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喧嘩

やはり維月は奥に篭る生活をしていた。

それでも、本人がいいと言うのならと、維心は特に何も言わず、蒼も諦め、臣下達も心配をしつつそれで宮は落ち着いて来ていた。

維月はたまに庭の隅で座って沈んでいるようだったが、維心は自分に何も言いに来ないので、黙って見守っていた。今日も、維心が宮の会合に出て戻って来ると、庭の向こうの方で、座っているのが遠く見えた。

一人ぽつんと座って池の水面を眺めている維月を見ていると、維心は不安になった。何を考えているのか、一向に話してはくれぬし、最近では、あの次元の隙間に落ちた折りの記憶が見えては腹が立ちますでしょうと言って、心をつなぐこともさせてはくれない。だからと言って、無理につなぐのも、今の状態ではする気になれなかった。

維心は、思い切って維月に訊いてみようと思い、庭へ出ようとした。

向こうの方で、維月が飛び上がるように立ち上がるのが見えた。維心が足を止めて目を凝らすと、維月の傍に膝を付いた人物が見えた。そちらも驚いたようで、かなり慌ててその体勢を取ったのがわかった。

ーあれは軍神の礼だ。

維心は気を探るまでもなく、それが義心であろうことがわかった。あの様子では、知っていて来たのではないだろう。しかし、維心は急いで居間を出、そちらへ向かった。


維月は、毎日ぼんやりと過ごしていた。

ここでの生活には困ったこともなく、毎日が滞りなく過ぎて行く。しかし、自分個人としての毎日は、とても退屈である上に、なんの向上もなく過ぎて行く、無駄に過ぎて行く時間のように思えてならなかった。まるでペットか何かのように、まるで愛玩動物であるかのように…。

だがしかし、これも人であった自分の感覚であるのだろう。他の神の妃は、同じように宮の奥深くで政務に口を出す事もなく、ただ、夫の帰りを待つのだという。夫の身の回りのことは侍女達が行い、本当にただ着飾って美しく装い、夫に愛でられてそれに喜びを見出す…。維月には、それが何百年と続けられるのか、ただ不安であった。

維心を一人にしてここを出て行くことは出来ない。王に生まれたのは維心のせいではなく、神に嫁ぐとこうなるのだということも、知らずにいた自分を恥じた。ただ愛しているというだけで、自分は維心の傍に居ることを選んだけれど。維月は水面に向かってため息をついた。

ふと、何かの気配を感じて、そちらを見た。甲冑が見える。維月は驚いて飛び上がるように立ち上がり、身を隠そうと慌てたが、そこには木々のほか何もなかった。相手はこちらへ歩いて来て、維月に気付くと、とても驚いたように片膝をついた。

「義心…!」

維月は声を詰まらせるように叫んだ。よりにもよって、義心に会うなんて。維心様が知ったら、どれほどに怒ることか!相手は小刻みに震え、維月に言った。

「…失礼を致しました。我は…蒼様より、ここの庭の池の横にある東屋と、同じものを新しい月の宮に作ってほしいと言われ…見に参った次第でございます。」

維月は池の向こうを見た。確かに東屋がある。蒼は家族であの東屋で、人のようにバーベキューなどに興じるのが好きだった。確かに蒼が言いそうなことだ。

維月も、震えながら答えた。

「世話を掛けます。私は戻る所でしたので、ゆっくり見て行ってくださいね。」

義心は頭を下げた。

「は!」

維月はくるりと踵を返すと、そこを後にして居間へと慌てて向かおうとした。胸がドキドキする。着物の裾がうまく蹴捌けなくて、足が絡んでよろけた。義心が慌てて立ち上がって思わずそれを支えた。維月は恥ずかしくて真っ赤になり、小さな声で礼を言った。

「ありがとう」

そして、そちらを振り返らずに一目散に居間を目指して駆け出した。歩いて帰るなんて出来なかった。

維心様は、二度は無いと言った。義心も重い罰を受けることになってしまう。

着物の裾を絶対に踏まないと思って下ばかりを見て走っていたら、維月は何かにぶつかった。こんな所に何もないはずなのに…。

維月は顔を上げて飛び上がるほど驚いた。

「維心様!」

維月は思わず池の方を振り返った。ここから、遠くてもあの場所は見える。維心様は見ていたのかしら…。

「…見ておった」維心は察して言った。「あやつは何をしに来た。」

維月は下を向いて言った。

「あの、池のほとりの東屋を見に」維心が眉を寄せたので、維月は続けた。「蒼が、新しい月の宮に、あれと同じものをと言ったらしくて。」

蒼があれを気に入っているのは、維心も知っていた。維心は頷いた。

「そうか。これからはここに来るにも先触れをよこすよう言い渡しておく。」維心は言った。「主はもっと、着物の扱いに慣れよ。」

では、躓いたのもご覧になっていたのだわ…。維月は思った。

今まで、庭はずっとひと続きで、広間から見える庭も、維心の居間から見える庭も、ずっと散策することが可能であったのだが、これで、この居間の横まで来る時にはわざわざ言ってから来なければならなくなってしまった。維月はまた、宮の決まりを変えてしまったことに、罪悪感を感じた。


