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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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【第16話】蒼星


「あ~面倒くせぇな……魔狼戦で二人ほど死んでるし、今年も3人一組を考えないとな」


 先生は、クラスを見渡した。


「バルストとロニアは、もう星4だろ。バスティオを外すぞ」


「お前らは、男子Aと組め」


「今度は、俺が教える番ってことかよ」


 バルストが、不満そうに言った。


「そうだ。しっかりと戦い方を教えろ」


「でだ、ミラサは星1だったな、バスティオとテリアルと組め。しっかりと戦い方を教えてもらえ」


教室に、不服そうなざわめきが広がった。 かつて「星5どうしで組むのは禁止だ!」と言ったオベロン先生の、あまりに露骨な手のひら返し。


「先生、前は星5で組むの禁止って言ってたじゃないですか……」


男子生徒の一人が不満を漏らす。


「あぁ? ルールを決めるのは俺だ! あの時はあれで良いんだよ。今は、これ以上死人を出して俺の評価が下がる方が問題なんだよ口答えするな!」


オベロンは教壇を叩き、クラス全員を睨みつけた。


「学年のレベルを調整し、無能を死なせない。……それが今の俺のルールだ。文句がある奴は、俺より偉くなってから言え!」


反論は、一瞬で消え失せた。


「おいミラサ、星5が二人もいるんだ。強くならない方がおかしい。強くなれ分かったな?」


「はい、オベロン先生」


 そして、彼女の視線が、一瞬だけ僕に向けられた。


「皆、強くなったから、今日からは天帝国の外のノンゴ森に行って、紅星という赤い花を摘んできてもらう任務だ」


「お互いに守り合え。死者を出すなよ、めんどくせぇから」



   ◇ ◇ ◇



 こうして、僕達はノンゴ森へと向かった。


「ミラサだっけ?」


 バスティオが、声をかけた。


「星1なら、俺らの後ろで俺たちの戦いを見といた方が良いぜ。危ないから」


「はい、そうします」


「紅星か……」


 僕は、周囲を見渡した。


「あの花は簡単に見つかるから、直ぐに終わりそうだな」


 僕は、ミラサの歩き方を無意識に観察していた。


 ……何故だろう?


 彼女の動きには隙がなく、まるで熟練の戦士のように洗練されているように見えた。


 と同時に、その優雅さに僕は惹きつけられた。


「ちょっとまて。魔兎の足跡だ……近くに居る」


 僕は、前方を指差した。


「あそこにいるぞ……俺がやる」


 魔兎は強くないものの、その動きは非常に素早く、戦うものの体力を奪うため、早めの討伐が戦術になる。


 僕は、音を消しつつも素早く移動し、魔兎の首根っこをかき切った。


「流石だな、テリアル。俺は素早さがないから、そういう相手には助かるぜ」


「そうか」


「早い……」


 ミラサの声が、聞こえた。


 すこし照れる。


「お、おう……訓練をしっかり積めば、出来るよ」


 僕の言葉に、ミラサの目がわずかに細められたような気がした。


「お! 向こうに紅星があるぞ! 摘もうぜ!」


 僕達が紅星を摘もうとした瞬間、地割れの如く響く、凄まじい魔物の声がした。


「え、なに?」


「こんな声、聞いたことないぞ」


 ミラサとバスティオは、驚き警戒した。


「もしかしたら、いや、そんなはずは……ドラゴンか?」


「おいおいおい、そんな馬鹿な!?」


 バスティオは、信じられないという顔をした。


「ドラゴンは、魔神城の門番だろう!?」


「なんで、こんなところにいやがるんだよ。ありえねえ!」


「それに……それが本当なら、防衛システムはどうした!」


 バスティオは、天帝国の壁を見た。


「何で作動しないんだ!?」


 いつもの陽気で楽天的な彼の表情は、あまりの衝撃に消え失せ、彼は呆然と立ち尽くしていた。


「この近くにいるということは、他のやつらがやられるかもしれない……でも、今の俺たちに倒せるか?」


「他の奴らなんか、どうでもいい。でも、これは経験を積むチャンスでもある」


 僕は、剣を抜いた。


「俺は行くぞ」


「ミラサは隠れてて。絶対に見つかるなよ」


「………」


 ミラサは何も言わず、ただ静かに僕を見つめていた。



   ◇ ◇ ◇



 僕たちは、その声がした方へと向かった。


 巨大な影が、視界を覆った。


 唸り声と共に現れたのは、身長10メートルにも及ぶ巨大なドラゴンだった。


 その威容は、まるで動く山のようだった。


 これほどの魔物と対峙するのは、初めてだ……


「……もし倒しきれないと判断したら、迷わず全力で撤退する。いいな!」


「おうよ!」


 バスティオは、剣を構えた。


「俺たちなら、きっとやれる!」


 僕たちは、その圧倒的な存在感に息を呑みながら、慎重に間合いを測っていた。


 ドラゴンは、自身と同じほどの長さを持つ巨大な尾を、嵐のように振り回し、僕たちを薙ぎ払おうとする。


 間一髪、僕たちは近くにあった岩に飛び乗り、尾が迫る直前に宙へ舞った。


 轟音と共に、その巨大な岩は粉々に砕け散る。


「うわっ!? マジかよ!」


 バスティオが、驚いた声を上げた。


「……やっべ、これ当たったら間違いなくお陀仏だぜ!」


 僕は、その隙を見逃さず、ふところに入り込み攻撃する。


 次の瞬間、ドラゴンは灼熱の炎を口から噴射した。


「っ……!?」


 (しまった!予想以上の反応だっ!早いっ!)


