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激突の序曲

彼女を背負って、研究所内を駆け巡る。目的の人物を探すが、あるのは死体、死体死体死体死体死体死体死体。気分が悪くなってくる。一般人なら吐き気を催す光景だ。ここの研究員は、明らかに人を殺すことを快楽として感じて生きていると感じた。そのことを証明するかのようにまともな死体は一つもない・・・四肢がないもの、解けていて原型が確認できない死体、恐怖で顔が歪んでいるもの、様々な死体が各部屋に転がっている。自分の信念ではなく、ただ快楽のために人を殺すここの研究員に対して俺は嫌悪感を感じていた。それと同時に、中々宵闇が見つからないことがブルーな気分に拍車をかける。悪態をつきそうになりながら、ひたすら案内される部屋を回っていく。


「ここを右に曲がった部屋が最後」


「そうか・・・」


扉を開けて俺は、驚愕した・・・いなかったのだ・・・目的の人物が・・・それどころか人っ子一人いなかったのだ。


「何だと・・・」


バカな、まだ殺されてはいないはずなのに・・・いや、そもそも誰もいないのは不自然だ。


「ここにいる被験者は何処に行ったんだ?」


「・・・分からない。でも、少し前まではここにいたはず」


「殺されてはないんだな」


「たぶん」


「そうか・・・」


結局、目的は果たせずに無駄骨になってしまったわけだ・・・


「おい、お前。ここから最短距離で出口の場所がわかるか?分かるなら案内しろ」


「分かった」







「分かった」


私は、彼にここからも最短ルートを伝えながら、今日のことを振り返っていた。昨日の私なら信じないであろうこと・・・私はここから出ようとしているしかも自分の意志で。驚いたことに私は、彼についてきたことに後悔も心配もしていなかった。それが、感情がマヒしたせいなのか・・・はたまた理由があるのか


「ねえ、あなたはなんでここに来たの?」


初めから、ずっと気になっていることを聞いてみたのだが


「・・・話す理由がないな」


帰ってきた答えは、淡白だった。


「あるわ、私はこれからあなたについていくんだもの・・・あなたのことを知りたい」


「ここを出て行けたら教えてやる」


そう言って、彼は話を打ち切った。でも、私は彼の言葉が震えていることに気づいていた。


彼は、さっき、ここに生存者はいないのかと聞いた・・・彼は、私としゃべるときかなり無表情だ。だけど、殺されてはいないと思うと伝えた時の彼の表情はなんだかほっとしているように見えた。


「そろそろだぞ」


前を見ると、光が差し込んできた。


「ッ・・・・・・・・・・太陽」


3年ぶりくらいに、浴びる光に体が驚いたのか、心が追いつかないのか、その両方なのか・・・私の体は動かなかった。もともと力がうまく入らなかったが、そうではなくて何というのだろう。まるで、金縛りにあったように動かなかった・・・。


「間に合わなかったようだな」


彼の言葉で、意識が現実の戻される・・・破壊され消えている門、その残骸の上に人が居る。


いや、正確には一人ではないから人たちといったほうがいいのかもしれない。


「何・・・あれ?」


「魔法騎士団・・・しかも、青い軍服ということは精鋭部隊だな。暴れすぎたか」


そう言った、彼の口は吊り上がっていた。


「翡翠、先に謝っておこう」


何を・・・と聞く前に首元に衝撃を感じ私の意識は暗転していった。






私は、焔 御影。名家焔家の長男であり、一応最年少で精鋭部隊の副隊長になった男だ。幼いころから、神童、焔家始まって以来の天才と言われてきたが私は知っている。上には上がいて、そいつは下の者のことなど眼中にないことを。


柊 緋色。初めて奴に会ったのは、10歳の誕生日を迎えた時。名家を集めた誕生日会が開かれた。様々な家のものが私のところに挨拶に来る中、興味がないとばかりに外を見ている奴が一人いたのだ。


私は、そいつに声を掛けた。


「僕の名前は、御影。よろしく」


同世代でも有名だった私は、大抵こちらからあいさつに行けばいい反応をしてもらえていたのだが


「ああ、柊 緋色だ。よろしく、焔」


下の名前を名乗ったのにもかかわらず、上の名前でしかも呼び捨てで呼ばれたのだ・・・衝撃だった。

何より、気に食わなかったのは、その目だ。私はおろか、人間を映していないその目が気に食わなかった。だから、当時の私は突っかかってしまったのだ・・・今思えば命知らずだったなと思う。


「決闘だ!!!」


大騒ぎになったものの、すぐに誕生日の余興だと納得させて私は決闘に準備をさせた。

親も、この時は何故か止めなかった・・・しかし、その理由を私はすぐに知ることとなった。


一対一の魔法を使った決闘。負けるなんてみじんも思っていなかった。当時の私は、自分の強さに酔っていたのだろう・・・だから、その結果を受け入れるのは、時間が必要だったのだ。


勝負は一瞬。私の放った炎は、もう魔法騎士団の騎士レベルにすら肉薄していた。だが、そんなものは意味がないとあざ笑うかのように奴の氷は私の炎を消し、私に傷をつけた・・・。


「こんなものか」


あいつは、そう吐き捨てて去って行った・・・。冷えた雪の絨毯の上で私は大の字に倒れたまま、しばらく動けなかった。遅れて湧き上がってきたのは、羞恥心その後は怒り、くやしさそして何とも言えない高揚感だ・・・。


これが私とあいつとの、ファーストコンタクト。今思えば、よくこれで関係がこじれなかったものだ。イヤこじれたからこそ、私は、緋色を理解できなかった。それから、私はあいつに挑み続けた。どうしてもあの目が許せなかった、自分をきちんと認識させたかった。何度も何度も挑み、一年後、一度だけ攻撃を当てたことがある。その時のあいつの驚いた顔は忘れられない。あの時初めて、あいつは私のことを御影と呼んだ。そこからだ、彼とはよくしゃべるようになり、友人と呼べる存在にまで彼は私の中でなっていた。だが、友人だと思ていた男のことを私は理解していなかった。その2年後だ。


彼が、実の父を手にかけ、使用人を皆殺しにして家を出たと聞いたのは。助かったのは、妹とあいつの専属の使用人の一人だけだったという。そこから、二年間騎士団に入った私は緋色を追ってきた。時間が経つごとに、彼の悪名は裏ではかなり広まって行った・・・悪魔、死神。数え上げればきりがない。


「懐かしい顔だ・・・久しいな。御影」


今、私の前に、あの日と何も変わらぬ友がいる。あの時には気づけなかった、暗く歪な炎をその目に宿して。


「緋色・・・」

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