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第三幕⑤ 白昼夢の事情、蹴られた兎

俊也がラビットの部屋から出ると、そこはホールとなっていた。

以前見た大広間とは異なり、明るくカラフルな壁紙から黒を基調とした落ち着いた色合いとなっており、床には深紅の絨毯まで敷かれていて、どこかホテルのような印象を感じた。


ざっと見た限り、円形のホールの壁には出てきた扉と同じ物が二十以上は確認出来た。

ホテルならば、部屋番号の表札が書かれている部分には動物の顔のドアノッカーや名前の表札が掛けられている扉も幾つか見られたが、何も掛けられていない扉も目についた。

俊也がホール内を見て回していると、急にライが袖を引っ張ってきて「ここがぼくたちのへやだよー」と言ってくる。

見てみれば、ドアには丸みのある文字で書かれた三つ子の名前の表札が掛けられていた。


「へぇ、三人一緒の部屋なんだな」


「うん! もうすこしおっきくなったら、それぞれのへやをよういしてくれるって!」


「そうしたら、としあもしょうたいするねー」


「ありがとう、その時はちゃんと誘ってくれよ?」


「「もっちろんーー!!」」


元気良く答える二人に釣られて、俊也も思わず顔をほころばせる。

ホールの奥には一際目立つ黒塗りの重厚な大扉があり、上部には『執務室』と書かれた金属板が嵌められていた。

しかし、ドアノブには小さなプラカードが掛かっており、赤字で大きく記されていた。

『座長、脱走の恐れあり。緊急以外の入室不可』

ご丁寧に振り仮名までふられており、威厳はあまり感じ取れなかった。


「滅茶苦茶警戒されてるな、クラウン……」


「クラウン、いつもどこかにおでかけしてるよー! それでかえったら、ジェーンせんせいにしかられてるのー!」


「だから、ジェーンせんせいがようじあるときはみはりばんがおおめにひつようだって、ディンゴくんもこまっていたよー」


「……どんだけ、仕事嫌いなんだよ……」


「ま、まぁ、でもやる時はやる人ッスよ、クラウンさんは!」


「………ふだんは、なまけてる?」


「ツヴァイ! いくらなんでも言い過ぎッスよ!」


「………じゃあ、サボってる?」


「それは……事実ッスね」


ツヴァイの問いかけに、否定出来ないラビット。

悲しい事に尊敬している上司でも、弁解出来ない事はある。

俊也は話題を変えるために、ラビットに質問する。


「そ、それにしても結構沢山部屋があるけど、メンバーって沢山いるのか?」


「いや、全然ッス。二十人いるかいないかッスね」


「……随分少ないんだな」


「部屋も空き部屋が大半ッスけど、そもそも部屋を使うメンバーがほとんどいないッスよ。

使っても鍵使ってここ《デイドリーム》に戻る為の移動拠点が主になってるッス。皆がジェーン姐さんやクラウンさんみたいに瞬間移動が出来る訳じゃないッスからね」


「鍵っていえば、異能で作った物って消えないように出来るのか?」


「厳密に言えば出来ないッスよ。さっきオイラが作ったエアマットなんかが分かりやすいッス。あれは、オイラが異能で空気を集めて作った物ッスけど放っておけば込めていた力がなくなって消えちゃうッス」


