【第42話】感謝
バルストとロニアが天帝王級の医療技術で完治するには、約一ヵ月が必要だ。
その猶予期間に、天帝国から30㎞離れた場所に新たな国を建設させるため、民を動員した。
この俺に貢献するためにみんな、喜んで動いてくれる。
立場が変わるだけで、こんなにも違うのか……本当に気持ちの悪い世界だ。
◇ ◇ ◇
一ヶ月後、俺は王宮の医療室へと足を踏み入れた。
「ロニア、肉体の修復は、もう大丈夫か?」
「テリアル……」
ロニアが、静かに言った。
「地獄から救い出してくれて、ありがとう……」
「ふむ……火傷の跡も、ほとんど目立たないな。流石だな……天帝王級の医療技術は優秀だ」
まさか、火傷の跡までこんなにも綺麗に治せるとは思わなかった。
「あら、この治療も貴方が私に与えた罰の一環だったのかしら?」
「当然だ。そして、貴様への罰はまだ終わっていない」
◇ ◇ ◇
「お前は言っただろ? 『何でもする』と。ならば貴様は、この俺と一生を共にする、天帝王の、伴侶となってもらう」
「『誰よりも好きだった』と泣き喚いた。ならば、造作もない」
「お前の本心とやらを、この先、身をもって証明し続ける義務がある。出来るはずだよな? ロニア」
お前の嘘を暴いてやる。
自分の保身のために、バルストでさえ利用した女だ。
こいつの言うことには気を付けなければならない。
「う、うん……それが、本来、この私が最も望んでいたことなのに……貴方を裏切って、ごめんなさい……」
「もういい。その薄汚い懺悔は無用だ。黙って、俺の命令を受け入れろ」
◇ ◇ ◇
俺は、いじめの首謀者であるバルストが待機する部屋へ冷徹に足を踏み入れ、吐き気を催すほど屈辱的な、上から目線の言葉を投げかける。
「おい、バルスト」
「テ、テリアル様……! 今までの全て、心より申し訳ございませんでした!」
「ふん、お前はこれから専用の独房に入ってもらう」
「は、はい。承知いたしました」
「一生そこで、己の罪を反省するのだ。分かったな?」
「はい、勿論でございます! この程度の罰で済まされるのであれば……」
それで済ませるつもりは、毛頭ねぇよ、ボケ。
「ふむ、ではな」
◇ ◇ ◇
さてと、愚か者への真の復讐は、これからが本番だ。
俺は、早速、新たな伴侶となったロニアを寝室へ呼び出した。
「ねぇ、テリアル……バルストは、どうするの?」
「ふん、心と体に宇宙上最も最悪な形で地獄を味わわせてから、とどめを刺す。それ以外の結末はない」
そうだ、あいつには人生がいくつあっても味わい尽くせない程の苦痛を与えてやる!
「……そう。実はね、バルストから直接聞いた話なんだけど……」
「彼は幼い頃、両親から毎日のように虐待を受け、最後は無情にも捨てられたのよ」
◇ ◇ ◇
「そして、勇者学校に入学して、やっと、貴方という友人に出会えた時、心から喜んでいたの」
「でも、突然、オベロンの八つ当たりで、貴方が聖騎士団候補だと知らされた時、彼は裏切られたと絶望したらしいの……」
「彼は、本当は……誰も信じられない、弱虫で情けない人なのよ」
「チッ!!」
(弱虫で情けないだと? 裏切られたと感じたから、俺を踏みにじったと?)
一瞬、胸に刺さった同情という名の薄い膜を、俺はすぐに憎悪の力で引き裂いた。
「だから、許せとこの俺に懇願しているのか、ロニア!? くだらん!!」
「例えそうだろうが、バルストのしたことは許してたまるか!!」
「そ、そういう訳じゃ……ないけど。せめて貴方に、彼の事情を知って欲しくて……」
◇ ◇ ◇
「はっ! そんな事情など、どうでもいい!」
「既に実行すると決めたことだ。遅すぎる!」
「奴が、ユラを惨殺し、俺をこの復讐の道へと突き落としたんだ」
「因果応報。奴に同情の余地はない」
「そうだよね……貴方が負った深い傷のことは、私なりに……理解しているつもりなの……」
「理解だと? 貴様ごときに、俺の苦痛が理解されてたまるか!!」
怒りと共に、俺は近くにあったグラスを手に取り、床に叩きつけた。
俺の怒号とグラスの割れる音で、ロニアはビクッと反応した。
◇ ◇ ◇
俺は、ロニアに近づき、髪と顔にそっと手を添えて、耳元でゆっくりと怒りを込めて囁いた。
「良いか? よく聞け。お前は、この俺の伴侶として、生涯この復讐の代償を背負い続けることになる」
「私は、元々テリアルのことが好きだから。貴方の全てを受け入れるわ」
この女、まだそんな嘘を吐くのか……まあいい、いつかはその嘘はバレる。
「これで済まされることに心から感謝するんだな」
「うん、ありがとう……テリアル……」
ロニアは、少し震えながら、目には涙が浮かんでいた。
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【第42話 終わり】
次回:【第43話】壊れた
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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