毎日を鬱々と過ごして、いったい今日が何月何日なのかもわからずにぼーっとしていた維月は、聞きなれた声に振り返った。

「…よう。さえねぇ顔してるじゃねぇか。」

十六夜が、微笑んで居間の庭の出入り口に立っていた。維月は急に視界が明るくなったように感じて、十六夜に駆け寄って抱きついた。

「十六夜!…ああ、どうしたの?」

十六夜は維月を抱き留めながら顔をしかめた。

「おいおい、お前今日が何月何日かわかってるのかよ?明日向こうへ帰るんだぞ。この間、来月帰ると言っただろうが。だから迎えに来たってのによ。」

維月は驚いた。

「まあ、もうそんなに経っていたの?私ったらぼーっとしていて…。」

「だろうな」十六夜は苦笑した。「維心の居間(ここ)でオレに抱きつくたぁ、お前らしくねぇ。オレは全然かまわねぇが、いつもは維心が怒るからとかなんとか言って、そんなことしねぇじゃねぇか。」

維月は慌てて十六夜から離れた。そうだった。私、どうしちゃったのかしら。

十六夜はため息をついた。

「こりゃあ相当重症だな。」と傍の椅子に腰かけた。「蒼から聞いてたが、お前はやっぱり帰って来た方がいい。しばらくあっちで休みな。オレが聞いてやるから。そのつもりで居な、維心。」

維月が振り返ると、維心がそこに黙って立っていた。私、維心様の気配にも気づかなかった…。

維心は頷いた。

「…だが、明日であるのだろう。明日までは、我に時間をくれ。」

十六夜は頷いた。

「そのつもりだ。オレはここに他に用事があって来たんだしな。蒼と義心が新しい宮の建設を指揮してるらしいじゃねぇか。そっちの話をきっちり聞いておきたかったんでな。」と立ち上がって居間の出入り口へ歩いた。「じゃあな、明日の朝にまたここへ来るよ。」

維心はそれを見送って、維月の手を取って居間のいつもの自分の椅子へ促した。維月は素直にそれに従った。最近は全く何に対しても逆らうこともなく、ただおとなしくしている維月に、維心はなぜか不安で仕方がなかったのだ。

沈んでいる様子を聞こうと思っていた時も、義心との遭遇で聞きそびれてしまった。維心は今日こそ聞いておかなければと思った。

「維月…なぜに主はこのように塞いでおる。毎日奥へ篭って外へ出ようともしないし、我に意見することも無くなった。侍女達も、最近はお話をすることもないと言って、心配しておったぞ。」

維月は維心を見上げて言った。

「塞いでおるのではありませぬ…それが維心様のお望みではありませんか?王の妃とは、そうなのでしょう?」

維心は自分が過去に言ったことを思い出した。確かにそうだ。ほとんどの神の王の妃は、今の維月のように奥へ篭って外へ出ず、王のすることに意見せず、何事にも従順で、召使いと話すことなどほとんどない。では、維月は模範的な王妃であろうと、このように自分を抑え、内に引きこもって…おそらくは、自分でも気付かぬ間に、己の人格を封じるかのように、もっと内へ内へと引きこもりつつあるのだ。

それは、外界との接触を持つのを避けるかのように変化して来ている。人の気配も、読めなくなって来ている。

十六夜は、それを心配して早めに見に来たのだろう。

しかし、十六夜を見た時は、あれほどに嬉しそうに目を輝かせたではないか。

そう思うと、維心はいたたまれなかった。自分の傍に置くことは、維月にそれほどまでに我慢させねばならぬのか。

「維月…我は、主に模範的な王妃であれとは思ってはおらぬ。このままでは主は息が詰まってしまうであろうが。以前のように、好きに過ごしてよいのだぞ。」

維月は下を向いた。

「でも…維心様に背いたばかりに、私の為に、命を懸けようとまでする龍が現れました。龍には龍の常識があり、決まりがあって、それには意味があるのだと知りました。私は神の世界はわかりませぬ。維心様の言う通りにするより他ございませぬ。」

