当然の事をしたまでです
「動くな」
「げぎゃ!?」
喉元にある剣に驚き、奇妙な声を出してしまった。
「ギリゴブリン」
自分は咄嗟に両手を上げた。そして、今の言葉を頭の中で反芻する。ギリギリでゴブリンだってこと?
「ギリって!ちょ、ちょっと待ってください」
「動くなと言った」
剣が近い!驚いた自分は警棒を手放した。
「何者?」
何者だと言われても、何て答えれば正解なんだ。自衛官で通じるのか?
「じ、自分は人間です」
はたして地球で生活をする上で、このような答え方をする事はあっただろうか。
「証拠」
証拠?そんなのいる?顔見たら分かるだろ!だいたい、免許証も身分証も自衛官診療証も無いぞ。取り敢えず、ゆっくりと帽子を取って顔が見えるようにした。しかしそれは正解だったようで、喉元から剣を外した。
「レイア!そいつはゴブリンの変異種か!?」
声のする方を見ると、体格の良い男が馬車の後ろを必死に押していた。
「ギリ人間」
「ギリって何だよ。こんなイケメン捕まえて!」
つい反論してしまった。しかもタメ口。機嫌を損ねないように。今後、言葉遣いには気を付けよう。
「冗談は顔だけ」
「いや、そこで止めないで!それ悪口ですよ」
「ギリゴブ」
「それはもうガチの悪口です」
「そうか。だったらお前も手伝ってくれ!車輪がぬかるみに嵌って動かないんだ!」
どうして、そうか、になるのか分からず、反論しようとして振り向くと、雨でぬかるむ地面に馬車の右の後輪が半分埋まっていた。
「急いでくれ!あの2人はもう限界だ!」
そう言われてレインコートの女性を見ると、膝をつき肩で息をしていた。オークはと言うと、スマートな騎士が1人で6匹を相手にしている。状況は一刻を争う。
「了解!」
そう言って敬礼をした後、馬車の後ろに駆け寄り、力一杯押してみたが、ウンともスンとも言わなかった。
「荷物全捨て」
レイアが冷めた声でそう言うと、荷台の前方から慌てて反論する声が聞こえた。
「そ、それはダメです」
「このままだと全滅するぞ!命には代えられない」
体格の良い男が、必死の形相で訴えた。しかし荷台の声は続けた。
「私の命より大事な物ですから、どうかお願いします!無事に街まで運べたなら、何でもお好きな物を差し上げます」
それを聞いた体格の良い男は、あからさまに態度を変えた。
「おいギリゴブ押せ!」
「ギリゴブって……自分は人間です」
「ギリゴブも今の聞いただろ!全力を出せ!」
「そう言うあなたは、自分の言葉を聞いてないでしょ?」
「ギリゴブ!口を動かす暇があったらもっと集中しろ!」
「はい……もうギリゴブで良いです……」
何でも好きな物を貰えると言われ、目がGになっている。きっと、お金の単位なのだろう。
「何としても、荷物を全て持ち帰るんだ!」
「ダオラ悪い癖」
「言うな!レイアも押せ」
しかし3人で押しても、馬車は微動だにしなかった。
そこで自分はスキルを使うことにした。
「防弾盾!」
「ど、どこから出したんだ!?」
自分はそれには答えず、現れた防弾盾を車輪の下に敷いた。
「一斉に押しましょう!せ〜の!それっ!」
すると馬車は、防弾盾を滑り止めにして、ゆっくりと動き出し、ぬかるみから脱出することに成功した。
「やったぞ!レイア急いで荷台に乗れ!ギリゴブ!お前もだ!」
「了解!」
レイアが乗った後、自分も続いて乗り込んだ。
「リオン!ミラ!動いたぞ!馬車に乗れ!」
ダオラの声を聞き、オーク6匹を相手にしているリオンは、視線はそのままで声を張り上げた。
「ミラ!魔法は使える!?」
「後1回なら何とか……」
「頼むよ!」
ミラは立ち上がり、苦悶の表情で詠唱を始めた。
それを確認したリオンは、バックステップでオーク達から距離を取った。
「ファイアボール」
火球は一直線にオークへと向かったが、威力は弱く全身を燃やすには至らなかった。
しかし、隙を作るには十分。リオンはミラを担いで馬車に向かって走り出していた。
『ブホォ〜!』
突如、森の奥から別のオークの叫びが聞こえた。
「やばい!増援が来たぞ!急げ!テープル、馬車を出してくれ!」
ダオラが言ったとおり、森の中から木を薙ぎ倒す音と伴に、新たなオークの群れが現れた。
それと同時に、御者のテープルが馬に鞭を入れた。
走り出す馬車を追いかけるリオン。しかし、ミラを担いでいるため、オーク達に追いつかれそうだ。
「急げ!」
