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一人用かい!!!

「クエスト完了だ。報酬をくれ」


ダオラは、毛皮や魔石が入った袋を、乱雑にカウンターへ放った。


「お疲れ様。意外と早かったわね。ゴブリンの巣でも見つけたの?」


「相変わらず勘がいいな。モグリンだった」 


「運が良かったわね。それじゃあモグリン討伐のクエストを追加するわね。これは預かるわよ」


「ああ。頼む」


受付のリムスはウインクをすると、討伐部位が入った袋を持って奥に消えて行った。


「それじゃあ、鑑定が終わるまで飯でも食って待つか」


「賛成」


「もう、お腹ペコペコよ」


「自分もです」


「あそこに座ろうよ」


中央の円卓に座り、ダオラが店員にラムといつものやつ5人分と伝えてた。常連みたいで憧れるな。

しかし、店員が運んで来たのは、ラム肉かと思いきやラム酒だった。早速ダオラが口を付けようとしたがレイアに止められた。


「乾杯」


「そうだよ。ゼンジの初めてのクエストだよ」


「初クエおめでとう!乾杯!」


早く飲みたかったんだろう。あっさりとした乾杯だった。

ラム酒は初めて飲んだが、フルーティーでなかなか美味い。癖になりそうだ。


「ゼンジの力は未知数だよ!」


「そうね。攻撃を受けてからでも全然余裕みたい」


「一撃で死ななかったらな」


ダオラの言葉はもっともだが、少しはオブラートに包んで欲しいもんだ。


「そう言えば、足に付けてる黒い棒はゼンジの武器なの?」


結局あの後も、防弾盾でウインドウルフを2匹倒した。


「そうだよ。自分の武器はこの警棒だ」


「ケーボー?ジエイカンは不思議な職業だな。棒で戦うのはモンスターとギリゴブだけだろ」


「なんだよそれ!警棒も意外と使えるんだぞ。そうだ!他にも使いたいスキルがあったんだ」


仲間が出来たら使おうと思ってたのを忘れてた。


「トランシーバー!……ん?」


トランシーバーのスキルを使用した。しかしそれは、想像していた物とは違い、コードレスイヤホンが片方とボタン付きの指輪だった。


「黒い指輪と……黒い……何それ?」


ミラはコトンと首を傾げた。


「これはきっと骨伝導式なんだ」


自分は片方しかないそれを右耳にはめて、指輪を左の人差し指にはめた。指輪の側面には、ボタンのような突起物がある。それを左の親指で押した。


〔ザッ、ザザッ〕


イヤホンからトランシーバーのプッシュ音が聞こえた。


「やっぱりそうだ!」


「どうしたの?」


再びボタンを押して、今度はチェックをしてみる。


〔ザ「テステス」ザザッ〕


「てすてす?」


ミラは首を傾げ自分の言葉を繰り返した。


「聞こえるかの確認だよ。こうやって指のボタンを押して話しかける事によって、同じ物を付けた遠くの人に…」


〔ザッ『感度良好』ザザッ〕


「誰だ!?」


「どうした!?」


「何か聞こえたぞ!自分の声がハウリングしたのか?…いや女性の声だったような」


「俺にはギリゴブの声以外は、何も聞こえなかったぞ」


「そうか……となると」


腕組みをして何も無い中空を見て思考する。今のは誰だったんだ?……まさか!


〔ザッ「アンノウンthis isゼンジ、聞こえるか?over」ザザッ〕


「アンノウン?独り言を言ってどうしたの?聞こえてるわよ」


「シッ!あ、ごめん。悪いけど少し静かにしててもらえるかな」


ムッとした表情のミラを他所に、高鳴る胸と一抹の不安が入り混じった自分は、指輪のボタンを凝視する。


〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、感度良好over』ザザッ〕


トランシーバーから、アシスタントを名乗る女性の声が聞こえてきた。


「何ぃ〜!!?誰だ!」


「怖い顔して、大丈夫?頭を打ち過ぎたのね」


「あ、ああ。いや、違う。大丈夫だ少し検証するよ」


〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、君は何者だ?over」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、私は貴方の補佐を行うアシスタントですover』ザザッ〕


助手のようなものか?


〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、このトランシーバーは君と話す為の物なのか?over」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、左様です。over』ザザッ〕


自分は眉間を指で押さえた。


〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、ラジャー。しばらく待機してくれout」ザザッ〕


大きく息を吸った。そして、天井に向かって大声を上げた。


「一人用かい!!!」


そこへ、リムスが食事を運んで来た。


「楽しそうね。何が一人用なの?」


「い、いや。大声出してすみません。何でもないんです」


「大丈夫か?今のが使いたかったスキルなのか?」


「いや……忘れてくれ」


自分は恥ずかしくなり、視線を下に向けた。すると机の上にはリムスが並べた皿が置いてあり、そこには全てキノコが乗っていた。


「これがいつものやつ?朝と一緒だよね?」


「そうだよ。今は長雨でキノコしか育たないんだよ」


「いつものやつってそういう意味?」


他に無いから、いつも同じやつって意味だったのか?だったら何も言わなきゃ良いのに……常連っぽいと憧れたのを取り消したい。


「お肉が食べたいなら自分達で調達してきてね」


リムスがウインクをして皿を並べ終えた。そしてダオラの前にラム酒を置いた。これもいつものパターンなんだろう。


「そうだな、明日はニーボアを狩りに行くぞ」


「肉」


「それなら良いクエストがあるわよ。鳥籠亭からのオーダーで、ニーボア1頭の捕獲。あなた達のランクなら余裕でしょ。報酬は鳥籠亭一泊と、ニーボアのステーキよ」


「最高だな!ギリゴブもいるから捕獲は問題ないだろう」


「任せろ」


やっぱり頼られるのは嬉しいもんだな。

ところで、ニーボアとは何だろう?アシスタントに聞いてみよう。


〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、ニーボアとは何だ?over」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、ニーボアとは、猪のようなモンスターです。Fランクですが、低い姿勢からの突進は、木をも容易くへし折ります。over』ザザッ〕


異世界の猪……恐るべし……。


「そうと決まれば前祝いだ!リムス、エールをくれ」


「それはダメよ。エールは1杯5000ギャリーじゃない!破産するわ。ラムで我慢して!」


ミラが慌ててダオラを止めた。ギャリーが日本円と相場が同じだとすれば確かに高すぎる。エールは高級品なのか?


「くそっ!長雨の野郎!エールにまで影響しやがって!」


そういう事か。自分には恵みの雨だったが、長く続くと被害も出るよな。


「リムス!頼む!まけてくれ!」


「ダメよ。残念だけど」


「そこをなんとか!サービスしてくれ!何でもするから!」


ダオラは、リムスの両肩に手を乗せ懇願している。相当我慢してるみたいだな。


「無理なものは無理。大体何でもするって、何をする気なのよ!」


「お前がして欲しい事だよ」


ダオラがそう言うと、今まで着ていた迷彩戦闘服が一瞬で消えた。ダオラは素っ裸になってしまった。


「……何?サービスしてくれ?私がして欲しい事ってそれ?ダオラの裸を見ても嬉しくも何ともないわよ!」


「え?いや、これは!何で?違うんだ!俺のケーボーがどうして出てるんだ?」


「知らないわよ!」


リムスはダオラにビンタをして、プンプンと音が聞こえて来そうに肩を揺らしながら受付けに戻って行った。


「ギ〜リ〜ゴ〜ブ〜!どう言う事だ!」


「自分は何もしてない!」


「盾も無いじゃないか!」


椅子に立て掛けていた防弾盾も無くなっていた。


「本当だ!え?どうしてだ?」


「こっちが聞きたいわ!」


「め、迷彩戦闘服!取り敢えずこれを着てくれ」


新しく出した迷彩戦闘服をダオラに渡した。ダオラは酒に酔ったかのように、顔を真っ赤にして急いで迷彩戦闘服のズボンを履いた。


「どうしてくれるんだ!」


「どうもこうも、パンツ履いてないダオラが悪いんだろ」


「話をすり替えるな!何をしたんだ!」


「自分が聞きたいよ!そ、そうだ!アシスタント!」


自分は慌てて指輪のボタンを押した。


〔ザッ「アシスタントthis isゼンジ、迷彩戦闘服と防弾盾はどうして消えたか分かるか?over」ザザッ〕


〔ザッ『ゼンジthis isアシスタント、自衛官のスキルで出現した物は、消えるように念じるか、24時間経過すれば自動で消えます。over』ザザッ〕


「たはは……時間経過で消えるみたい」


「早く言えよ!」


「自分も今知ったんだよ!……ごめんなさい」


「エールを奢れよ!それでチャラにしてやる」


「喜んで!」



(女神様、こちら自衛官。

一人用のトランシーバーなんて聞いた事もありません!もしかして、早い段階で覚えたのは、女神様の優しさだったのですね。スキルの説明もトランシーバーに聞けば良かったんですね。覚えて直ぐに使っていれば、色々教えてもらえたのに。いやいや、そもそもトランシーバーの説明をしてくれないと……どうぞ)

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