・・・」

〈試合に出たい、か〉

「でも分かってますよ。無理だって。ウパーディセーサになっても、あの時事故に遭った時に、オレは終わった」

「まだ迷ってるのね。新しい生き方に」

実験室の中を少しウロウロし始めるササラギ。ルアとヘルはふと見つめあった。サッカーやってる人なのかぁ、と。

「そういうサンナだって、新しい生き方とか、急に言われても分かんないだろ」

「私は別に変わってないわよ?」

「え?」

「ウパーディセーサになったからって、やりたい事諦めないし」

「社長、20分です」

〈ハイロ、20分だ。暴走の所見は無いと判断する〉

「本当ですか!やった。ありがとう、エルフさん」

「うん」

「アルテミスの方々、すみませんが、全員の暴走所見が無いと判断出来るまで、念の為に観察をお願いします」

「はい」

ジュピターズは20名で構成されている民間の部隊。それから誰も暴走の所見が見られず、自分の意思で変身しても問題が無い事が確認されたところで、ジュピターズの1人、シュウズンがルア達に歩み寄った。

「アルタライザーに魔法教えたんだろ?オレらにも教えてくれないか?」

顔を見合わせたルア達。でもすぐに頷いたから、ジュピターズがぞろぞろと集まってきた。

「社長、いいっすよね?」

「出来るのか?ギガスの遺伝子は組み込んでいないが」

「まぁやってみて考えますよ」

「そうか」

また、リッショウとクウカクの輪が広がった。ヘルは満足げに実験室を眺めていた。

「本日は本当にありがとうございました。お陰様でより良い未来の為に戦う事が出来ます」

社長とルア達が挨拶を交わしてそれからジュピター・コーポレーション本社3階、社員食堂にて。ササラギとハイロが座るテーブルに、クワイオがやって来る。

「すごいよな、リッショウとクウカク。武器が作れる魔法」

「あぁ」

「オレさ。ずっとなりたかったんだよ。双剣士に。ウパーディセーサの尾状器官で何となくそれっぽくやってたけど、もうめっちゃ気分が良い。あ、見てよこれ。レッサーとオーエンが動画上げてる」

〈イェーイ!みんな!レッサー&オーエンだ!見てくれ、この姿。シーザリアンDNAでパワーアップしたんだ。オレらジュピターズは、国から認可された民間部隊。つまり、このパワーアップは合法で、安全って訳だ〉

〈そしてだ。オレらはこれから、シーザリアンDNAで違法改造したウパーディセーサのテロ組織を叩く。オレらレッサー&オーエンはただのインフルエンサーじゃない。ウパーディセーサは正しく使えるもんだと証明する。みんな、ニュースをチェックしてくれよな!〉

動画を見れば、ササラギはチキンステーキを一口。

「この2人をスカウトする辺り、社長ってやっぱりすげーよな」

「広告塔だったらソウタだって、ねえ?」

「昔の話だ。“有望だった奴”なんかよりレッサー&オーエンの方が似合ってる」

「あ、コーチになるの?」

「それがまた迷ってるって」

「ふーん」

「オレ、サッカーは好きだけど、ウパーディセーサになったのはサッカーを続けたいからじゃないんだ」

「そうなの?」

「何で」

「単純にさ、守ってやれたらって思って。だってウパーディセーサってサッカーをやる為のもんじゃない。戦う為のもんだろ」

「まぁね。ウパーディセーサ戦争、それから蘇った人達との戦争。夢を持って頑張ってる子供達が、いつどこでどうなるか分からないものね。やっぱりソウタ、ウパーディセーサになった理由、私と同じだったのね」

「ソウタだけじゃないでしょ、オレだってそうだよ」

「おーい!ササラギ!火事だ。出動してくれ。現場はメールした」

「はいっ」

ササラギ達3人が到着したのはマンション。その10階から煙が上がっていた。

「このまま入る」

「オッケー」

窓ガラスを突き破ったササラギ。煙で視界は悪いが、熱は全く気にならないし、呼吸も苦しくない。

「誰か居るか!」

「・・・・・たす、けて」

「ソウタ!誰か居る」

「ソウタ達は救助を。オレはとにかく水を撒き散らす」

クワイオが尾状器官から放水していく傍ら、ササラギとハイロは声がした方へと突き進んだ。

「どこだ、何も見えない」

「この煙じゃ、相当危険なはず。早く助けないと」

「何だこの音」

「え」

ふと煙の中に目を向けたササラギ。超感覚で耳を澄ませば、炎が燃えたぎる轟音の中から、何かを叩く音が聞こえた。空気を震わせる熱気。その中の微かな振動。

「そこだ」

ササラギが尾状器官を伸ばすと、掴んだのはタンスだった。それを退かすとその先に廊下があり、その先にはドアがあった。

「そこに居るの?」

ハイロが聞けば、ノックが返ってきた。とても弱いノックだった。だからササラギがすぐさまドアを取り壊し、ハイロがトイレに入っていた女性を救助した。

「2人共、火元、この階じゃない。オレ見てくる」

「オレも行く。サンナその人頼んだ」

「うん」

トイレに居た女性の自宅から出ても、マンションの廊下には煙が充満していた。

「オレ、片っ端から火を消すから、ソウタは逃げ遅れた人を頼む」

「あぁ」

煙の流れ、空気の流れを感じれば、どこから来ているのかが分かる。最初に外から見た時、もうすでに何部屋もが煙に覆われていたから相当火も広がっているはず。もし逃げ遅れた人が居るなら、時間はかけてられない。ササラギは女性が居た103号室から隣の1室に移動してみるが、そこには誰も居なかった。それからしばらく逃げ遅れた人を捜していく内、火が弱まってきて、階段からレスキュー隊が駆け上ってきた。

「ジュピターズの方ですか?」

「はい」

「ご協力感謝します。鎮火を確認しましたので、後は我々が」

「はい」

「先程救助して頂いた女性は救急車で搬送しました」

「そうですか」

クワイオと共にマンションから飛び降り、待っていたハイロの下に降り立つと、そのままササラギ達はマスコミに囲まれた。

「ジュピターズの皆さん、さすが迅速な対応ですね」

「ありがとうございます」

ジュピターズは民間部隊。それは戦う為だけの部隊じゃない。ジュピターズは、ジュピター・コーポレーションのウパーディセーサという“慈善事業”。勿論ウパーディセーサ戦争や蘇った人との戦争の為でもあるが、その他救助活動も担う。それから数時間後、シーザリアンDNAを使って違法改造したウパーディセーサのテロ組織が壊滅したというニュースが流れた。

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