維心は考え込んだ。確かに、維月が言うことは筋が通っている。しかし、これでは維月の個性が完全に失われるどころか、心の病になろうとしているではないか。

「維月…我を見よ」維心は維月の顎を持ち上げた。「何も主に惹かれておらずとも、軍神達は主を守る為に命を懸けるぞ。我が妃であるゆえな。それが使命であるのよ。ゆえに、義心が特別な訳ではないのだ。あれがもし、主に惹かれておらなんだとしても、おそらく同じことをしたと思う。なのだから、これまでと同様に過ごしておっても、我が良いと言っておるなら、なんら不都合はあるまい。」

維月は、頷いた。

「はい。」

しかし、本当にわかったのかどうか疑問だった。最近は、何に対しても、こうして素直に同意するのだ。そしてそれに従うが、維月がどう思ってどう感じているのかは、一向にわからなかった。

維心は、立ち上がった。

「こちらへ来い。」維心は維月を促した。「奥の間へ。」

維月はやはり素直に付いて来る。維心は維月を寝台へ座らせた。

「長く主と心をつないでおらぬ。明日からはまた帰るのだから、今ここでつないでも良かろう?」

維月は悲しげに維心を見上げた。

「ですが、あの折りの…」

「それはもう良い。」維心はそれを遮った。「そんなことを言っておったら、このまま一生つなげないではないか。主の心を我に見せよ、維月。」

口唇を寄せる維心に、維月は少しためらって後ろへ退いた。維心はそれを抱き寄せて引き留めると、そのまま口付けて心をつないだ。


しばらく後、維心はその心を離した。そして、維月に言った。

「…ならぬ。」その腕は微かに震えていた。「我から離れてはならぬ。そのように思っておるのなら、帰ることを許さぬ。我は…主の他に妃など娶らぬ!」

そして立ち上がると、侍女達に聞こえるよう宣告した。

「我が妃をここから出してはならぬ!我は月に話があるのでここを出る。命(めい)を違えば命(いのち)ないものと思うが良い!」

維月はその背中を慌てて呼び止めた。

「維心様!そのような…!」

維心はそこを出て行った。維心の全ての侍女達が、ぶるぶる震えて奥の間の出入り口や窓の前全てに立ち並んで、維月を出すまいとしている。

維月は一人、そこに座っていた。


「なんでぇ維心、明日まで維月と居るんじゃなかったのか。」

十六夜がちらりと振り返って言う。その前では、蒼と義心が設計図を前に十六夜と話していた。義心が維心に膝を付いて礼をした。維心はしかし、十六夜しか見ていなかった。

「主に話がある。」

十六夜はため息をついた。

「なんでも自分の思い通りになると思ってんなら大間違いだぜ、維心。お前のことだ、維月を里へ帰さねぇとか言いに来たんじゃねぇのか。」

維心は眉根を寄せた。フワッと気が湧き上るのがわかる。

「今回は絶対に帰せぬ。」

十六夜は鋭い視線を維心に向けた。

「調子に乗ってんじゃねぇよ。オレだって今回は絶対に連れて帰ると決めてんだ。止めれるんなら止めてみな。」

「…ほう。我が宮からそれが出来ると思うておるのか」と維心の闘気が吹き上がった。「やってみよ!」

十六夜はフフンと笑った。

「おもしれぇ!」十六夜も激しく光を発した。「やってみな!」

蒼は慌てて設計図を折りたたみ、自分の懐深くへ押し込んだ。二人の力でテーブルや椅子はもちろんのこと、最上階の天井まで吹き飛んで、夜空へ舞い上がってしまっている。蒼と義心は辛うじて気で防御してその場に踏みとどまったが、維心の力はまだ全開ではない。十六夜も加減している。ということは、まだ二人とも、理性が残っているということだ。蒼は叫んだ。

「ちょっと二人とも!こんな所で戦ってなんになるんだよ!また母さんが自分を封じちゃったりしたらどうするのさ!もう炎嘉様は助けてくれないんだぞ!」

「お前は黙ってな!」十六夜は叫んだ。「こいつはなんでも自分の思い通りになると思ってやがるんでぇ!こんなお坊ちゃんは少しお灸を据えなきゃなんねぇんだよ!」

「主こそよ月よ!」維心は青く光る目で言った。「力も使い方を知らねば意味はないわ!」

二人は壊れた天井から外へ飛び上がった。維心の闘気は凄まじく膨れ上がり、宮から離れても勢いは宮にも影響を及ぼし、そのせいで宮の上階はもぎ取られ、そして宮全体が激しく揺れた。

