表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/48

【第13話】甘いひと時


 ようやく学校に行く、教室に入った途端、その憎むべき声が響いた。


「やっときたかぁ~」


 バルストは、薄汚い笑みを浮かべていた。


「相当ショックだったようだな、テリアル! ざまあみろ、ひっひっひ」


 その言葉に、怒りが爆発しそうになった。


 頭に血が上り、何も考えられなくなった。


 我慢強いはずの僕は、もう限界だった。


 次の瞬間、もはや考えるよりも早く、僕は無意識のうちに腰の剣を抜き放った。


 「カチリ」という乾いた音だけが響き、冷たい刃先がバルストの喉元へと突きつけられた。


「きゃあー!」


 女子生徒の悲鳴が、響いた。


「おいおい……!」


 教室中が騒然となり、悲鳴とざわめきが響き渡った。


「ふっ、やってみろよ!へへへ」


 バルストは、怯むどころか、さらに僕を挑発してきた。その顔には、嘲りだけがあった。


 僕の脳裏には、バスティオの声がフラッシュバックした。


『テリアル、冷静になれ! 殴ったら魔神討伐に駆り出されるぞ。冷静になれ!』


 学校内で暴力行為を行えば、即座に魔神討伐という名の「死刑宣告」を受けることになる。


 この理不尽な掟が、僕を縛りつける重い鎖だった。


 悔しさに唇を噛み締め、震える手で僕はそっと剣を鞘に納めた。


「できもしねぇくせに、やんなよな。はっ、みっともない」


 屈辱と、自分自身の無力さに対する怒りが、僕の胸を締め付けた。


 僕は、その場に立ち尽くすしかなかった。


 何とか怒りを抑え込み、授業を終えた。


 休み時間、僕は独り、裏庭の隅で座り込んでいた。心が石のように重く、どこにも出口が見つからない。


 その時、優しい声が聞こえた。


「テリアル……何があったか、聞いたよ」


 ロニアは僕の隣に静かに座り、その瞳は僕の苦痛を理解しようとしているように見えた。


「何か、私に出来ることがあったら言ってね」


「うん……」


 彼女はそっと僕の手を取り、その温かさが僕の冷え切った心を少しだけ溶かした。


「出来ないことが多くて、ごめんね……」


「いいよ。僕の問題だから」


 僕の聖騎士団候補という秘密がバレてから、多くの生徒は僕を避けるようになった。


 ロニアは周りを気にする素振りを見せつつも、こうして話しかけてくれる。


「でも、力になってあげたい」


「ありがとう……何かあったら頼む」


「うん」


 ロニアは僕の言葉に、力強く頷いた。


 いじめは相変わらず続き、学校での僕の居場所は、針のむしろのようだった。


 しかし、そんな中でも、バスティオは変わらず僕の味方でいてくれたし、ロニアもたまにこうして話しかけ、僕を気遣ってくれた。


 彼女の優しさが、僕の心を少しずつ癒していった。


 僕は、ロニアの真っ直ぐな優しさに、知らず知らずのうちに心惹かれていった。


 この無力な状況の中、彼女の存在は、僕にとってとても大切なものになっていた。



 一年半以上の時が流れ、僕とバスティオとロニアは、いつものように時間を共にしていた。


「おっと、もうこんな時間か…」


 バスティオが、立ち上がった。


「悪いな、俺はそろそろ帰るよ。じゃあな!」


「え~、もう行っちゃうの?」


 ロニアが、残念そうに言った。


「早くない?」


「あ~……まあ……悪いんだけど、待ってる彼女達がいるからさ」


「いや…前から思ってたけど、モテすぎだろ……」


 僕は、バスティオのあまりにも堂々としたモテっぷりに、若干引き気味で苦笑いを浮かべた。


「何もしてないんだけどな……でも、せっかくだから楽しまなきゃ損じゃん?」


「うふふ、でも、ほどほどにね」


「あはは……恨みを買わないように気を付けるよ」


「でもさ、モテすぎで恨みを買わない?」


「大丈夫だって!」


 バスティオは、胸を叩いた。


「俺はみんなに平等に接しているからな。誰かが不満を抱いたら、その時はその時さ!」


 バスティオは、ロニアを見た。


「ロニアだって、そうだろ?」


「あら? う~ん……そうなのかな?」


「でも、私は恋人は作らないよ?」


「ちっ、二人ともモテすぎだ」


「まあ、妬くな、テリアル」


 バスティオは、僕の肩を叩いた。


「お前には、この先きっといいことあるさ! じゃあ、俺は行くぞ!」


 そう言うと、バスティオは手を振りながら走り去っていった。



   ◇ ◇ ◇



 残された僕に、ロニアはいつもの癖で、じっとりと視線を向けてくる。


「テリアルは、私のこと好きでしょ?」


 僕は、心臓が跳ね上がった。


「え!?」


 僕は、慌てた。


「と、と、友達として好きなだけだよ……!」


「うふふ、う・そ・つ・き」


 ロニアは、いつもよりずっと甘く、僕の耳元で囁くようにそう言った。


「!?」


「うふふ、可愛い。もう……ばればれよ、テリアル」


 そう言いながら、ロニアは僕にゆっくりと近づき、僕の手をそっと握った。


「い、いつから分かってたんだよ……」


「一年くらい前からかな~」


「私も、本当はテリアルに惹かれているの。こうして隠れながらなら、私も素直になれるわ」


 そう言って、ロニアは僕にぴったりと身を寄せ、その温もりを伝えてきた。


 僕の心臓は激しく高鳴り、全身が固まってしまった。


「大丈夫、リラックスして」


 優しく声をかけながら、ロニアは僕をふわりと抱きしめた。


「ロ、ロニア……」


 僕は震える手で、そっとロニアを抱きしめ返した。


 抱きしめられると、心が温かくなった。とても心地良かった。


 その確かなぬくもりを感じていると、ロニアが僕の側頭部にそっとキスをした。


「ロニア……好きだ」


「うふふ、知ってる」


 ロニアは、少し間を置いた。


「………」


「今度は、テリアルが私に口づけして」


 そして、僕は彼女の唇に、そっと僕の唇を重ねた。


 温かくて、柔らかくて、心臓が飛び出しそうだった。


 このまま、ずっとこうしていたかった。


 こんなに甘いひと時が、自分にもあるなんて。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第13話 終わり】


次回:【第14話】裏切り


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