今かよ!!!
ゴルヴァルナの森の入り口で、ダオラ達が待っていた。
「遅かったな」
「ちょっと色々あってね」
ミラはイボンヌフロッグが大量に出た事、それらを自分が全て倒した事を説明した。
「魔石は回収したんだろうな?」
ダオラは相変わらず予定表通りだ。
「これ以上持てないだろ」
「ちっ……まあいい。だが戦った割には全身綺麗だな」
「直ぐに着替えたんだよ」
毒を全身に浴びたため、新しい迷彩戦闘服に着替え直したのだ。汚れたままだと街に入る際に、品位を保つ義務が発動するだろう。今はアイロンがピシャリとかかり、シミひとつない格好だ。
「その毒が効かないマスクを見せてくれる?」
「ああ良いよ。防護マスク!」
スキルを使用して、防護マスクを出してリオンに渡した。
「へぇ〜この仮面で毒が防げるんだね。ジエイカンって凄い職業だね」
リオンから防護マスクを受け取り肩に掛けた。
「さて、もう一踏ん張りだ」
その後、何事もなく歩き続け、無事、街の入り口に辿り着いた。
「ハァハァ。やっと着いた……。フゥ〜。足も腕もパンパンだ」
雨に濡れたウインドウルフの毛皮を引き、足場の悪い道を一時間程歩いたのだ。折角着替えた半長靴もズボンも泥だらけだ。
「まだまだだな。もっとレベルを上げろよ」
「そうだ!レベル!」
イボンヌフロッグを倒した時に、レベルが上がったのを思い出した。何かスキルを覚えてないか確認した。そこには新たに、衣のうが表示されていた。
「衣のう?」
自分の声に反応して、青色の迷彩柄のショルダーバックが現れた。
【衣のう】とは、自衛官が被服等を収納して持ち運ぶための物である。
「それは何?ジエイカンの服と同じ柄だね。ジエイカンのスキルかな?」
自分が衣のうの口を開けると、リオンが中を覗き込んだ。
「え?真っ暗で何も見えないない!底が見えないよ!」
「なんだって!?」
自分は衣のうの中に手を突っ込んでグルグルと動かしてみたが、手がどこにも当たらなかった。
「まさか!」
ウインドウルフの毛皮に、恐る恐る衣のうを近付けた。
すると不思議なことに、毛皮も防弾盾も、それらを縛るロープさえも、全て衣のうに吸い込まれた。
「これは……」
そう言って、肩に掛けていた防護マスクを近付けると、それも吸い込まれて消えた。
「それは……マジックバッグだよね?」
「今かよ!!!」
ダオラが怒りを宿した目で自分を見つつ、森を指差し、静かに話し始めた。
「マジックバッグがあるなら、何故あそこで使わなかった?」
「森を出る直前に覚えたんだ……」
「だったら何故その時に使わなかったんだ!イボンヌフロッグの魔石も手に入っただろ!」
「自分も今知ったんだよ!」
「まあまあ。済んだことだよ」
リオンがダオラを宥めてくれる。相変わらず優しいな。
「ふん!ちゃんと取り出せるんだろうな!」
「そりゃあ……多分大丈夫だろ?」
衣のうを逆さまにしても出てこない。不安になり手を入れると、頭にウインドウルフの毛皮や防弾盾が浮かんできた。
「お!取れそうだ!」
ウインドウルフの毛皮を、一枚取り出すイメージをすると手に何かが触れた。それを掴んで手を引くと、ウインドウルフの毛皮が一枚出てきた。
「出た」
「マジックバッグで間違いなさそうだな」
「ジエイカンって便利ね」
「しかも乾いてるみたいだよ」
「言われてみれば、雨も泥も付いてないな。衣のうの中で汚れが取れるのか?」
ウインドウルフの毛皮を収納して、頭に浮かんでくるダークパンサーの上下を取り出すと、汚れひとつない新品のような状態で出てきた。
「汚れが落ちてる!どうやら衣のうの中で分離されるみたいだ!折角だから着替えるよ。ちょっと待っててくれ」
「なんだと!別に着替える必要はないだろ!」
「自衛官は品位を保つ義務があるんだよ。汚れたままだと街に入れないんだ」
泥が付いたズボンを指差し、前回同様、門の影に隠れて着替え直した。
「お待たせ」
「ったく!遅いぞ!やっぱりジエイカンは不遇職だな」
「たはは……」
「それよりニーボアを早く届けようよ」
「そうだな。おいギリゴブ!代われ」
「喜んで!」
気まずさを払拭するように声を出し、自分はダオラが持つ棒を肩に掛けた。
しかしそれはズシリと肩にのしかかり、とても歩けそうに無かった。
「お、重い!こんなのを運んでたのか!」
「そんなに重くないだろ?ギリゴブは攻撃力250だからな」
「それは警棒の話だろ!」
「身体強化」
「ミラ!バラすなよ!まあ、なんだ、身体強化のスキルはハンターたるもの、使えて当たり前だからな。ただ、身体強化だけではダメだ。レベルを上げて底力を上げないとな」
「身体強化は僕が教えてあげるよ」
「頼むよリオン」
「肉」
「そうだね。明日にしよう。ほらダオラ、交代してあげてよ」
「ったく。しょうがねぇなぁ。罰としてあのマスクを被っとけ!」
「どうしてそうなるんだよ!……全くもう。防護マスク!」
ダオラとのやり取りも楽しくなって来た。何だかとても居心地が良い。この気の良い4人と、また明日も狩りに行きたい。異世界も悪くないな。溢れる笑みを隠すように、二つ目に出した防護マスクを被った。
「素直」
「そうね。その仮面が気に入ったのかしら?」
「まあ、何にせよ、ゼンジは早くレベルを上げないとね」
「本当に一桁なのかも怪しいもんだ」
さっき二桁になったのは黙っておこう。
ダオラは、ニーボアを吊るした棒を軽々と持ち上げた。
しかしレベルの差が、ここまで顕著に現れるとは思わなかった。自分ももっとレベルを上げないとな。そして、スキルが全ての異世界では、このままじゃ危険だと感じた。身体強化というスキルも、早く身につけなければ。
「ニーボアを捕獲したのか?」
門番に声をかけられた。今の時間はマルクスはいないみたいだ。良かった。
「そうだよ。今日はニーボアのステーキだよ」
「そいつは良いな。もう交代の時間だから、俺もあやかるとするかな。鳥籠亭か?」
「そうよ。早く行かないと無くなっちゃうわよ」
「マルクスの野郎は時間通りに来ないからな。肉が無くなったら、あいつにエールを奢ってもらうとするよ」
「何!?マルクスが来る時間か?そりゃ面倒だな。さっさと通門するぞ」
ダオラは、ニーボアを下げている棒を軽々と持ち上げ、何事も無かったかのように歩き始めた。
「あ、ああ」
それを見て、何故か一抹の不安を覚えた。自分は、モンスターの素材を収納した衣のうを担いで後を追った。
(女神様、こちら自衛官。
身体強化のスキルは誰でも覚える事ができるんでしょうか?まさか自衛官には覚える事が出来ない……なんて事はないですよね?どうぞ)




