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ラティオ・レコード ~砕かれた薔薇と復讐の玉座~  作者: Muu-S


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【第11話】安らぎ


 学校生活の重圧で心が鉛のように沈んだ、とある放課後。


 校舎裏の雑木林の奥から、か細い、今にも途切れそうな鳴き声が聞こえてきた。


 茂みを分けると、そこにいたのは、手のひらに乗るほどの真っ白な子猫だった。


 冷たい雨粒のような弱々しい声で鳴く、その子猫を僕は迷わず抱き上げた。


 その小さな体は、温かい湯たんぽのように僕の冷えた指先に熱を伝えてきた。


 僕は子猫を自宅に連れ帰り、数週間かけて懸命に世話をした。


 子猫は、僕の顔を見れば安心しきったように喉を鳴らし、目を細める。


 僕はその「安らいだ表情」から、「安らぎ」を意味するユラと名付けた。


 充分に元気になった後、僕はユラを保護した場所に戻したが、完全に別れることはできなかった。


 僕は放課後、甘いミルクの匂いがするポケットを頼りに、ユラに会いに足を運ぶ。


 そのふわりとした毛並みに触れると、心が温かくなった。


 小さな鼓動を感じると、孤独な気持ちが少しずつ和らいだ。



   ◇ ◇ ◇



 いつも通り森で修業をしていた時、背後から陽気な声が聞こえた。


「あれ? テリアルじゃん! この辺で修行していたんだな!」


 バスティオだった。


 彼は、僕の訓練場に驚いた様子で言った。


「実は僕もこの辺で修行してたんだよ! だって、学校の訓練って生ぬるいじゃん……」


 バスティオもまた、僕と同じように学校の訓練に物足りなさを感じていたみたいだ。


 彼の言葉は、僕が抱えていた孤独感を、一瞬だけ和らげてくれた。


「確かに、あれで魔神討伐できるわけがない」


「その内、皆追いついて来るんだろうけど、それじゃ魔神は倒せないと思う」


 バスティオは、僕の言葉に深く共感し、僕の本質を見抜いたようだった。


「おお! 分かってんじゃん! 流石だな!」


 バスティオは、目を輝かせた。


「いや~確信したぜ。テリアル、お前、マジで魔神討伐しに行く気だろ……」


「う、うん……」


「やっぱりな! なあ、いつか魔神討伐する時はよ、俺と組もうぜ!」


「あいつをぶっ飛ばして、真の平和を取り戻すんだ!」


 その瞬間、僕は様々な感情が込み上げてきて、熱い涙が頬を伝った。


「おいおい、大丈夫か?」


 バスティオは、心配そうに僕を見た。


「心配すんな! 俺はどんな時でも、テリアルの味方だ。せっかくだから、今日、俺んち来るか?」


 僕にとってそれは、学校での嫌がらせや、心を覆っていた不安を忘れさせてくれるような、待ち望んでいた誘いだった。


「うん」


 僕は、迷わず頷いた。


「よし! 今日はパーティーだ!」


 どこまでも楽観的な彼の言葉は、僕の心にも明るい希望を灯した。



   ◇ ◇ ◇



 僕たちは、バスティオの家へと向かった。


 彼の家は、リンティカ天帝国の庶民街にある商店街の中にあった。


「ここが、俺んちだ」


 バスティオが指差したのは、熱気と金属の匂いが立ち込める鍛冶屋だった。


 その奥からは、力強い鎚の音が響いてくる。


 鍛冶屋の中には、バスティオと同じく大柄な男が立っていた。


「よお! 戻ったか!」


 大男は、豪快な声で僕たちを迎えた。


「父さん! 友達のテリアルだ!」


 バスティオは、興奮気味に言った。


「俺と同じ森で修行してたんだぜ! 運命だよな!」


 バスティオは、親友ができた喜びを隠せない様子だった。


「テリアル、俺の父さんのガルフォスだ」


 ガルフォスは、その大きな体とは違って、親しみやすい笑顔で僕を見つめていた。


「こ、こんにちは」


 僕は、少し緊張しながらも挨拶を返した。


 ガルフォスは、目を丸くして言った。


「おお! 森で修行とは……こりゃ珍しいな!」


「お前さん、もしかして本気で魔神討伐を考えているのか?」


 彼は、僕の本質を見抜いたかのように問いかけた。


「はい……」


「そうか、そうか……」


「実はな、バスティオは自主的に勇者学校に入ったんだぜ。バカだよな……」


 ガルフォスは、心配そうな顔をしていた。でも、どこか諦めたような顔でもあった。


「ん?」


 ガルフォスは、力強い眼差しで僕の腰の剣に目を留めた。


「テリアルの持っている、その剣。見せてくれないか?」


「え? はい」


 僕は、素直に剣を差し出した。


 ガルフォスは僕の剣を受け取ると、その黒い柄の滑らかな感触や、鈍く光る刃をじっくりと眺めた。


 次の瞬間、驚きに目を見開いた。


「ちょっと待ってくれ、これは……アリアの剣じゃないか……」


 僕の心臓が、大きく跳ねた。


「え…お母さんを知っているの?」


 そういえば、以前お母さんの手紙に「ガルフォス」という名前があったような気がする。


「ああ……知っているとも。君が、アリアの息子か……」


 ガルフォスは、遠くを見つめて黙り込んだ。お母さんのことを思い出しているのかもしれない。


「アリアの剣を作ったのは、この俺だ。まあ、素材はアリアが持って来たんだがな」


