総司令官ギリゴブ
やっとギルドに着いた。長かった……
防護マスクを外そうとしたが、ふと、アイズワルドさんの言葉を思い出した。
〜2つ目の仮面は、次の日まで外しちゃいけないよ〜
もしかして、2つ目の仮面とは、ヒトツメとは違い、二つ、目がある防護マスクの事なのだろうか?それとも、2つ目に出した防護マスクの事なのだろうか。どちらにせよ、今装備している防護マスクの事だ。気のせいかもしれないが、このまま装備したままにしよう。
ギルドの中に入ると、いつもより騒がしかった。ハンター達が珍しく食事をしているようだ。いつも閑散としていたギルドがハンターで溢れている。初めて見る光景だ。しかし、ダオラはやはり受付カウンターに直行した。
「クエスト完了だ。報酬をくれ」
デジャブだ。良く見る光景だ。これは決まり文句なのか?
「お疲れ様。クエストの完了を確認したわ。悪いけど、そのまま深緑の鳥籠亭に運んでくれる?」
「おう、そのつもりだ。ギリゴブあれを出してくれ」
「了解!」
敬礼をして、モンスターから剥ぎ取った、魔石や毛皮等を衣のうから取り出した。次から次へと取り出すのが楽しくなり、迷彩戦闘服まで取り出してしまった。
「そ、それはマジックバッグ?それと、その仮面は何かしら?」
「これは防護マスクと言って……」
「貴様ら!そこを動くな!」
喧騒だったギルド内が静まり返る。
突然の声に振り向くと、騎士が6人立っていた。その傍らには、テープルさんの姿もあった。
「テープルさん!その顔はどうしたんですか?」
テープルさんの頬は紫に腫れており、口からは出血もしていた。服はボロボロだ。
「こ、これは……」
「黙れ!正直に話せば手荒な真似はしない!」
テープルさんに怒鳴りつけた騎士は、自分を睨み付け指差した。
「貴様が持っている服は何だ!」
「何だと言われても、迷彩戦闘服だとしか言えないな」
「貴様の物なんだな!」
「……」
答えて良いものか分からず、ダオラ達の顔を見回した。すると皆首を横に振った。
「やはり、貴様の物ではないのだな。で、あれば……」
騎士は剣を抜き、テープルさんの首に添えた。
「おい!何してるんだ!」
「こいつは自分の命可愛さに、貴様が持っているその服と同じ物を、タズカズ様に渡したのだ!」
また、あのオークのような貴族だ。あいつに関わると碌な事がないみたいだ。なんとか誤魔化して、この場をやり過ごすか。
「迷彩戦闘服は勝手に持って行った物だろ?」
「違う。貴様もその服を渡されたのだろう。こいつに騙されているんだ。良いか!それは突然消える」
あれ?今何と?……もしかしてこの状況は……自分のせいかな?
「消える物をタズカズ様にお渡しするなど言語道断!」
もしかしてじゃないみたいだ……
「それは……そのぉ〜」
「もしや、貴様はそれを買わされたのか?幾らで買ったのだ?どうやら、こいつは他にも罪を犯しているようだな」
マズイ事になった。
「ちょっと待ってくれ!これには深い訳が……」
「証拠は揃ったようだな。こいつをタズカズ様の元へ連れて行く」
自分の声は届いてないようだ。騎士は、テープルさんに添えていた剣を首に当てた。一筋の血が流れた。
これはヤバイ、ヤバイ。ヤバイ!
「あいつ何やらかしたんだ?」
「関わるなよ」
「可哀想だがテープルもこれで終わりだな」
静まり返っていたハンター達が、遠巻きにヒソヒソと話し始めた。
テープルさんは自分のせいで、貴族の元に連れて行かれる。そうなると、どうなる?今でさえ顔が腫れ、体中ボロボロだ。きっと殺されるだろう。
そんなテープルさんは、自分を見て微笑んでいる。
あの顔の傷も、きっと自分が出した事を言わなかったからだろう。このままだと濡れ衣をかけられても否定しないだろう。
それで良いのか?……良いはずがない!
