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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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【第14話】裏切り

【注意】

この話には、いじめ、裏切り、精神的に重い展開が含まれます。

苦手な方はご注意ください。


 僕はそう願いながら、ただ夢見心地で彼女に身を預けた。


 あんなに穏やかで、満たされた気持ちになったのは、いつ以来だろう。



   ◇ ◇ ◇



 翌日、いつもより早めに学校に行くと、表示板の辺りで人だかりができていて、ざわめき声が聞こえた。


「何これ?!」


「誰が貼ったんだこれ。趣味わりぃな……」


「これは、ひでぇ……」


 胸騒ぎがした。まるで、背筋が凍るような感覚だった。


 何事かと思い、人だかりを掻き分けて確認しに行ってみる。


 するとそこには、僕のキス顔の写真が強調されて貼られていた。


 まるで、僕の醜い部分だけを切り取って、晒し上げているかのように。


 血の気が一気に引いて、全身から冷水が注がれたように力が抜けていく。


 心臓が、胸の奥に沈んでいくようだった。


 周囲のざわめきが波のように大きくなり、僕に気づいた生徒たちの視線が突き刺さった。


 一秒でも早く、この場から消えたかった。


 僕は衝動的に、掲示板からそれを力ずくで引き剥がし、怒りと羞恥心で震える手でびりびり、と音を立てて破いた。


 その紙片が粉々に砕け散った。まるで、僕の心のように。


 慌てて、教室に逃げ込むように飛び込んだ。


 扉を開けると、そこにはバルストがいて、ロニアは彼の膝の上に、まるで親密な恋人のように座っていた。


「おいおい、今日は来るのが早かったな!」


 クラス中の視線が、一斉に僕に突き刺さる。


 その視線には、嘲り、軽蔑、そして隠しきれない嫌悪感が混じっていた。


「きゃぁ! テリアルが来た! 超きもいんだけど~!」


「いや~流石の俺でも、その顔は引くわ~」


「へっへっへ……どうだ?」


 バルストの声が、僕の神経を逆撫でする。


「ロニアの唇の味は? 美味かったか?」


 彼の目に宿る悪意は、まるで僕が大切にしていたユラを傷つけた時のあの冷酷な光景を彷彿とさせた。


 怒り、憎悪、そして絶望が、僕の全身を支配する。


 僕は自分がどうなっているのかも分からず、ただその場に立ち尽くしていた。


「おい! こっち見ろよ!」


 バルストはそう言って、ロニアと唇を重ねた。


 その光景は、僕の目の前で、僕の心臓を握り潰すように感じられた。


 心の奥底から、どうしようもないほどの怒りが込み上げた。


「いや~うまい! うまい! ひっひっひっ」


 彼は僕を嘲るかのように、ねっとりと顔を歪ませて笑い、ロニアに向かって言った。


「おい、言えよ……」


 ロニアは、一瞬顔を伏せ、その瞳の奥には怯えのような感情が揺らめいた。


「………」


「早くしろよ……なぁ」


 しかし、バルストの威圧的な催促に、彼女はゆっくりと顔を上げ、僕を見つめた。


 目が合ったかと思うと、目を下にそらし、また目が合った。


 その時。


 その瞳に、かつての優しさは微塵もなく、ただ冷たい感情が宿っていた。


「おい……早く言え」


 そして、ロニアは悪戯っぽく、しかし僕を突き放すような冷酷な声で、僕に告げた。


「うふふ……テリアル~」


「ごめんね、ごめんね~」


 ロニアの声が、僕の心を突き刺す。


「貴方のキス顔を撮るために、こっそり撮影してたの~」


 その言葉が、僕の全身を貫いた。


 昨日のあの甘いひと時は、全てが偽りだったのか。


 僕の心を救ってくれたと思っていた、その優しさまでもが、僕を貶めるための罠だったのか。


 とてつもないショックが僕を襲い、立っていられなくなるほどの絶望感が全身を支配した。


 僕は、その場に崩れ落ちそうになりながらも、なんとか教室を飛び出し、そのまま家へと帰った。



   ◇ ◇ ◇



 数時間後、僕の家にバスティオが来た。


 彼の表情には、心配の色がはっきりと見て取れた。


「テリアル、大丈夫か?」


「何があったか聞いてきて、心配になって来たんだ」


 僕は、深く傷ついた心から、誰も信じられなくなっていた。


 ロニアの裏切りが、僕の中にあったわずかな信頼さえも打ち砕いてしまったのだ。


「帰ってくれ。どうせ、お前も後で僕を裏切るんだろ?」


 バスティオは、僕の言葉に戸惑いを隠せないように見えた。


「俺は、テリアルを裏切らない!」


 彼の言葉は、あまりにも真っ直ぐで、偽りのない熱量を持っていた。


 だが、ロニアの裏切りで凍てついた僕の心には、その熱は届かない。


 僕は、これ以上、誰にも傷つけられたくなかった。


「はっ! 言うだけなら誰でも出来るんだよ! 出てけ!」


 僕は、今までにないくらいの大声を上げた。


 それは、傷つき、追い詰められた僕の、悲痛な叫びだった。


「………わかった……」


「今日の所は、帰るよ」


 バスティオはそう言って、静かに家を出て行った。


 彼の背中は、どこか寂しそうだった。


 そうして、一週間がたった。


 僕の心は、石のように重く、学校に行く気力さえ湧かなかった。


 ユラの死、聖騎士団候補の暴露によるいじめ、そしてロニアの裏切り。


 全てが、僕を蝕んでいた。


 そんな僕の元に、再びバスティオがやって来た。


 彼の声は、僕を現実へと引き戻すかのように響いた。


「テリアル、そろそろ学校に来ないと、日数不足で魔神討伐行きになるぞ」


「別にいいさ。俺は強い」


「俺が嫌なんだよ!」


 バスティオの声が、大きくなった。


「俺は、お前と一緒に魔神討伐に行きたいんだ! 人数も多い方が良い……一緒に行こうぜ」


 バスティオの言葉は、僕の心の奥深くに眠っていた『仲間が必要だ』という思いを揺さぶった。


 確かに、魔神を倒すには人数が多い方が良い。


 僕は、そのために勇者学校に入ったんだ。


「分かった……」


 僕は、渋々頷いた。


「でも、俺はお前を信用しない」


 僕の言葉は冷たかったが、バスティオはそれでも微笑んだ。


「そうか……俺は、お前を信用している」


「ちっ、うるせぇよ」


 僕の心には、まだ深い傷と不信感が残っていた。


「始まりの刻から学校にいくから、今日はもう出ていってくれ」


「わかった」


 バスティオが去った後、僕は心の中で静かに誓った。


 どうせ、バスティオもいつか僕を裏切るだろう。


 なら、僕は魔神討伐という僕の目的のために、バスティオを利用する。


 僕は、もう誰も信用しない。


 信用できるのは、助けてくれるのは、自分自身だけ。


 味方は、自分自身だけだ。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第14話 終わり】


次回:【第15話】アルテムス


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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