「素材のラーム鉱石は、ダイヤのような硬さを持つ珍しいもんでな。加工には、それはもう苦労したもんだ」


「彼女には恩がある。あの素材のおかげで、バスティオが持っている特大剣も作ることができた」


 ガルフォスは、特大剣に目をやった。


「あれも、ラーム鉱石でできている。本当はな、俺がその特大剣を使って、魔神のクソ野郎をぶっ飛ばすつもりだったんだが……」


 ガルフォスの声は、何だか悔しそうに聞こえた。


「妻のイリアナが病で亡くなってな。残された息子と娘を置いていくわけにはいかねぇだろ? 孤児扱いされるだろうしな……」


「……それで、気づいたらバスティオが、あの特大剣を担いで勇者学校に行くと言いやがった。本当に、まいったよ」


 ガルフォスの顔は複雑だった。怒ってるのか、心配してるのか、よく分からなかった。


 バスティオは、そんな父の言葉を気にもせず、いつもの楽観的な調子で言った。


「何言ってんだ、生き残ればいいんだよ。簡単だろ?」


 ガルフォスは、天を仰いだ。


「また言っていやがるぜ……」


 ガルフォスはすぐに表情を切り替え、明るい笑顔で僕たちを招き入れた。


「まあいいさ。あがってけ、うめえもん用意してやっからさ」


 そう言われて、僕たちは温かい光が灯る家の中へと入った。


「あ! お兄ちゃん、お帰り~」


 奥から、少女が元気いっぱいの声で飛び出してきた。


「あれ? お客さん?」


 彼女は、好奇心旺盛な目で僕を見つめた。


 バスティオは、リフィエの頭を優しく撫でた。


「ただいま、リフィエ」


「俺の友達のテリアルだ。テリアル、俺の妹のリフィエだ」


「こんにちは」


 僕が挨拶すると、リフィエは満面の笑みで返してくれた。


「こんにちは!」


 彼女の笑顔は、見る者を和ませるような魅力があった。


「今日はパーティーだからな、皆で飲み食いしようぜ!」


 彼の言葉に、僕の心は温かい友情と、楽しい未来への期待で満たされた。



   ◇ ◇ ◇



「バスティオ……本当に、魔神討伐に行くのか? こんなに温かくて、守るべきものがあるのに……」


「ああ、だからこそだ! 俺は、リフィエに魔神なんていない、本当の平和な世界を見せてやりたいんだ!」


「お兄ちゃん……! でも……お兄ちゃんがいなくなっちゃうのは、やっぱり寂しいよ……」


「俺は、伝説の勇者ルミルを超える、とてつもない強さを手に入れてやるんだ!」


「そうすれば、魔神なんてあっという間にぶっ飛ばせるさ!」


 バスティオは、僕を見て言った。


「なに、テリアルだっているんだから、鬼に金棒ってやつだ!」


「バスティオ……ありがとう……」


 バスティオは、僕が聖騎士団候補だと知っても、態度を変えなかった。


 それどころか、一緒に魔神討伐に行こうと言ってくれた。心の底から、ありがたかった。救われた気持ちだった。


「お~い! メシができたぞー! 今日は特製ハッシュドビーフだ!」


 美味しそうな料理の香りに、心身ともに癒される。


「お兄ちゃんたち、天帝国の外で修行してるから、きっと色んなお花を見かけてるんでしょ?」


 リフィエは、目を輝かせた。


「どんなお花があるのか、聞きたいな~!」


「うーん、そうだなあ。やっぱり天帝国に近い場所だと、白くて小さい花が多いかな」


「でも、テリアルは俺よりもっと遠くまで行ったことありそうだもんな! テリアルは、どんな花を見たことある?」


「うん……。すごく綺麗だなと思った花があるよ」


「ちょっと大きくて、花弁が五つあって、鮮やかな青紫色をしてた」


 自身の修行中に見た美しい花を思い返した。母親から植物について教わった記憶がよみがえるかのような、穏やかな気持ち。


「あ! それって多分、アルテムスだね! 私、図鑑でしか見たことないけど、すごく綺麗だなって思ってたの~」


「ねえ、私、いつか伝説の薔薇っていうのを見てみたいな! もし見かけたら、教えてくれる?」


「真っ赤な色で、金色のふちが輝いてるんだって!」


「リフィエは、本当に花が好きなんだね」


 リフィエが目を輝かせて話す様子に、素直にすごいなと思った。彼女の無邪気な憧れに、微笑ましくも温かい気持ちになる。


「うんっ! 大好き! テリアルお兄ちゃんは、何が好きなの?」


「僕は、動物が好きだよ」


「最近、白い子猫を助けて、友達になったんだ。今度、見に来る?」


 自身の好きなもの、特に学校での辛い状況の中で、心の支えとなった白い子猫のユラについて、素直に打ち明ける。


 リフィエにそれを話すことで、少し心が軽くなるような感覚がした。


「わぁ! 子猫ちゃん、見たい! 見たーい!」


「うん、じゃあ今度、一緒に会いに行こう」


 リフィエの純粋な喜びに、僕は心が温かくなった。


 自分の大切な存在を共有できることが、こんなに嬉しいなんて。


 こうして、僕は久しぶりに温かくて楽しい時間を過ごした。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【第11話 終わり】


次回:【第12話】喪失の赤


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回もお楽しみください。

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