嘘つき
宝石の中でも極上と呼ばれる“鳩の血”のような、最上級の紅玉のような双眸を持つ少女は、白のワンピースを翻し、少女自身の灰色にも見える薄紫のツインテールと同じ色彩をしたウサギのヌイグルミを抱きしめながらかつて無いほどに激怒していた。
曰く「パパの大嘘つき」という理由で。
その上、幼いためか、制御が不完全なためか―おそらくは両方だろうが―超能力と呼ばれる力が暴走し、その部屋にあるマグカップといい本といい、果ては本棚や鉄パイプのベッドまで浮き上がっていた。
××××
彼女の名前は、森下結菜という。まだまだ発展途上の、将来を期待されている少女。
その潜在能力の高さからサイキックポリス、日本支部総合責任者である伊澤萌未にスカウトされた日本支部最年少のサイキックポリスだった。
「結菜」
ノックと共に部屋に入ってきたのは、結菜に超能力の使い方、制御の仕方を指導している“ころん”と、萌美の娘の――
「未遠!!」
それまで涙を浮かべながら宙に浮いていた結菜は、二人の姿を見つけると表情を明るくした。
「結菜、また派手にやってるね」
どこか呆れたような、からかいを含んだかのような未遠の言葉に、結菜は頬を膨らませた。
「だって……」
拗ねている結菜を目にした二人は目をあわせて苦笑すると、持っていた荷物を結菜の前に差し出した。
「「Happy Birthday Yuina」」
綺麗にラッピングされているプレゼントを差し出された結菜は、大きく目を開いて二人の目の前に降り立った。
「え……」
「私たちだけじゃなくて、皆からのもあるよ……シアちゃんとリザちゃん、樹生と蓮もそうだけど、海さんからもちゃんと受け取ってるのよ?」
次々と名前を読み上げながら渡されるプレゼントに、結菜はどこか呆然としながらその光景を眺めていた。
「――で、これが萌未ママから……って結菜!?」
驚愕したような声を上げた未遠に、首を傾げた結菜の頬にころんが優しくハンカチを当てた。
「ころん……?」
「結菜、嫌だった?」
心配そうに結菜の顔を覗き込むころんの瞳に映っている自分の涙を見つけた結菜は、首を振りながらもポロポロと涙を流し続けた。
――結菜が生きていた中で、これまでに無いくらい心の込められたプレゼントの数々。
けれどその中に、結菜が望んだ「家族」からのものは一つも無かった。
「……パパの嘘つき!」
生まれて十年。結菜はそれしかまだ生きていない。
生まれてすぐに母が亡くなり、超能力を持っていた結菜は姉に恐れられていた。
唯一の味方だった父も、再婚を機に結菜を遠ざけるようになっていた。
萌美に連れられてサイキックポリスに所属することになった時、結菜の誕生日だけには結菜を訪ねるという約束をしていたのに――
「パパの嘘つき! ……パパなんて大嫌い!」
結菜は泣き疲れて眠りに付くまで、未遠にすがりつきながらずっと涙を流していた。