第1の殺人
視点が変わる部分があるので(第4部分)、連載小説の体裁をとっていますが、7000字程度の短編です。
最後の最後に大きな仕掛けがあります。ミステリー慣れしている方は第1部分からピンとくるかもしれませんが、どうぞお楽しみください。
人里離れた、とまではいえないものの、鉄道の駅からは離れた閑静な場所にその家はあった。
焦げ茶色の外壁の一軒家。建物の敷地とちょうど同じくらいの広さのある庭には、今はもう使われていない犬小屋、そして空の植木鉢が、存在を強調しないよう置かれている。
この家の主人は、1階にある、大きな窓からの採光が良い部屋で、昼間からベッドに伏している。鼻と口に繋がれたチューブが床を伝って伸び、長方形の箱へと行きつく。
家庭用の人工呼吸器である。
男の肺に空気が送り込まれるたびに、装置に付いた緑色のランプが点滅している。
男はとても穏やかな表情をしている。
部屋にはテレビのほかに、娯楽小説から国語辞典までがびっしりと並んだ背の高い本棚が置かれており、男が余生を過ごすのには十分な環境が整っているように見えた。
男は覚醒はしていたものの、仰向けで天井の方を見ていたため、自分の方に「黒い円盤」が迫ってくることに気付いていなかった。
否、もしかすると、気付いていたが、気に掛けなかっただけかもしれない。
なぜなら、その「黒い円盤」は、全自動式のお掃除ロボットだったからである。
勝手に動き回って部屋を出入りするのは当然だ。
お掃除ロボットは、人間のために部屋を綺麗にしてくれるお役立ち道具であり、通常、人間に害をなす存在ではない。
——しかし、今は違っていた。
部屋に侵入したお掃除ロボットは、壁沿いに溜まった埃になど脇目もくれず、まっすぐにベッドの方へと進んでいった。徐々に加速もついていく。
お掃除ロボットが標的としたのは、床に垂れ下がっている人工呼吸器のチューブだった。
お掃除ロボットの体当たりによって、チューブが引っ張られ、男の口についていた酸素マスクがポロリと落ちる。
必要な空気が送り込まれなくなったことにより、男の先ほどまでの穏やかな表情は消え去り、鬼の形相といえるような、苦悶の表情が代わりに張り付いた。
男はイモムシのように体をジタバタさせたが、立ち上がって酸素マスクを拾い上げることができるほど身体の自由はないようだった。
また、男は同居人に助けを求めるために呻き声を上げたものの、部屋に訪れる人間は誰もいなかった。
男の動作がなくなり、やがて息を引き取るまでの様子を、お掃除ロボットは静止して眺めていた。




