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黄昏のミリアム  作者: 雅流
ソウェト
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奏者のアパート

クリップスプライトを縦断するように舗装道路が施設されたが、道路沿いはあいかわらず土埃りの中に

トタン屋根のあばら屋がひしめくように建っているいるだけだった。


最初にクリップスプライトに新しい家を建てたのは病院を管理しているサヤという使徒だった。


それは6つの部屋のあるアパートメントだったが、クリップスプライトにトタン屋根のあばら屋以外の住居が建つのは初めてだった。


彼女は舗装道路沿いに同じアパートメントを二つ建てた。


「同じ建物を二つ建てなさいというのが巫女の預言なのです」


サヤはそう言った。


サヤは預言者の教会の辺りを歩き回り、生活に困っている者たちをアパートメントの住人に選んだ。


どれも小さな子供をもつ母親や、体の不自由な老人などの家族を養っている者たちだった。


サヤのアパートには家賃がなかった。


アパートメントの周りにはすぐに人々が集まってきた。


少しでも金の匂いのするところに集まるのは、この辺りに住む人々の習性なのだ。


サヤはアパートメントの玄関に鍵をかけなかった。


サヤが病院にでかけていくと、すぐに空き巣狙いたちがサヤの部屋へと押し入った。


同居人たちは固く鍵を閉ざしていたけれどサヤの部屋には鍵がかけられていなかったからだ。


空き巣狙いたちは家具や衣類、食料にいたるまで一切合切を用意してきた麻袋に詰めると退散した。


玄関を出ると彼らは舗装道路を避けて、アパートメントをぐるりと裏手に回って荒れ地を走って逃げようとした。


三歩も歩かないうちに先頭の男が石に躓いて転んだ。


転んだ拍子に頭を打ったのか倒れたまま動かなかった。


ちょうど駆け出そうとしていた矢先だったせいで、それに続いていた男が倒れた男に躓いてその上に倒れ込んだ。


運の悪いことに先頭の男が持っていた麻袋から突き出ていた棒のようなものが倒れてきた男の目に突き刺さった。


鮮血を流しながら男は目を抑えて痛みのために絶叫した。


三番手の男はその様子を見て呆然としていたが、いきなり後ろの男が彼の首に両手を延ばしてきた。


ものすごい力で喉を絞められて、三番目の男は声をあげることもできずにもがいて手を振りほどこうとしたが、首を絞めてくる腕はものすごい力でびくともせず、やがて意識がぼんやりとしてきた。


四番目の男は一人を絞め落とすと、後ろから来る男につかみかかっていったが相手も同じように彼の首を締め上げてきた。


男たちは口々に何か叫んでいた。


「誰か止めてくれ、俺の体が俺の体じゃないみたいだ」


「やめろ、俺じゃない、体が勝手に動いて。。。」


最後に生き残った男は、近くにあった大きな石を持つと、最初に倒れた二人の男の頭にその石を振り下ろした。


ぐしゃりという不気味な音が周囲に響いた。


男はしきりに「俺じゃない」「俺じゃない」と叫んでいた。


その男が近くの樹木にロープをかけて首を吊ると、空き巣団は全滅だった。


アパートメントの周りに集まっていた者たちすべてがその様子を見ていた。


その中にいた一人の白人の少年が言った。


「見ていたな、みんなですぐに盗まれた物を部屋に戻すんだ」


「そうしないと俺たちにも天罰がくだるぞ」


一斉に人々が動きはじめ、盗品をサヤの部屋へと運び始めた。


抜け目ない男はこっそりと金目のものをポケットに隠した。


そのまま逃げようとしたが脚が動かない。


地面にはりついて動かない両脚をなんとか動かそうとしているうちにボキッという鈍い音がして両脚が折れた。


完全に骨折して骨がまっぷたつになっていた。


両脚の力を失って倒れ込む体を支えようとした両腕が体重に耐えられなかったのか、やはり鈍い音とともに骨折した。


ものすごい絶叫の悲鳴をあげながら、男はぶらぶらした四肢が揺れた。


先ほどの白人の少年が倒れている男に近づいた。


何事かと周囲が見回しているなか、少年は男のポケットに手を入れると何かを取り出した。


それは金で装飾された馬をかたどったガラス細工だった。


「天罰だ、盗もうとしたからだ」


少年はガラス細工を頭上にかざして大きな声で叫んだ


「天罰だ、手足が全部折れたぞ」


何人かがあわててポケットから何かを取り出して、アパートの中へと駆け込んでいった。


全ての盗品がサヤの部屋へと戻された。


鍵のかかっていない玄関の扉は半開きになって風に揺れている。


周囲の人々は蜘蛛の子を散らしたように雲霧消散していた。


白人の少年が扉をチラリと睨むと大きな音をたてて扉がしまり、鍵のかかる音がした。


少年はもう一度周囲を見回した。


どうやらアパートに近づこうという者はもう誰もいないようだった。


アパートの裏手に転がっているいくつもの死体を見て少年は小さく舌打ちした。


「ちぇっ、また夜に運びにこないとならないじゃん」


翌朝、死体はすべてどこかに消え失せていた。


どうやって運び出したものか車のわだちの跡も、台車を転がしたような跡も見当たらなかった。


そうして天罰にあたると魂も死体さえも残らないという噂が広がり始めた。


クリップスプライトから暴力と犯罪が潮が引くように一掃されると、その噂は南アフリカの国中へとまたたくまに広がり、町の中央を縦断するように新設された舗装道路の周辺には治安の良さを求めて移住してきた富裕層によって続々と建物が建設され始めた。


どの建物もペアのように2棟ずつ建てられており、一棟は居住用、もう一棟は預言者の教会により設立されたボランティア団体に寄付された。


ボランティア団体のトップである奏者サラと呼ばれる使徒は、貧困層の人々にそれらの住居を割り振っていった。


貧困に苦しむ者たちは誰もが無償で提供される住宅を死ぬほど欲していたが、サラに割り振られた住居において奪いあいのような諍いがおこることは全くなかった。


誰もが必死に幸運を願っていたが預言者の采配は絶対なのだ、誰に教わらなくとも人々はそれを痛いほどよく理解していた。


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