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黄昏のミリアム  作者: 雅流
シバニエ
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シバニエ

貴金属採掘の大手企業であるシバニエ・スティルウォーター社は重大な経営の危機に瀕していた。

英国ロンドンのロンミン社を買収して拡大したシバニエ・スティルウォーター社は世界最大のプラチナの一次生産者であり、8万人を超える鉱山労働者を雇用する南アフリカでも五本の指に入る大企業だった。


しかし鉱山労働者のストライキにはまったく終焉の兆候さえも見いだせていないのだった。


4~5年前に吸収合併前のロンミン社の時代にも4か月にわたるストライキを経験していたが、その時には労働者の過半数が加入する鉱山・建設労働組合連合を避けて労働者に直接賃金案を提示するなどの非常手段により、20%以上の賃上げをすることを条件にストライキは集結を迎えた。


しかし今回のストライキはそのような生易しいものではなかった。

賃上げの要求は現在の賃金の5倍という考えられないような高水準であったし、ひとつの鉱山が止まるのではなくてシバニエ・スティルウォーター社の抱える8万もの鉱山労働者のほぼ全員がストに参加していたのだ。


このストライキは世界のプラチナ生産量の50%以上に影響を及ぼしていたし、ストライキを巡る交渉はまったく進展の見込みが見いだせていなかった。


このストライキに預言者の教会と呼ばれる集団が関与していることは公然の事実だった。


預言者と呼ばれる団体の中心人物は鉱山労働者や経営者に向けて労働者の労働に見合った対価、即ち現在の5倍程度の水準の賃金を支払うように警告を繰り返していたのだ。


しかし労働組合連合に団体の人間が参加したり関与していることは一切なかったし、教会は勝手に声明を発し続けているだけでシバニエ・スティルウォーター社に対して交渉の申し入れなども一切されていなかった。


ストライキは教会の預言を受けて労働者たちによって自主的に起こされたものだった。


シバニエ・スティルウォーター社は記者会見などメディアを通じての発信やホームページに掲載する等、預言者の教会に対して対話の申し入れをしていたが団体からはなんの反応もされていなかった。


個人ベースでのストライキの切り崩し工作も活発に続けられていたが、一人の労働者さえも切り崩すことに成功してはいないのだった。



シバニエ社の経営会議は手詰まり状態にいらだっていた。

とにかくストライキの一部でも切り崩さなければ交渉の進展は望めない。


ついに奥の手として2000人にも及ぶ移民労働者を国外から雇用して鉱山へと送り込むという荒業に出た。


移民の大量導入には政府内にも懸念の声があがったが、米国からの国際社会でのプラチナ市場の混迷解決に向けて、シバニエ社の対応についての南アフリカ政府への協力要請もあり実施されることになったのだった。


2000人の移民労働者が自分たちの職場を奪い、もしそれが成功すれば続々と移民労働者が流入してくることへの怖れからストライキから離脱する者が出てくるはずだというのがシバニエ社の目論見であった。


移民労働者たちが鉱山労働へと送り込まれてから3日目にその事故は起こった。


ビクトリアス鉱山には1000人の労働者が送り込まれていたが、悪天候により大規模な停電が起こりリフトが停止して1000人もの移民労働者たちが地下に閉じ込められてしまったのだった。


懸命の作業にも関わらず電力は復旧せず40時間が経過し全員の生命に危険が迫っていた。


シバニエ社の経営陣にもここにいたって預言者の教会にまつわる噂を真剣に考えざるをえないという意見が出始めていた。


各国からの救助支援隊も続々と南アフリカを訪れていたが、悪天候はひどくなる一方で作業は困難を極めていたし発電機なども持ち込まれていたがリフト電力は依然として復旧していなかった。


丸二日が経過した。


シバニエ社は電力が復旧して全員が救助されれば移民労働者による操業は中止し、労働者側の提示している条件を前提とした交渉のテーブルにつくつもりだとの声明を発表した。


声明の発表から3時間後、それまでどうやっても回復しなかったリフトのうち一基が奇跡的に動力を回復した。


1000人の労働者たちは一人の死者も出すことなく救出されたのだった。


移民労働者たちの間ではストライキ中の鉱山労働者たちの間で信じられている預言者の教会によるお告げと天罰についての噂がまたたく間に広がっていった。


2000人の移民労働者たちの退去は大変な騒動になるのではないかというシバニエ社の予測に反してきわめて整然とスムーズに進んだ。


移民労働者たち自身が鉱山労働への残留を望んでいなかったことがその理由だった。


しかし、シバニエ社にとっては鉱山労働者たちとの困難な交渉が目の前に横たわっていた。


ストライキによる要求はどの様な懐柔策をもってしても一銭たりとも譲歩されそうもないことをシバニエ社の経営陣はここにきてやっと理解しはじめたのだった。

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