重い話しに耐えられない軽さ
一体誰の為に働くのかと。
誰もが、足を止めてしまうが。
時間は、刻一刻と止まることはない。
生き急ぐことを、強要されているからね。
◆
隔離授業:② ワルツ基礎 担当教員 室星剛太郎
「確か、変態までは教えたね」
「? アバぁ??」
「うん。お宅はもう口を開けなくていい、黙っててくんない?」
「? ……はいはいっ!」
足をバタつかせる真似をする百目鬼。
そんな態度の彼に、室星と翁も小さくため息を吐いた。
――研修期間が終えた後は、一般の古参の従業員同様と任務に入るが、この研修期間でもある3週間、最終テストにおいて落第点を取り、不適合と見限られると、見い出された能力で適応出来る職場へと配属、及び転属される。
その部署に配属されると、倉庫への商品確保には赴くことは一切出来ず許可はされない。
何かの縁や、コネなどでの場合のみに出動は赦される場合もあるが。
それは上位の従業員にしか承認は許可されていない。
その際において。
彼の所属、彼の上司への報告は不可欠となる。――
「……この、たかだか3週間で。何もかもが、このワルツでの立ち位置が決まるって……ことなのか?!」
室星の言葉の途中で翁が。
思わず声を漏らした。
驚きと戸惑いの表情を浮かべる翁に、
「ああ。研修期間ってのは公式でいうところの登竜門だからね」
表情を崩さずに、当たり前だと答えた。
だが、翁は納得がいかなかった。
「登竜門たって! こんな短期間でっ、新入社員の何が、どうこう分かるってんだよ!」
吠えた翁の胸元へと、腕を伸ばし掴もうとしたのだが。
その腕は百目鬼が掴み阻んだ。
「翁に手を出すなっ!」
凄む百目鬼に、
「ハエがぅっせぇなぁ~~」
凄んで睨みを効かせた。
「才能を見出すのが教員たちの仕事であって。それを、たった3週間という短期間で、開花させるのも教員の仕事だ」
腕を引いて百目鬼の手を振り払った。
見下ろす室星と、見上げる百目鬼の視線がかち合う。
「そして。その行為を無碍にするのが、手前らみてぇな糞野郎だよ」
室星の言葉に。
翁の身体もビクついてしまう。
「う」とまた、大粒の涙を流す翁に。
丸まってしまった背中を百目鬼は優しく撫ぜた。
「あんま。翁君を甚振るの止めてくんねぇ? 目が解けちまうって」
「つぅか。百目鬼ぃ、手前も馬場に申し訳ないって思えよ? 腐っちまってんの、手前だかんな??」
「腐ってるって、……パワハラ~~wwww」
へらへら、と笑う百目鬼に室星の目も鋭くもなる。
のだが。
(もう、反応するのも億劫だな。こりゃあ)
室星は、早々に百目鬼の存在を諦めた。
同時に、そんな馬鹿に憑りつかれた翁が、溜まらなく可哀想になった。
(こっちの才能に、……ないよなぁ~~明らかに)
ここで早々に諦めた室星は。
ここで早々に才能を見誤ってしまう。
結果論としてだが。
この先の講習の中で。
鈍く輝いていた原石でもある。
翁一族の端くれでもあった翁表青年を。
一切と、見なかったのである。
「んじゃ。どんどん解説と進めるから。きちんと、寝ないでお喋りもなしでっ。訊けよ!」
放漫であり。
自身の過信。
それは輝かしい功績を遺した男が。
知らずに見誤った、損失と汚点。
それに彼が気づくのは。
この先に翁青年がやってしまった事件の後である。