リオンは必死に馬車を追いかけるが、あと僅かのところで届かない。
「もっと手を伸ばせ!」
ダオラはリオンに手を伸ばすが、やはり届かない。
「無理だよ!ミラだけでも頼むよ!!」
それを聞いたダオラは、荷台の縁を握りしめると、意を結した表情でそこに足を掛けた。
「お前達は死なせない!」
「だめ」
「レイア、後は頼む」
ダオラはレイアに微笑むと、その言葉を最後に馬車から飛び出した。
「待ってください」
しかし自分は、宙に浮いたダオラのズボンを掴み、力一杯後ろに引いた。颯爽と飛び出したはずのダオラは、荷台の中に転がり尻を出して倒れた。
「な、何するんだギリゴブ!邪魔をするな!リオン達を見殺しにする気か!」
そんなつもりはない。
への字になり尻を出したまま、文句を言うダオラに敬礼をして、後方に視線を戻した。するとオークは目の前まで迫っており、リオンに向かって手を伸ばした。
「防弾盾!」
目の前に現れた防弾盾を、両手で持ち上げると、サッカーのスローインのように投げつけた。それはオーク目掛けて真っ直ぐに飛んで行き、防弾盾の側面が見事にオークの顔にめり込んだ。
『ブホォ』
「ストライク!」
サッカーのスローインに例えて、野球のストライクと叫んで申し訳ない。どっちも好きなんだ。とりまそれは置いといて、オークは後ろに吹き飛ぶと、ドミノ倒しのように次々と倒れて行く。爽快だ。
しかし両サイドにいたオークは無事で、中央に寄りリオン達を掴もうとしている。
「防弾盾」
再び現れた防弾盾を同じように投げると、今度は面の部分が、同時に2匹の顔に直撃した。
「ストライクツー!」
2匹は動きを止め、顔を上げた。すると防弾盾は後ろに飛んで行った。一発で2匹。自分の腕も捨てたもんじゃないな。
『『ブホォ!』』
しかし2匹は、倒れそうになるのを踏ん張り顔を戻した。そして再び手を伸ばそうとしたが、自分は次の防弾盾を既に投げていた。それと同時に、次の遠投に備え防弾盾を2つ出した。
『『ブゴォ!』』
「ストライクスリー!バッターアウト!」
またしても2匹の顔に当たった。今度こそ後ろに吹き飛ぶと、残りのオークを道連れにして、ドミノ倒しを始めてくれた。早めに準備した2つの防弾盾は使わなくて済んだみたいだ。
「ゲームセット」
ーパッパッパッパカパ〜ンー
お!レベルアップだ。何匹か仕留めたみたいだ。 ちなみに、覚えたスキルはLEDライト。これは使えそう。今は要らないが……
自分はリオンに手を伸ばした。
「ハァハァ。ミラを頼む」
「了〜解っ!」
ミラを引き上げると、身軽になったリオンも馬車に乗り込んだ。それを見ていた、ドミノ倒しを逃れたオーク達は走るのを止めた。どうやら諦めたみたいだ。
『ガッチャン』
正当防衛にロックがかかった。危機は去ったようだ。
「ハァハァ。すまない。恩に着るよ」
リオンが、右手で左肩を掴み頭を下げた。左肩を負傷したのかな?
「自分は当然の事をしたまでです」
「それは違うだろ!元はと言えば、ギリゴブがオークを引き連れて来たのが原因だぞ!」
「そ、そうでした」
「いずれ来てた」
レイアが助け舟を出してくれたので、自分はその舟に乗っかった。
「それもそうだ。自分が来なければ、馬車も動かなかったはずです」
「いずれにせよ、僕もミラも無事なのは君のお陰だよ。ありがとう」
「ダオラも」
「ぐっ……助かった……」
するとダオラも、右手で左肩を掴み頭を下げた。どうやら、この世界の作法みたいだ。それに対し、自分は踵を鳴らし、気を付けの姿勢で挙手の敬礼をした。
「こちらこそ助かりました」
「自己紹介がまだだったね。僕の名前はリオン、職業は見てのとおり騎士。で、こっちは魔法使いのミラ。双子の妹だよ」
ミラは隣で気を失っている。レインコートかと思っていたのは、フード付きのローブだった。
「レイア。レンジャー」
レンジャー?陸自か?
「重戦士ダオラだ!」
ダオラは胸の前で腕を曲げ、得意げに力こぶを作った。
「私は商人のテープルです。本当に助かりました」
御者をしているテープルは、荷台の小窓から笑顔を見せた。
「自分はゼンジです。職業は……」
あれ?自衛官って言って良いのか?そもそも、自衛官という職業は、この世界にあるのか?
(女神様こちら自衛官。
生きてるのが奇跡です。もっと必要なスキルを覚えたいです!トランシーバーとかLEDライトは必要無いでしょ。魔法とか、もっと使えるやつにしてください。どうぞ)




