06
クロハを掌から降ろして、最後に<人化>スキルで人の姿に戻るときがきた。
果たしてインナーは大丈夫なのだろうか。
急に発光して気がつけばドラゴン姿だったのだ。
これで戻った時に破れてたらクロハの前で全裸…全裸かぁ……。
ええい南無三ッ
<人化>スキルを実行すると、インナーを着た状態のままの元の姿に戻れた。
いよぉっし、セェーフゥ!!
これで防具の破損の心配は無くなったわけだ、良かった良かった。
もしそうでなければ<竜化>する度に、どこかに隠れて<人化>しないといけないハメになるところだった。
それに、<竜化>の為にローブみたいなのだけ装備して下は全裸とか、とんだ変態さんになるところだった。
おっとまだインナー姿だったので服を装備し直す。
あと、MP残量の都合でドラゴン姿の状態から<息吹>を使う余裕がなかったのがちょっと心残りか。
ドラゴン状態からの<飛行>であれだけ飛べたのだから、<息吹>使ってたら洒落にならない威力になってたかもしれない。
まあそのうち試してみるとしよう。
ところでクロハさん何でちょっと不満げなんですか?
空の旅がもっとしたかったという意思表示なんですよね?
「さーてこれであらかた試したかな。ドラゴン化版<息吹>はまた別の日に試すとして」
「そうですね。ドラゴンのスキルはどれも便利そうですね。ミツキ姉さんとの<飛行>デ…お散歩とても楽しかったです!」
「ただドラゴン姿になると言葉が通じないのが痛いなぁ。今回は僕が地面に文字を書いてなんとかなったけども」
「うーん、今回のミツキ姉さんのドラゴン姿で思ったんですけど、今後もしドラゴンの国が登場した場合に、<竜言語>を私や他の人が習得しないとコミュニケーションとれなさそうですねぇ」
言われてみれば確かに。
<竜言語>なんてスキルがあるのだから、今後ドラゴンの国が登場したり、イベント等で必須とまではわからないけど必要な場面が出てくるだろう。
「なるほど、そういう事もあるのか。でも今のところドラゴン関連はまだまだ先の話だろうけどねぇ。<竜言語>が現状必要なのは、僕のようなランダム種族でドラゴンひいた人ぐらいだろうね。さすがに僕一人だけドラゴンってわけじゃないはずだろうし」
「確かに。ミツキ姉さんお一人だけという可能性は低いでしょうねぇ。でも、もし隠し種族を引いても場合によってはそれを人に隠す人もいますね。何せ珍しいですからね、あれこれ根掘り葉堀り聞かれたり妬まれたりしますし」
「ああ……。そういう面倒くさい事もあるのか。あ、それならさっきドラゴン姿から戻る際に<竜化>が<人化>に変化して、スキル説明みるとさ」
「何か特別なことでも書かれてました?」
「まあ見てて」
僕はくるりと、クロハに背を見せる。
そして―
「!?み、ミツキ姉さん!?」
「どうだ?翼と尻尾消えた?」
「は、はい……消えました。消えましたが…。」
そう、人化スキルの説明をみると任意のタイミングで角と翼と尻尾を非表示、消すことができるのだ。
これなら街中でも目立たないだろう。
…スキル説明を見るまで角が生えてたということに気づかなかったのはご愛嬌ということにしておこう。
それはまあ言われてみれば、ドラゴンだし角ぐらい生えてるよね!
「これで街中でも目立つことはまあ無いだろう。まあちょっと耳が尖ってるみたいだから、エルフかホビットって言い訳がきくだろう」
「いえ…このままだと別の意味ですごくミツキ姉さんが目立ってしまいます」
「え?」
何だろう、何か問題があるのだろうか?
振り向くと、クロハは頬を染めて口元を両手で覆って凝視していた。
えっ、ほんと何が問題なの。
「ミツキ姉さん――翼と尻尾が生えてた箇所――その箇所の部分に服に穴が開いてまして、その――綺麗な背中とお尻の割れ目が見えてます。」
どうしてそこだけ頑張らなかったんだ開発!!
