ラッパ気をつけ?
「ハァハァ。何とかなった……しかし、ここは一体……」
未確認生物を倒す事は出来た。だが、現状はあまり良くない。周囲を見回すが、木々に覆われた鬱蒼とした森、としか分からない。暗くて良く見えないが、平地なので山ではないようだ……ただ、他にも未確認生物がいるかもしれない。しかし、あれだけ大声を出したにも拘わらず、何も現れないのは雨音のお陰だろう。
「移動した方が良さそうだ」
異世界とは信じ難いが、仮に異世界だとして、鼻の効く未確認生物でもいたら、血の匂いで集まって来るかもしれない。そう考え、逃げて来た方向とは反対側へ進むことにした。
そしてしばらくすると、頭の中で再びあの音が鳴り響いた。
『ガッチャン』
「今のはなんだ!敵か?……ロックが掛かったような音だな?……まさか!!警棒!」
左手を突き出すが警棒は現れなかった。
攻撃対象がいなくなると、正当防衛が解除されてスキルにロックが掛かるみたいだ。もしくは、これ以上警棒は出現しないのかもしれない。右手の警棒を見て思案する。
「あれ?これは使えるのか?一度スキルで出現させれば使いたい放題?」
防弾盾は置いてきた。ホルダーも、投げ捨ててしまい手元には無かったが、警棒があるのは心強い。
「喉が渇いたな……」
そこら中に生えている大きな葉っぱに、雨水が溜まっている。それに口を付け喉を潤した。ここでも雨に救われた。
夢か現実か分からず混乱しているが、少し落ち着いたところで、まずはステータスが出るのか再確認してみる。
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名前 : 鏡 善士
種族 : 人間
分類 : 異世界人
属性 : 異属性
職業 : 自衛官(海)
階級 : 2等海士
Lv : 1
HP : 21/45
MP : 26/30
攻撃力:27
防御力:25
素早さ:17
幸運値:10
装 備 : 地球の服、地球のズボン、地球の靴
アクセサリー : 地球の腕時計
スキル : 言語理解、警棒、防弾盾
自衛官の誇り : ー
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「出た……夢じゃないみたいだ……この先どうすれば良いんだろう……」
怪我をした左腕を摩りながら、ステータスを見て現実なのだと実感した。
となれば、現在自分が置かれた状況を整理するために、自分のステータスを理解する必要がある。
「異世界人か……残念だけど異世界で確定だな……」
種族は人間、分類は異世界人。ここは間違いなく地球ではない、どこか別の世界だった。
「HPが半分も削られてる」
HPが、ヒットポイントの略で、これが0になると死んでしまうのか?ゲームのように復活できるのか?それは確証がないので、恐ろしくて試す気にもならない。
MPについてはマジックポイントの略で、これを消費してスキルが使えたのだろう。魔法じゃないのにマジックポイントなのは変だが、4減っているので、警棒と防弾盾は消費MPがそれぞれ2だと思う。残り13回使用可能だ。複数出ればの話だけど。温存しなければ……
そして、自衛官にも魔法が使えるのかは不明だが、異世界であれば使えると信じよう。それだけが唯一の楽しみだ。
スキルには言語理解とあるが、未確認生物には適用されないようだ。しかし、正当防衛は、しっかりと適用されていた。理不尽な話だ。
最後に、自衛官の誇り。今は正当防衛は消えているが、消えていると言うことはスキルが使えないということだ。
「スキルの説明が欲しいところだけど、まぁ何となく理解した。攻撃を受けてからじゃないとスキルは使えない。か……となると、防弾盾を置いて来たのは失敗だったか。新しく出せると良いけど……大体、未確認生物に正当防衛が適用されるのはおかしいだろ!!」
『ゲギャギャギャ』
「しまった!」
油断していた。
異世界のスキルの縛りに腹が立ち、またしても大声を出してしまっていた。
「おいおいマジかよ。何匹いるんだよ!」
声のする方を見ると、新たな未確認生物が2匹立っていた。
「どっちから来る?」
警棒を中段に構えた途端、1匹の未確認生物が、棍棒を掲げ奇声を上げながら走り始めた。
『ゲギャーー!』
「防弾盾!」
出た!正当防衛は攻撃系のスキルにのみ対応してるのか。スキルを発動させるのに回数制限は無いみたいだ。
『ガチャッ』
頭の中で鍵が外れる音がした。
「正当防衛か!」
攻撃を受けると、正当防衛が発動するのは間違い無いみたいだ。
自分は次の攻撃を警戒して体をズラした。すると視線の端で、もう1匹が突撃してきているのが見えた。連携している。コイツら意外と賢いぞ!
