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恋する優霊

過去作品ラストです。

わたしは彼のことが

大好きだった


わたしが生きていた頃は

彼に話しかける勇気が無くて

ただ遠くから

彼の姿を見ることだけだった

それだけでわたしは

幸せだった――


大雨による不鮮明な視界

その中で起きた交通事故

不運にもわたしは

その事故に巻き込まれて

生命を落としてしまった


彼への想いを

伝えられないまま

若くしてこの世から

亡くなってしまった――


だからだろうと思う

わたしが未練を残したまま

成仏できない存在である

魂になってしまったのは


誰かを呪うなんて

考えたくもない


そんなことしたら

わたしは悪霊になってしまう


わたしはただ

生前、彼に伝えられなかった

想いをを伝えられれば

満足するのだから――


夕暮れが照らす

川沿いの道を

生きている彼と

魂であるわたしの

二人きりで歩いている


交わせない温もりが

心寂しくあるけれど

生きていた頃に

遠くから眺めるだけより

こうしてすぐ近くで

隣にいられることが

心から嬉しい


ああどうか

二人きりのこの時間が

いつまでも続きますように――


彼の枕元に立つわたし

わたしの姿が視えるのなら

魂をあの世へ持っていくと

誤解されるだろう


わたしにはそんな力も

何もないのに


ただわたしは

彼の幸せだけを

願うだけ


彼に想いを伝えれば

それだけで

わたしは成仏するだけの

ちっぽけな存在だ――


ある日の昼間

彼の姿を眺めていると

どこからか少女の声が

わたしの脳裏に聞こえた


「あなたと彼の一時は

この砂時計が

零れ落ち切るまで

続くもの


あなたが抱いた想いは

砂時計の砂が

零れ落ち切ったその時に

叶える場へと

あなたと彼は誘われる


その時をお待ちなさい


砂時計の残量は

あなたの魂に

刻み込んでおいておくわ――」


声はそう言い切ると

突如として

わたしの目の前に

白く強い光が現れ

わたしの視界を灼いた――


突然現れた

白光によって

灼かれた視界が

回復すると


彼の姿は無くて

闇の中に巨大な砂時計が

宙に浮いていた


あれが少女の声が言っていた

想いを伝えるための

場所へと誘うまでの

残り時間を示すもの

なのだろう


残量を大まかに見ると

ちょうど半分くらい


どれくらいのペースで

砂が零れ落ちるのか

わたしには分からないけれど


彼との間に

残された時間を

大切に使いたいと

わたしは思った――


わたしは気がつくと

砂時計が浮かんでいた

闇の中ではなく

生きている彼の

すぐ近くにいた


あとどれくらい

彼のそばにいるのか

分からないけれど


わたしが

生きている間に

できなかった

彼への告白を


わたしの想いを伝える

遺された機会を逃さずに


最初で最期の

勇気を振り絞って

彼に伝えよう――


《終》

次で終滅のウルドは終わりです。



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