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黄昏のミリアム  作者: 雅流
シバニエ
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中央アフリカ

中央アフリカ西部、ウハム州の州都ボサンゴアでもここ数ヶ月にわたり目につくような紛争は起きていなかった。

ポジセ政権を打倒した反政府武力組織のセレカも今は急速にその勢力を減退させていたのだった。

セレカとはサンゴ語で連合、同盟を意味する。



マルタンは白髪の混じり始めた頭を撫でながら言った。


「もうセレカの時代じゃない。俺たちの時代は終わったんだ」

「俺は銃を捨てる」


ホルタンスは怒りをたぎらせた厳しい目で怒鳴った。

「そんなことが許されるわけがない。セレカを抜ける者には死が与えられる」


マルタンは溜息をつきながら言った。

「アルカイーダはアフリカから消滅した」

「お前は誰と戦うつもりだ? フラニ族か?」

「何百万人も殺しあったコンゴのツチ族とフツ族でさえも今は和解して戦っていないというのに」


ホルタンスは銃を放さなかった。

「我々が戦うのはジャーヒリーヤだ」

「それこそがイスラーム社会の建設だ」

「預言者ムハマンドの導きに従ってジャヒリーヤを打倒する」


最も有名なイスラム主義者であるクトゥブは神のみが主権を有するイスラーム社会の実現のためには、神以外に存在に主権を認め、そこに法を求めるすべての既存の社会を破壊することが必要であると説いた。

イスラーム社会以外のすべてを総称してジャヒリーヤ社会と呼んだ。


マルタンは首を振った

「俺たちはムハマンドの戦士なんかじゃない、ただの盗賊だよ」

「そしてムハマンドは預言者なんかじゃなかった」

「本物の預言者はソウェトにいる」

「今やアフリカ中の人間がそれを知っている、字の読めない者ですらもな」

「もうすぐアフリカにはイスラームもジャヒリーヤもすべてが消滅する」

「アフリカは神の国になるんだ、本物の神はソウェトにいる」


ホルタンスは歯ぎしりをしながら言った。

「あんなのは本物の神なんかじゃない、まやかしかそれでなければ単なる噂話だ」


マルタンは言った。

「アッラーは神ではない、存在さえもしない」

「それが証拠に預言者はまやかしだと言って南アフリカに向かったセレカの戦士は一人でも帰ってきたか?」

「預言者の教会はなんの武力さえも持っていはしないというのに」


ホルタンスはそれを認めるつもりはないようだった。

「それは何かの陰謀だ。預言者の教会はアメリカが仕組んだイカサマに決まっている」

「スーダンでもコンゴでも武装勢力は一掃されている、アメリカの思う壺だ」


マルタンは憐れむような眼でホルタンスを見つめていた。

「現実から目を背けるな、アメリカは我々以上に預言者の教会を非難している」

「南アフリカでもコンゴでも治安の回復とともに労働者の権利が見違えるように改善している」

「それに伴ってプラチナやコバルトの市場価格は爆上がり中だハイパーインフレなみだな」


「預言者の教会を市場経済を破壊するカルトな反社会的勢力と非難しているが、単に今まで自分たちがアフリカから搾取しまくってきた権益が失われて慌てているだけだ」

「預言者の教会は武力を行使しない」

「だからアメリカも武力介入はできない」

「アメリカからも工作員が送り込まれているだろう、しかし何かの成果をあげたという話はきかないな」

「神と戦って勝てるわけなどないというのに」


ホルタンスはそうは考えていないようだった。

「アメリカは自分たちの意志を通すためだったら、どんな状況であろうと武力による介入を躊躇したりしない」

「アメリカが武力介入していないこと自体がこれが陰謀であることの何よりの証拠だ」

「預言者の教会への抗議はポーズだけだ、戦線が崩壊すればこれまで以上に欧米に搾取されるジャヒリーヤが出現するだろう」


マルタンは言った。

「預言者の教会がまやかしだと思うなら自分でソウェトに行ってみたらどうだ?」

「ありとあらゆる武装勢力がソウェトへと向かったはずだ、しかし誰一人として預言者の教会の活動にほんの僅かな妨害さえも与えることはできなかった」

「ほぼ大半の連中は預言者に実際に会ってみて教会に帰依したらしい」

「それ以外の者には天罰がくだったと言われている」


ホルタンスは言い返した。

「天罰というのは巧妙に偽装された武力行使だ」


しかしマルタンの最後の反論にはホルタンスも答えを持たないようだった。

「無数の群衆に紛れた、無数の武装勢力の戦士のすべての攻撃を武器も使わずに全て無力化できる者がどこにいる?」

「そんなことができるのは神だけだ」

「本当にお前が預言者は偽物だと言うならソウェトに行って自らの手で排除してきたらいいだろう」

「天罰で近づくこともできないだろう、預言者の教会の神は、神の意志に背くものには女だろうが子供だろうが容赦はないということだ」


「神の意志に背くものとは我々セレカのようなイスラーム社会のために戦う戦士のことか?」


「いや、噂によるとそうではないらしい」

「どこの誰であろうとそれだけで天罰がくだることはないらしい」

「しかし預言者の言葉を聞きながら、それに従わずに盗んだり人を傷つけたりする者には必ず天罰がくだる」


「そんなことをして預言者の教会には何の得があるというんだ?」


「ホルタンス。お前にはまだ判らないのか? 預言者の教会に得など何もない、彼らは神の意志に従っているだけだ」

「しかしお前の言うとおりだな、預言者の教会が非武装であっても、これが続くならアメリカは武力介入に踏み切る可能性もあるかもしれないな」

「南アフリカでもコンゴでも企業は資本家の意志を離れて預言者の教会のお告げのままに活動し始めているらしい」

「それは彼らの価値観や権益の全てを無価値にしてしまうことだからな」


「アメリカの攻撃、そうなれば預言者が本当に神のお告げを知らせる者なのかどうかがはっきりするだろう」


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