「……あれ、でもさっきの鍵は消えてないような……」


「これは異能で作った物じゃないッスからね」


そう言ってラビットがポケットからさっき使っていた小さな鍵を取り出して、俊也に渡す。

しかし、受け取った俊也はすぐに違和感を感じた。

鍵のサイズや見た目がおかしい。

まるでガチャポンで出てくる景品のような明らかにおもちゃだと分かるような代物だった。


「何だ、これ? おもちゃじゃないか」


「そうッス。ランドさんが異能を込めた物で、これを扉にかざせば、デイドリームへ繋ぐ事が可能になるッス。この込められた異能こそが本当の鍵になっている訳ッス」


ラビットに説明されながら、手元の鍵をもて遊ぶ俊也だったが、ふとある疑問が湧く。


「でも、これをなくしたりしたらマズくないか? 不法侵入し放題になるぞ」


「そこは大丈夫ッス。物に異能を込めても一日くらいしか保てないッスし、一回使っちゃったら異能もなくなってただのおもちゃになるッス」


「なるほど、防犯対策にもなっている訳か」


「ここに来るには、ランドさんの扉に入らないといけないッスから、こちらから招待しない限りは入る事も出来ないッスけどね。

一応見込みのある子には来る度に鍵を渡しているッス」


「え? じゃあ、それ以外の子達は皆わざわざ迎えに行っているのか?」


「いやいや、そんな事はしてないッスよ!メンバーじゃない子達もちゃんと扉から来てるッス」


「は? いや、さっきは『ランドさんの扉に入らないとここには来れない』って、言っていたじゃないか。どうやって異能がある子と侵入者を見分けているんだ?」


「フフフ、そこがランドさんの凄い所ッス! 実は――」


「………ランドくん、いのうでとびらにルールをつけてる……『ちょっ! ツヴァイ! オイラが説明していたッスよ!?』……ラビット、うるさい……」


自慢げに説明しようとするラビットを遮って話しだすツヴァイ。

抗議するラビットだったが、ツヴァイは顔をしかめて文句を聞き流そうとそっぽを向いた。


「扉にルールってどういう事?」


「……ランドくん、デイドリームへのとびらになんこかかぎをかけてるの。ひとつが、『いのうがある』で、ふたつが、『こども』……だったかな?ほかはしらない……

でも、このじょうけんにあてはまらないひとははいれないようになってる……」


「へぇ、そんな事も出来るんだな……あれ、でも俺が帰る時、ランドさんは扉を作っていたけど?」



「……ん、それもランドくんのちから…………

でも、つくったんじゃなくて、まぼろし………」


「え、 ランドさんって移動系の異能者じゃないの?」


「……あってる。でも………えーと……」



「ランドさんは確かに『空間移動』の異能者ッスが、それを補佐する扉限定の幻を見せるという異能も使えるッス。

俊也がこの間見た扉は、執務室の扉にかけた幻だったッス」


説明し辛く言葉が途切れてしまったツヴァイに代わり、説明するラビット。

ツヴァイはムッとした表情を浮かべてラビットを睨んでいたが、ラビットはそれに気付かずに話を続けていく。



「それって、複数の異能が使えるって事か?

一人一つしか使えないのかと思ったけど……」



「間違っていないッスけど、正しくもないッスね。

正確には、使っている人のイメージ次第で出来る事が増えていく感じッス。もちろん練習は必要だし、何でも出来る訳じゃないッスけど、成功したら別の異能も使える事があるッス」