 僕は、紙一重でその炎を躱した。


 肌を焼く熱気がすぐそばを通り過ぎ、あと一歩で丸焦げになるところだった。


 その刹那、背後からバスティオの雄叫びが響き渡る。


 彼は特大剣を、まるで一本の巨大な斧のように振り下ろし、ドラゴンの分厚い皮膚に渾身の一撃を叩き込んだ。


「おらぁっ! これでどうだ!」


 怒り狂ったドラゴンは、今度はバスティオ目掛けて再び灼熱の炎を噴き出す。


 バスティオは迷わず、巨大な特大剣を地面に深々と突き刺し、その幅広い刀身を盾とする。


 炎が特大剣を叩きつけ、高熱の衝撃波が周囲に広がる。


「くっ……! 熱っつぁあ!」


 バスティオが炎に耐えるその隙を逃さず、僕は再びドラゴンの懐へと飛び込み、その腹部に鋭い斬撃を叩き込んだ。


「おわっ!」


 バスティオの声を聴き振り向くと、信じられない光景が広がった。


 宙を舞うように現れたのは、信じられないほどの敏捷さでドラゴンの首元へ取り付くミラサだった。


 彼女は手に握るナイフを巧みに操り、ドラゴンの分厚い鱗を剥がし、的確に弱点を突き刺していく。


 その動きは、明らかに勇者学校で示された『星1』の評価を遥かに凌駕し、まさしく『星5』、熟練した戦士のそれに他ならなかった。


 僕とバスティオは、驚きを隠せないまま、しかし攻撃の手は緩めず、彼女に続くように追撃を開始した。


 しかし、ドラゴンもただでは倒れない。


 激しい咆哮と共に体を揺らし、ミラサを振り落とそうと暴れ狂う。


「きゃあっ!」


 ミラサは無残にも地面に叩きつけられた衝撃で、苦痛に顔を歪ませる。


 その隙を狙うかのように、ドラゴンは再びその巨大な尾を振り上げた。


 バスティオは、迷わずミラサを庇うように飛び出し、特大剣でその尾を受け止めようとするが、その圧倒的な力に吹き飛ばされる。


 しかし、彼は倒れる寸前、渾身の力を込めて特大剣をドラゴンの尾に深々と突き刺した。


「ぐぅっ…!」


 僕は、ミラサから視線を逸らさないドラゴンの頭部へと一気に間合いを詰めた。


 渾身の力を込め、その巨大な眼球を容赦なく突き刺す。


 ドラゴンは叫びを上げ、激しく頭を振るい、僕を振り落とした。


 僕は、ミラサのすぐ近くまで転がり落ちる。


 傷ついたドラゴンが、憎悪に満ちた目でミラサを見下ろし、その巨大な前足で容赦なく叩き潰そうとする。


 その瞬間、僕の視界が真っ赤な血の色に染まった。


 脳裏に、ユラを失ったあの日の、心を引き裂くような悲鳴が響き渡る。


 僕がこの世界でようやく見つけた、美しいもの。


 これを、二度と失うわけにはいかない。


『誰も信用しない』と固く誓った理性の鎖が、一瞬で引きちぎられた。


 僕は迷わずミラサを突き飛ばし、彼女の前に立ちはだかった。


 ミラサは驚愕に目を見開き、信じられないといった様子で僕を見つめている。


 ドラゴンの鋭い爪が、僕の背中を斜めに深く引き裂いた。


 背骨を貫くような激痛が全身を貫き、僕は呻きながらその場に倒れ込む。


 しかし、僕に庇われたミラサは、僕の出血した背中に一瞬目を奪われた後、何かに目覚めたように立ち上がり、ドラゴンの傷ついた頭部に再びナイフを突き立て、正確な攻撃を浴びせ始めた。


 ドラゴンの動きが、明らかに鈍っていく。


 僕は、燃えるような背中の痛みに耐えながら、無理やり体を起こし、残された力で最後の攻撃へと転じた。


 僕の攻撃に続き、バスティオが渾身の力を振り絞り、ドラゴンの腹部に特大剣を深々と突き刺し、そのまま大きく引き抜いた。


「ぐおぉおおおお……!」


 ドラゴンは断末魔を上げると、その巨大な体をゆっくりと傾かせ、黒い血を大量に流しながら、ついに大地に倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……これで……終わりか……?」


 倒せた、ドラゴンを……


「ま、まさか……」


 バスティオもまた、満身創痍の体で声を上げた。


「本当に……倒しちまったのか!?」


「……おそらく、そうでしょうね」


 ミラサは、冷静に、しかしどこか冷たい目で倒れたドラゴンを見下ろしていた。



   ◇ ◇ ◇



 ドラゴンを倒した後、僕たちは息を切らしていた。


 バスティオは、ミラサの方をちらりと見た。


「なぁ、ミラサ……お前、本当に星1か?」


「………」


 ミラサは、何も答えなかった。


 その沈黙が、かえって不気味だった。


「いや、まぁいいんだけどさ」


「でも、あの動き……普通じゃねぇよな」


 安堵の息を漏らし、周囲を見渡すと、陽光を浴びて輝く、鮮やかな青い花々が目に飛び込んできた。


 それは、僕たちの血と汗と、奇跡的な連携の代償のように、美しく輝いていた。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第16話 終わり】


次回:【第17話】切なる願い


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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