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エピソード

 異界と呼ばれている世界には異種族が住んでいる。その異種族は現代社会の中で生きる人間達の心を喰らう存在である「悪魔」と呼ばれている種族であった。

 種族の壁を超えてこの悪魔と生きていく人間が存在しているのも、また事実ではあった。だが、その人間達のことは一般社会の中では知らない者達の方が多いと言われている。

 その知られない人間達の代表格と言われている一族、その名を「紫藤」家と呼ばれている一族達が悪魔と交流を持っていると言われていた。

『我と汝らは共に生き永らえて、死を分かり合い、そして、世界を変えんとする願いを叶えん』

 悪魔の王で一人、ルシファーは魔法書を右手に持って開く。開かれた頁から光を放つのを受けてルシファーは黄金色の瞳を細くする。

 ルシファーの前に浮かび上がる一陣の魔法陣は、黄金色の光を帯びて……静かに煌々と輝きを放つのであった。

――――

「紫藤」

「はい?」

 大きな屋敷の廊下で、一組の男性が向かい合って会話を始めようとしていた。片方は成人男性で、艶やかな色をしている黒い髪の毛を持っている男性で、右目には片目用の眼鏡を着用しているが、視力が悪い、と言う訳ではなさそうである。

 片やもう一人の男性は若い姿をしており、その男性は成人男性と向き合って少し見上げる程の状態であるのを、遠目でも分かるが二人は話しをし始めると雰囲気が引き締まっていた。

 紫藤と呼ばれたのは若い姿をしている男性で、茶髪の襟足長めで、瞳は髪と同じ茶色をしているが顔立ちは少し若い故の幼さを見て取れる。その青年が成人男性を見上げて会話の返事をしていく。

「どうかされましたか?」

「楓様のご容体は如何なものかと思ってな。兄上の様子はご存知ではあろう?」

 成人男性が威圧的ではないが、何処か気になるのだろう様子が伺い知れて青年は静かに言葉を口にする。青年は男性が兄のことを気にしている理由を知っているからこそ、慎重に言葉を選ぶことにしているのを男性は知らず、そして、気付くこともしない。

「兄は今はしっかり療養しております。先の召喚の儀で少し怪我をしましたが、悪魔に恐れることもなかったので兄の容体をお知らせするのが遅れて申し訳ないです」

「そうだったのか。いや、楓様のことだから悪魔に魂を傷付けられることはないかとは思っていたが、お身体の調子を把握しておいでならば問題はないな。綾人君、君も次期総代として紫藤家を守る人間だ。決して悪魔に魂を傷付けられないように」

 男性はそれだけ言って、綾人と呼んだ青年の肩を叩いて立ち去った。綾人の瞳が剣呑な光を宿したことを知る者はそこには存在しなかった――――

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