自分が攻撃した事になるのか
地面がもう目の前といったところで、翼を動かす音が激しくなったのと同時に、砂埃が荷台の入口から入ってきた。
そしてゆっくりと水平になり、地面に接触する音と振動が伝わってきた。自分はゆっくりと荷台の床に降りた。
「砂埃で前が見えません」
「静かに」
息を潜め微動だにせず自分の胸を押さえた。それは心臓の鼓動が、ドラゴンに聞こえるのではないかと錯覚してしまうほど、大きく聞こえていたからである。
そんな心配を余所に、グルルと満足げな唸り声と共に羽ばたく音は遠去かって行った。
しかし、砂埃が舞っていて外がよく見えないこともあり、入り口を見据えたまま動く事が出来なかった。
とてつもなく長い時間に感じていたが、次第に砂埃が治まり視界が晴れてきた。
「これは……」
「き、金じゃ!」
「あ!おい待て!」
正当防衛は依然発動中だ。危機は去ってないはずだ。しかし、ポーラは静止を聞かずに飛び出した。
「す、凄いのじゃ」
「黄金郷か?」
そこで目に飛び込んで来たのは、視界一面に広がる金銀財宝だ。天井は吹き抜けで、その先からは青い三日月が覗いていた。黄金たちは青い月光を浴びて更に美しく輝いている。雨はいつの間にか止んでいた。
「あのドラゴンが集めたのか?」
「きっとそうじゃろう。ドラゴンは、黄金の輝きに目が無いと聞くしのう」
「だからこの荷台を運んだのか。自分達が目当てじゃなかったんだな。それにしても集めに集めてこの量か……凄いなぁ。まさか1匹じゃないのかも」
「!?何をボサッとしとるのじゃ!早う逃げるのじゃ!妾を担いで登るのじゃ!」
「喋り方!!」
「……とにかくここを登るには高すぎます。手分けして抜け道を探しましょう」
やっぱり二重人格か!?興奮すると別人格になるぞ!
「普通の荷台に戻ってる」
乗って来た荷台を見ると、黄金の輝きを失っていた。
「錬金術が解けたのでしょう。運ばれている時じゃなくて良かったですね」
「そうだな。しかしここの黄金はどうする?」
「触れない方が良いでしょう。ドラゴンを敵に回したくありません」
「いつ戻ってくるとも分からないもんな」
「そうじゃった!ドラゴンが戻って来る前に早く抜け道を探すのじゃ!あの大きな黄金の鳥が怪しいのじゃ!」
「喋り方!」
「黄金には不用意に触らないでくださいね」
「おいおい……」
その後ドラゴンに警戒しつつ、落とし穴のような縦の洞穴を隅々まで探したが、結局抜け道は見当たらなかった。
「隠し通路らしい物はどこにも無いな……そうだ!さっき何故かレベルが上がったな。それにしても、どうしてレベルが上がったんだ?」
CPOに確認だ。
〔ザッ「今回レベルが上がったのは何故なんだ?」ザザッ〕
〔ザッ『ゼンジ3曹が放った黄金の箱が、モンスターに直撃し倒したものと推測します』ザザッ〕
自分が放った?あの時、落下する直前に足で止めたからか?
「成る程そういう事か。自分が攻撃した事になるのか……それはさておき、役に立つスキルを覚えてるかも」
「錬金術ですか?」
「自衛官のスキルだよ。ステータスオープン」
自分は期待を込めて、眼前に現れたステータスウィンドウを凝視した。
「レベルが17になってる!3つも上がってる。強いモンスターを倒したのかな?階級も3等海曹に昇任してるぞ!」
「ステータスが見れるのですか?貴方の職業は一体……」
そう言えば、普通は教会で見てもらうのが一般的だとダオラ達が言ってたような。
「あ、ああ、自衛官は見れるんだよ」
誤魔化すには強引すぎたか。
「え〜っと新たなスキルは……集中……これはドラゴンの影響かな。それと、さわぎり、何だ?……後は……識別装置?これは何となく分かる」
〔ザッ「スキルにある集中とさわぎり。それと識別装置って何だ?」ザザッ〕
〔ザッ『集中とは、五感を研ぎ澄ませることで、周囲の空間把握を行い、迅速確実に状況を認識します。消費MPは3です。
さわぎりとは、周囲に霧を発生させ、認識阻害を与えます。消費MPは57です。
識別装置とは、指定対象に識別信号を送信することで、強制的に応答信号を発信させることにより、ステータス情報の収集を行います。消費MPは4です』ザザッ〕
やっぱり集中はドラゴンの影響だ。さわぎりもそうだ。識別装置は鑑定のようなものか?3つとも使えそうだが今は必要ないな。
ポーラが祈るように見ている。