防弾盾を引き寄せ体に固定すると、衝撃と共に木を弾く音が響いた。
覗き穴から覗くと、慌てる様子の未確認生物が見えた。チャンス!
「そらっ!」
防弾盾を突き出して相手に叩きつけた。
ガツンと鈍い音がして、未確認生物は後方に倒れた。すかさず防弾盾を振り上げ、そのまま下部を叩きつけた。
首に直撃した未確認生物は、声を上げることもなく動かなくなった。
ーパッパッパッパカパ〜ンー
突如、聞き慣れたラッパの音がした。
「ラッパ気を付け?」
そう。自衛隊では、ラッパを鳴らして号令を掛けるのだが、今聞こえた音は、気を付けをする際のラッパ気を付けだった。
ラッパ気を付けが鳴ったため、ビクッと体を震わせた自分は、普段の癖で姿勢を正して気を付けをした。
「……」
しかし何も起こらなかった。
「何だ!?今のは?」
視線を戻すと、棍棒を持った未確認生物が2匹に増えていた。
「何匹いるんだ!くそッ!」
そう吐き捨てて防弾盾を構え直すが、2匹は襲っては来なかった。
その時、不意に後方から音がした。振り向いた自分は、目を大きく見開いた。
未確認生物が更に1匹、木の陰から隙を窺っていたのである。
「囲まれてる!いつの間に!?」
このままでは殺られる。そう思い、防弾盾を構えて駆け寄った。
「この野郎!」
先程と同様、防弾盾を突き出したが、バックステップであっさりかわされてしまった。
素早く防弾盾を手元に引き寄せ、覗き穴から相手を見ると、未確認生物は自分の右側をチラリと見た。
まさかと思い、後ろを振り向くと、木に隠れていたもう1匹が飛び掛かって来ていた。
『ゲギャギャギャ!』
「うわぁ〜!」
慌てて防弾盾を横にして、そのまま右側にスイングした。
すると雨で濡れた手元が滑り、防弾盾がすっぽ抜けてしまった。それは回転しながら飛んで行き、未確認生物の頭に直撃した。頭の形が変わったそれは、その場に落下し動かなくなった。
「ハァハァ…ラッキー…」
『ゲギャギャギャギャ〜!』
警棒を下段に構え、残りの2匹を睨んだ。
「ゲギャゲギャ言いやがって!」
こっちからだ!左の1匹に狙いを定め走って行く。相手も跳ねながら向かって来る。
『ゲギャギャ!』
そう鳴き声を上げると、大きくジャンプして棍棒を振りかぶった。
自分は下段に構えた警棒を、タイミングよく斜めに振り上げる。すると未確認生物の足に当たった。そのまま体勢を崩し背中から落下すると、足を抱えてのたうち回り始めた。
「悪く思わないでくれ」
自分は警棒を振りかぶり、倒れている未確認生物にとどめを刺した。
「ハァハァ。残りはお前だけだ。どうする?」
未確認生物は挙動不審になり、気味の悪い声を上げてその場から立ち去った。
「助かった……」
安心と同時に体から力が抜けて、その場にへたり込んだ。
「そうだ!さっきのラッパは何だったんだ!?何かスキルを覚えたかも!!ステータス!」
ついつい声に出してしまった……ステータスウィンドウには、レベルが2と表示されていた。
先程のラッパの音は、レベルが上がった事を知らせる音だった。
「レベルが上がってる!スキルは……」
棒術レベル1と、盾術レベル1が増えていた。そして、レベルが上がった事により新たなスキル、迷彩戦闘服を覚えていた。
「まさか!……迷彩戦闘服!」
声を出すと、目の前に綺麗に畳まれた青色の迷彩戦闘服の上下と帽子、皮の手袋、半長靴が現れた。
「これは海自用だ!助かった」
周囲を警戒しつつ、ボロボロになった上下を脱ぎ捨て、迷彩戦闘服を装備した。
左腕にはマジックテープで、日の丸のワッペンが付いていた。
「ふぅ〜これで何とかなりそうだ……取り敢えずここから離れよう」
逃げるようにその場を後にした。今度は防弾盾も忘れずに回収して行く。
『ガッチャン』
頭の中で、あの音が響いた。驚き立ち止まってしまったが、冷静に考えると、脅威が無くなったのだと理解した。
「もう大丈夫みたいだ……早く安全な場所に移動しないと……村や町はあるのか?そもそも、この世界に人間はいるのか……」
そう考えると不安に襲われそうになるが、警棒と防弾盾を握り締めて足早に歩き始めた。
(女神様こちら自衛官。
転移先は街の中とか、人がいる場所が良かったです。この先、人に会えないなんて事ありませんよね?それとも、誰かが襲われてる場面に颯爽と現れる、鉄板の救助劇が次回に控えていたりします?……どうぞ)