例え知らなかったとしても、自分がスキルで出した迷彩戦闘服が消えたんだ。オーク貴族の怒りの矛先は、自分に向けられるべきだ。心優しいテープルさんにじゃない。
「テープルさん!」
「良いんです!……これで良いんです」
やっぱりそうだ。テープルさんは、全ての罪を被ろうとしている。いや!誰も罪なんか、これっぽっちも犯していない。だがそれを、あの貴族は聞いてはくれないだろう。
だったらどうする?
自分はダオラ達を見たが、皆歯を食いしばり苦悶の表情をしている。
きっと、どうする事も出来ないのだろう。
「貴様らもだ、インパルスブルー!こいつの悪事に加担していたな。武器を捨てろ!無駄な抵抗はするなよ」
「くっ……」
ダオラ達は言われるがまま武器を捨てた。
「上手く逃げるんだよ」
リオンが小声でそう言った。何を言ってるんだ?
「リオンちょっと待ってくれ!」
「貴様はこいつらに騙されていたんだ。その服も消えるはずだ。そんな物、早く捨てろ」
違う!異世界に来て、右も左も分からない自分に親切にしてくれたんだ。明らかに自分の責任なのに、誰一人としてその事を口にしない。
立ち尽くす自分を置いて、騎士達は、テープルさん達を連れてギルドの入り口へ向かった。
このままだとみんな殺される。自分には何も出来ないのか……
いや、自分は生憎、防護マスクのお陰で顔バレしていない。だとすればやる事はひとつ。
悪役だ!
きっと悪役はここで笑うだろうな。
「クハハハハッ!」
今朝のチンピラの真似をして、大笑いをしてみた。上手く笑えない。大根役者だな。しかし、防護マスクが良い仕事をしてくれている。見た目もそうだが、こもった声で、まるで本当の悪党のようだ。
「き、貴様!何がおかしい!」
「残念だ……実に不愉快だ……折角そいつらを利用するつもりが、もうバレてしまったか!」
「やめろギリゴブ!」
「バレた?何を言っているんだ?タズカズ様は、この商人から受け取ったと言っていたぞ」
「クハハッ!その商人に売ったのは自分だ!迷彩戦闘服!」
現れた迷彩戦闘服を、騎士に投げつけた。
「何をする!」
「消えろ!」
そして、騎士にぶつかる寸前で消してみせた。
「な!?どういう事だ?まさか貴様の指示なのか!」
「指示?そんなものは出していない。その男も知らなかったんだからな。迷彩戦闘服!これを売り捌いて大金を手に入れるはずが、こうも簡単にバレるとはな」
「貴様!一体何者だ!タズカズ様を騙して、タダで済むと思うなよ!」
「これを見てもそんな事が言えるかな?」
自分は手にした迷彩戦闘服の、日の丸を指差した。
「ま、まさか。そ、そのエンブレムは!」
「そうだ、そのまさかだ」
名前は何だったっけ?ヤバイ忘れた!ヒトツメって言うのは通称だよな……確か……サイクロプスボンネット?何か違う。
「クハッ!こんな田舎の見習い騎士でも、名前くらいは知っているだろう」
頼む、誰か言ってくれ!
「我らを愚弄するか!ヒトツメ風情が!」
違う!そうだが、それじゃない!
「キュクロプスホーネットが何故ここに?貴様!名を名乗れ!」
ナイス!
「いかにも。キュクロプスホーネット所属!南部方面隊、総司令官ギリゴブ。以後お見知り置きを」
言っちゃった……
(女神様、こちら自衛官。
自分のせいで、テープルさんを酷い目に遭わせてしまいました。貴族の騎士は許せません。しかし、あれ程関わるなと言われていたヒトツメに、ガッツリ関わってしまいました。そして、ヒトツメを名乗るなんて、今朝のチンピラと同じ事をしてしまいました。どうぞ)