「ビックリするくらい、使えそうな物がない……」
明らかに落胆するポーラ。
「しかし、これってかなりやばくないか?脱出するには、どこかに隠れてドラゴンが降りて来るのを待って、さらに気付かれずに背中に乗って外まで行くのか?」
「無理ですね。絶体絶命……」
そう言ってため息をついたポーラは、壁際にある黄金の柱に寄り掛かった。
すると、突然柱がグラつき始めた。
「え?」
「危ない下がれ!崩れるぞ!」
柱は、グニャングニャンと更に激しく揺れ始め、ついには4本に折れて地面に崩れ落ちた。
「……これは黄金の樽だな。樽が重なって柱に見えてたんだな?ん?」
何かが割れるような音が響き渡る。
足元を見ると、黄金の樽が倒れた地面に亀裂が入るのが見えた。
「おいおい!ヤバいぞ樽から離れろ!」
「地面が割れるのじゃ!」
その亀裂が壁に到達すると、壁が崩れ落ち穴が空いた。同時に、壁の傍にあった幾つかの財宝と、2つの樽が穴から外へと落ちて行った。
なんと隠し通路を発見した。ってゲームなら言いそうだな。
「なんと隠し通路を発見したのじゃ!妾のお陰なのじゃ!」
「はぁ。台無しだな……けどポーラのお手柄だ」
「台無しとはなんじゃ!もっと褒めても良いのだぞ」
「喋り方!」
「……風が強いですね」
穴の外からは風が吹き込み、外を覗く邪魔をする。飛ばされないように踏ん張りながら、外を覗くと絶望的な光景が広がっていた。
「ここは……」
「どうしたのですか?」
「緊急ブリーフィングだ。ここは山の中腹だ。しかも木や岩みたいに、隠れる場所がない真っ平な山の斜面だ……ちんたら降りてたら、途中でドラゴンに見つかるぞ!走って降りる分けにもいかないし……」
「良い案が有ります」
ポーラはそう言うと、残った2つの樽に近寄り、樽の向こう側から中を覗き込んだ。
樽には、模様のように赤いラインが2本あるだけで、蓋や底が無く筒抜けであり、自分も中を覗くとポーラと目が合った。
「まさか……」
「そのまさかです!樽の中に入り転がり降ります」
「絶対死ぬぞ」
「ここにいても、ゆっくり下山しても結果は一緒です。ならば一番可能性のある樽に賭けましょう!そして、絶対という言葉は有りません!」
絶対は無いか……ダオラを思い出すな。そうだ一度冷静になろう。深く息を吐き腕組みをして壁の穴を見据えた。
どう考えても、歩いて降りた方が生き残る可能性が高い。しかし、隠れる木や岩が無いから直ぐ見つかるだろう。でも、ドラゴンが戻って来ない可能性もある。ドラゴンはいなくても他にもモンスターはいるだろう。そいつらが強かったら?樽で素通りした方が安全なのか?だがもし、何かに衝突したり、落ちたりしたら……
「いや!やはり危険すぎる。もし途中に崖や谷が…!?」
その時、ふと辺りが暗くなった。
空を見上げると、入り口付近でドラゴンがホバリングをしていた。
「やばい!戻って来た!」
「樽を押すのじゃ!早う押すのじゃ!」
ポーラは樽の中から呼んでいる。いつの間に樽に入ったんだ。
「こうなったら覚悟を決めるか!!少しでも生存確率を上げるぞ!88式鉄帽!防弾チョッキ!よし出た!」
「な、何じゃそれは!」
「これを装備するんだ!この穴に頭と腕を通す!そしてこれを頭に被る!」
迷彩色のテッパチと、防弾チョッキを渡した。
「これも錬金術?凄いのじゃ!」
「感心してる場合か!急げ!」
ポーラは受け取った物を、慌てて身に付け始めた。
「ドラゴンが来るのじゃ!早う押すのじゃ!」
「準備は良いか?一か八かだ!全身で固定しろ!弾き出されるなよ!行くぞ!そらっ!」
ポーラの入った樽を穴に向かって転がした。
「ひっ…キャァァァァ…………」
「ポーラ、死ぬなよ」
見えなくなるのを確認して、もう1つの樽も穴に向けて転がした。
それを追いかけて走り出す。
「この樽は貰うぞ!危険手当だ!」
ドラゴンに向けて捨て台詞を吐き、転がる樽に飛び込むと、更に反動をつけて穴へ向かった。そして歯を食い縛り覚悟を決めた。
「突撃!!」
ーパッパッパッパカパ〜ンー
その時レベルアップの曲が聞こえた。
「え?まさかポーラ?自分が押したから……そんな……」
(女神様、こちら自衛官。
ドラゴンに運ばれた先は、金銀財宝が集められた巣だったみたいです。偶然にも出口を見つけ、逃げようとしたのですがレベルが上がりました。ポーラの身に何かあったのでしょうか。どうぞ)