確認すると服の背中の部分に開いた穴は比較的小さなものだったので、角と翼は隠して尻尾だけ出しておいた。
今後の防具に悩まされそうだなと考え、ふとクロハが<裁縫>スキルを取って防具を作ってくれるといってたことを思い出す。
……これは本当にクロハの作ってくれる防具の世話になるかもしれない。
そう考えてクロハをチラっと見る。
「やはりあの部分を隠れるように、いえでもチラリと見えるのも…ぶつぶつ」
うん、世話になれないかもしれない。
そこでふとあることに気づく。
「なあクロハ、WLって空腹になるのって早いの?」
「え?ええと、大体5分間隔で空腹度が少しづつ減少していきますが」
「そうか、それじゃあ――」
くぅ~きゅるるくきゅ~
「「………」」
「えっと……」
「たぶん、<飛行>か<竜化>のどっちかか、もしくは両方が原因で空腹度のゲージの減りが早いんだと……」
「ミツキ姉さん!?」
そしてペタンと座りこむ僕。
「これは……普通にお腹が空く感じなんだな……そして、お腹空きすぎて立てない…」
「えっと、えっと。そうだ!ゲームを始めたばかりだと、アイテムボックスの中に食料がいくつか入ってるはずです!もし足りなければ私のもどうぞ!」
言われたとおりにアイテムボックスを操作すると、パン3つと水筒が見つかった。
早速パンを全部取り出し、かぶり付く。
ただ口が小さいので時間がかかる。
味の薄いパサパサのパンをもしゃもしゃと食べつつ水で流し込む。
このパンは元々空腹度回復量が少ないのか、1つ、2つ食べても空腹度があまり回復しない。
そしてお腹は空いたという感じのまま。
この微妙なリアルさはなかなかつらいものがあるな。
パン3つ全てを食べて、ようやく立ち上がれるぐらいにまで回復した。
クロハが自分の分も差し出してくれたけど、さすがにそこまで我慢できないわけではないので断った。
ありがとう、ありがとう!
「ふぃー…。これは、支給されたパンじゃ腹持ちが悪いなぁ。街に帰ったら店で食事したほうがいいなぁ。」
「そうですねぇ…。ここまで空腹度の減りが早いと、少しお金かかりますが街でしっかりとしたものを食べたほうがよさそうですね。それでは街に戻りましょうか」
「わかった。スキル検証付き合ってくれてありがとうなクロハ」
「ふふ。いいえ、私も楽しかったでから」
そうして僕らは、街の方向に歩く。
しかし、辺りにさっきまでいた冒険者の姿が全くみえなかった。
「あれ?あれだけ一杯の冒険者がいたのに、誰もいないな」
「おかしいですね?何かあったのでしょうか、街も門が閉まってますね」
ようやく始まりの街に辿りついたものの、門が閉まっていて中に入れなかった。
「どうしたんでしょう?何かのイベントでしょうか?」
「さあ……。あ、あそこに扉あるぞ」
「事情が聞けるかもしれませんし、行ってみましょう」
門のすぐ脇に扉があったのでノックする。
「すいませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」
もう一度ノックしたところで怯えたような声で返事があった。
「だ、誰だ!?」
「あのすいません。冒険者になったばかりの者なのですが、街の外から戻ってきたら門が閉まってて、何かあったのですか?」
事情を聞こうとすると扉の向こうから怪訝そうに声を発する。
「君、本当に今まで街の外にいたのか?」
「本当ですよ。私ともう一人エルフの女の子が一緒です。それで何があったのですか?」
「何がって、君たちはドラゴンの咆哮を聴かなかったのか?」
「「えっ?」」
思わず、僕はクロハと目を合わせた。
ま さ か
数秒後、僕は大量の冷や汗がでてきた。
「た、確かに何かの鳴き声が聞こえたなぁとは思いましたが…あ、あれはドラゴンだったんですか」
「ああそうだ!それで近くに居た冒険者たちや住民を皆街の中に避難させて門を閉めて緊急警戒態勢にはいっているんだ!君たちは今までどこにいたんだね?」
「もも森の中を散策してたんです。そんなことになってたんですか……」
「ああ。咆哮がしてから暫くしてドラゴンが空を飛んでる姿が目撃されてね、しかもこのあたりをグルグルと飛び回ってて皆大慌てさ!それでドラゴンがどこかに飛び去ってね、また来るんじゃないかと警戒中なのさ」
「「………」」
ごめんなさい、犯人は僕なんです!
思わずそう言いかけようとしたら、クロハが首をブンブンと横に振っていた。
いやだって、クロハさん、だってさぁ……!
あまりにも大事すぎて……!
僕たちの沈黙を、理解したと捉えたのだろう、扉が開いて兵士さんが恐る恐る顔をだした。
「君たちよく無事だった。さあ、早く街の中に入りなさい!」
違う意味で顔面蒼白の僕。
そんな僕の頭を撫でるクロハ。
街の中に入れてもらってお互い暫く無言で歩く。
――どうしてこうなった。
ただドラゴンのスキルを検証しに街へ出ただけだったのに……。
あまりにも大変なことになってしまったので――
僕は全てを棄てて逃げ出した……。
案の定、数歩で転んでクロハに介抱された。




