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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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43/48

【第43話】壊れた

【重要な注意】

この話には、拷問、精神崩壊、殺害の描写が含まれます。

特に精神的負担が非常に大きい内容ですので、苦手な方は読み飛ばすことを強くお勧めします。


 (感謝? 火山での拷問を極限まで与えた後のこの言葉は……。)


 俺は、ウプロンドの言葉を思い出した。


「最終的には、拷問官を心から愛するようになる」と言っていた……ロニアの精神は、既に屈服し、この歪んだ支配を愛と錯覚し始めたというのか?


 いや、待て、この言葉も嘘かもしれない。


「ロニア、ここはもう、お前の家だ。好きに過ごすと良い」


 その後、数日間、ロニアは部屋から出てこなかった。


 俺は、彼女を放置していた。



   ◇ ◇ ◇



 五日後。


 俺は、何気なくロニアの部屋の前を通りかかった。


 扉の向こうから、微かな嗚咽が聞こえた。


「……チッ」


 俺は、扉を開けた。


「ロニア。お前は、まだ俺を恨んでいるか?」


 ロニアは、窓の外を見つめたまま、答えなかった。


 長い沈黙――


 やがて、ロニアがゆっくりと口を開いた。


「……テリアル。私ね、あの火山で考えたの」



   ◇ ◇ ◇



「灼熱の中で、死ぬかもしれないと思った時、走馬灯のように色々なことが頭を駆け巡ったわ。勇者学校で、初めて貴方に会った時のこととか」


「貴方が一人で訓練している姿を見たとき、私……本当は声をかけたかったの」


「あの時の貴方は、誰よりも真剣で、誰よりも孤独そうで……でも、私は怖かった」


「バルストに捨てられたら、私も標的になる。そう思って、貴方を見て見ぬふりをした」


「私は……私は保身のために、貴方を裏切った。あの火山で、私は理解したの」



   ◇ ◇ ◇



「貴方が、どれだけ深く傷ついていたか。貴方が、どれだけ孤独だったか」


「そして、私がどれだけ貴方を傷つけたか。火山の熱よりも、もっと熱いものが私の胸を焼いたわ」


「それは……後悔と、罪悪感と、そして……貴方への、想い」


「私は本当に最低な人間よ。貴方を裏切って、貴方を傷つけて、それなのに……それなのに、貴方を好きだったなんて」


「でも、それは真実なの。だから、私は決めたの」


「この先、何があっても、二度と貴方を裏切らないって。貴方の隣で、貴方の痛みを共に背負うって」



   ◇ ◇ ◇



「恨んでいるか、ですって? 私は……私は貴方を恨めない」


「なぜなら、貴方を裏切った私自身が、何よりも許せないから。貴方が私にしたことは、私が貴方にしたことの報いなのよ」


 この言葉は、赦しではない。彼女の自己を正当化するための、歪んだ愛だ。


 だが、その狂気に満ちた献身は、俺の孤独を埋める。


 これは……共依存だ。


「テリアル。貴方は今、憎しみに囚われている」


「その憎しみが、貴方を満たすことは永遠にない。でも……いつか、貴方がその憎しみから解放される日が来ると、私は信じたいの」


「その日まで、私は貴方の隣にいるわ」



   ◇ ◇ ◇



 俺は、黙って部屋を出た。


 だが、心の奥底で、何かがわずかに揺れ動いた。


 それが何なのか、俺には分からなかった。


 俺は、偽りの平和を作るために民を使い、それと並行してバルストに拷問を続けた。


 この宇宙に存在する、ほぼ全ての拷問を試した。


 幸い、超高度な医療技術もある事で、それらは順調に進んで行った。


 ─────


 数週間後。


 そこにいたのは、かつてのバルストではなかった。


 床に崩れ落ちた何か。


 人の形をした、壊れた何か。


 髪は抜け落ち、皮膚は異様なほど青白く、目だけが――虚ろに見開かれた目だけが、かろうじて「生きている」ことを示していた。



   ◇ ◇ ◇



「……バルスト」


 俺が名前を呼ぶと、その物体が、わずかに動いた。


「……テリ……アル……」


 一音ずつ、絞り出すように。


 長い沈黙の後、バルストの唇が震え始めた。


「……わかった……んだ……お前が……天帝王に……なって……」


 呼吸。


「お前は……本気……だったんだ……魔神……討伐……」


 バルストの目から、涙が流れた。


「俺が……バカで……ちっぽけな……プライドで……」


 声が裏返る。


「裏切られた……と……思い込んで……お前を……追い詰めた……」


 床を拳で叩く。力のない、弱い音。



   ◇ ◇ ◇



「信じれば……よかった……一緒に……行けた……かも……」


 バルストの全身が、激しく震え始めた。


「英雄に……皆で……なれた……かも……」


 泣き崩れる。


「俺の……せい……だ……全部……俺の……」


 床に額をつける。声が聞こえなくなる。


 俺は、その姿を見ていた。


 どれだけ時間が経ったのか、分からなかった。


 やがて、バルストがゆっくりと顔を上げた。


 その目は、完全に虚ろだった。


 しかし、その目が――俺を見た。


「……テリアル……全部……受け入れる……謝っても……足りない……」


 バルストは、微かに笑った──いや、笑おうとした。


 壊れた人形が、笑おうとしているようだった。


「……でも……許し……は……いらない……」


 その言葉と共に、バルストの目から光が消えた。


 まだ生きている。


 呼吸している。



   ◇ ◇ ◇



 その瞬間、俺の胸に、何かが込み上げてきた。


 熱い。苦しい。息ができない。


 バルストの壊れた姿が、虚ろな目が、何もなくなった表情が、俺の中の何かを、壊した。


 俺の目から、涙が溢れ出した。


 止まらない。


 その場に、崩れ落ちた。


   ◇ ◇ ◇



「許せ……」


 誰に言っているのか、分からなかった。


 涙が止まらなかった。


 やがて、俺は立ち上がった。


 バルストを見た。


「……」


 俺は短剣を抜いた。


「……バルスト」


 返事はない。


「……終わらせてやる」


 バルストの目が、わずかに動いた。


 俺は、短剣を──


 それから、俺は数日間、部屋に閉じこもった。


 復讐に身を焦がした自分が、こんな感情になるとは。


 思いもよらなかった。


 個人的な復讐は、もはや消化すべき残務を終えたに過ぎない。


 バルストの最後の言葉が、まだ耳に残っていた。


 しかし──


 まだまだ、やらなければならないことがあった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第43話 終わり】


次回:【第44話】分断


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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