「それって、誰でも出来るのか? 」


「そこは人それぞれッス。ランドさんの場合は、『扉に関わる』異能が使えるようになったッス。

オイラの場合は、風を吹かせるだけだった状態から、今みたいになったッスけど………って痛っ!!」


ラビットがそこまで言った所で、突然右足を押さえて悲鳴を上げた。

驚いた俊也がラビットの方を見ると、原因は彼の足元で頬を膨らませたツヴァイだった。

どうやら彼女がラビットの脛を思い切り蹴飛ばしたらしい。

普段の眠そうな目をつり上げて、両手を腰にあてて文句を言うツヴァイ。


「………わたしがせつめいしていたのに、ラビットがとった………」


「痛いッスよ! ツヴァイが説明出来ないから代わりにやってあげただけじゃないッスか!」


「………せつめいできた、ラビットがよこどりしただけ!」


「先にやったのは、ツヴァイからッス!」


痛みでその場に飛び跳ねながらも文句をいうラビットに、ツヴァイも負けじと言い返す。


「お、おい?! 二人共やめろよ!」


「だいじょうぶー! ちょっとしたらおさまるよー!」


俊也は言い争う二人の元へ行こうとするが、アイはそんな俊也を止める。

「またはじまったかー」と少し呆れた表情を浮かべていた。


「い、良いのか? 放っておいて?」


「いつものことだからー」


「ツヴァイねえもラビットもほんきでおこってないからへいきだよー。としあ、いこうー!」


ライも特に気にした様子もなく手を引いてくるので、ひとまず俊也はアイ達に付いて行く。

背後では未だラビットとツヴァイが口喧嘩を続けているらしく、何事かを言い合っている。




「なぁ、さっきランドさんが扉を作っているって言っていたけど、ずっと休まないで異能を使っているのか?」


「ずっとじゃないよー、よるはねてるよー」


「ようじがあったり、やすんでるときはクラウンがかわってるよー!」


「でも、ほとんどへやでしごとしてるからーランドくんとはよるねるまえにちょっとだけおはなしするんだー」


「としあがきたときもはなしたよー!いいひとだったねーっていったら、そうだねってわらってくれたから、つぎきたときにあいさつしようねー!」


「えっ? 俺の事も知っているのか?」


一度も顔を見た事がないメンバーが自分の事を知っている事に驚く俊也。


「ランドくんはじぶんのとびらをつかったひとのすがたはみえているよー」


「としあがはじめてとびらはいるとき、こわがっていたからしんぱいしていたよー!」


「そ、そこまで分かるのか……」



どうやら、扉を通して周りの様子を見る事も可能らしい。

怖がっている事を知られてしまい、俊也は少し気恥ずかしくなってしまった。



「そろそろしたいこうかー」


「ここからおりればすぐだよー!」


そんな俊也の様子を気にする事なく、二人が指をさした先には、下へ降りる白い大階段とカラフルな滑り台が目に入った。

そういえば広場に大きな滑り台があったのを思い出す。

以前俊也が見た時は下の広場から見上げる形だったが、今回は滑り降りる側だ。

ホテルのようなホールに虹色の滑り台は似合わないかと思ったが、デイドリームという空間がそうしているのか、不思議と違和感がない。



「ふたりともー!そろそろいこうよー!」


滑り台を眺める俊也の後ろでは、アイが後方にいるラビット達に声をかけた。


「分かったッス!」


「……いま、いく……」


どうやら喧嘩は終わったらしく、ツヴァイは此方へ駆け寄ってきた。

その後ろでは、ラビットが眉間に皺を寄せていたが、先ほどよりは落ちついた表情になっていた。一方のツヴァイもいつもの眠そうな目つきに戻っていたが、口はへの字に曲がっており、不機嫌さを隠そうともしていない。



「オイラは階段で行くから良いッスよ。皆で先に行くッス」


「……いわれなくても、そうする……」


「はーい!」


「わかったー!」


まだ不機嫌そうなツヴァイとは対照的に、アイとライは元気に返事をする。




「じゃあ、としあ! いっしょにすべろうー!」


「え……いや、俺は……」


「クラウンとはすべることあるけどーほかのひととはひさしぶりだからたのしみー!」


「………はやくいこう……」


三人の期待するような目つきに、このまま自分も階段で降りると口に出す事は出来なかった。


「そうだな、一緒に滑ろうか!」


「「「やったーーー!!!」」」


頷く俊也に、三つ子達はパッと顔を輝かせて嬉しそうにその場を飛び跳ねている。

そんな三つ子の様子に思わず、笑顔になる俊也。



(ま、たまには童心に帰るのも悪くないよな……)


そんな事を考えていたのも束の間、


「じゃーラビットー! かぜでスピードだしてー!」


「え」


「まえみたいにー!びゅーんとはやいやつねー!」


「ちょ、ちょっと……」


ジェットコースターのようなスピードで降りる滑り台になる事を想像した俊也は顔を青くして、慌てて止めようと声をかけようとする。


「ダメッスよ! 前はオイラが一緒だったから良かったッスけど、今日は俊也も一緒なんだから普通に滑るッス」


「「えーー??」」


「………けち……」


「ケチで結構ッス! 文句言うならお土産渡さないッスよ! 」


不満気に文句を言う三つ子達をキッパリと拒否するラビットに、俊也は内心胸を撫で下ろした。


「それより、お土産を配りたいから下に降りたら皆を集めてほしいッス」


「「りょうかいー!!」」


アイとライは手を挙げて返事をするが、ツヴァイは答えずに、ラビットへ向けて右手を出してくる。



「……てつだうから、おかしちょうだい……」


「……まったく、仕方ないッスね。一個お菓子をおまけするッス」


「……やっぱり、ラビットはけち………」


「いい加減にしないと、本気で怒るッスよ!?」


とうとうラビットは両手を上げてツヴァイの元へ向かっていたが、ツヴァイはその手をあっさりと躱すと、ラビットへあっかんべーと舌を出した。


「もう怒ったッス!! 待つッスよー!」


「ラビットがおこったー!」


「「にげろーー!!」」


追いかけてくるラビットを三つ子達はキャーキャー叫びながら、逃げ回る。

一見ラビットが優勢かと思われたが、アイとライが追いかけてくるラビットを交互に妨害しているので、ラビットも三つ子達を捕らえきれない。

小さいのに、凄い連携だな。と呑気に観察していた俊也だったが、気付けば、アイとツヴァイに腕を掴まれていた。



「としあもにげるよー!」「……こっち……」


「えっ!? ま、待って……」


「はやく、はやくー!」


咄嗟の事で俊也は抵抗出来ず、アイとツヴァイに腕を引かれ、ライも俊也をぐいぐいと押してくる。

気付けば楽しそうに笑う三つ子達と共に滑り台を滑り降りて行った。









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