まるで地の底から震えるようなその地響きに、他の龍達はただ震えあがった。

軍神達でさえその様子を固唾を飲んで見守っている。とても手を出せないからだ。蒼は月の力で膜を作って、その影響から宮を保護しようと努めた。なんだってこんなことをしなきゃならないんだよ。

十六夜はますます光を大きくしてその闘気を抑えにかかっていた。やろうと思えば封じることも出来るはずだが、さすがに維心ほどの力となると、一気に封じるのは無理なのだと蒼は初めて知った。

二人はさらに上空へと登った。地上への影響が少なからず出始めているからだ。まだ頭の片隅には、理性があるのだろう。蒼は、もはや声は届かないので、念で呼びかけた。

《母さんの気持ちを無視して、二人で何やってんだよ!そんなことしてたら、他の男に横からかっさらわれても知らないからな!》

二人は同時にこちらを見た。蒼はびっくりした。二人とも、既に目が普通ではない。

《誰が持って行けるってんだよ、蒼!ふざけるな!》

十六夜が念で答えた。維心も言った。

《我らから奪うような胆の据わった男など居らぬわ!》

十六夜の光がますます大きくなった。維心は押されていると思ったら、カッと光って瞬く間に龍身に変わった。途端に宮が激しく揺れ、地響きは下から突き上げるかのようになった。蒼は咄嗟に月から力を降ろし、宮全体を大きな光の玉の中へ封じ込めた。こうしないと、宮が崩れてしまう!

遥か上空で龍身の維心が放つ闘気が、この地全体を揺らし、人の世でもそれは震度5の地震となっていた。山肌は崩れ、木々は巻き上げられ、あれほど離れているにも関わらず、かなりの広範囲で影響を及ぼしている。蒼は必死に月の力で地上への影響を食い止めた。地は揺れを止め、風はかなり収まったが、それでもその力の重さは凄まじかった。

「蒼様、何かお手伝いできまするか?」

義心が聞いて来るが、とてもじゃないが、手伝えることなどない。あの維心様と十六夜が戦ってるのに。

「オレにもめちゃくちゃ重い気がのしかかってるんだ…とても無理だよ。これ以上続いたら、地上への影響を食い止められないよ。なんとかあれを止める方法考えてくれたら…。」

義心は上空を見上げた。王が凄まじい気を持っているのは知っていた。だが、これほどに大きな気は、今までに見たことがなく、また実感も湧かなかった。

義心は、奥の宮へ走った。

奥の宮では、侍女にがっつり囲まれた維月がそこに座っていた。先程からの騒ぎで、一体何が起こっているのだろうと、侍女達も不安で仕方がないようだったが、維心の命令があるので、そこを離れられずにいるのだ。義心は維月の手を掴んだ。侍女達が必死でそれを止めようとする。

「おやめくださいませ!我らが維心様に消されてしまいまする!」

義心はそれを振り払った。

「宮の一大事なのだ!」義心は叫んだ。「月と王が本気で戦っておる。それを止められるのは、維月様だけぞ!」

侍女達は固まった。

「では…これは先程より王と月が…。」

「そうよ!」義心は維月の手を引いて走り出した。「このままでは地上も滅んでしまうわ!」

維月は宮の中を走らされながら、義心に問うた。

「…本当に?十六夜と維心様が?」

義心は頷いた。

「はい。維月様を連れ帰る、留めると言い争った後、このようなことに。今は蒼様が、必死で地上と宮への影響を防いで下さっておりまする。何がなんでも止めなければなりませぬ。」

維月の目が鋭くなった。義心は、少し寒気を覚えた。

「…義心」と維月は思い詰めたように言った。「あなた、私と一緒に命を懸けてくれる?」

義心は、何をするつもりなのかわからなかったが、頷いた。

「はい。」

維月はそれを見て同じように頷いた。そう、このかたは強い。義心は思った。

「…二人とも殺されるかもしれないけど…今のあの状態じゃね。」

維月は見上げた夜空、遥か上空にぶつかり合う、その気を見た。月には敵わないと言っていた維心は、押されてはいるものの、十六夜に封じる隙を与えない。あのかたも闘神なんだ…。維月は思った。

「母さん!」蒼が言った。「えらいことになってるんだよ、こんな所に来てどうすんの!危ないんだって!」

維月は蒼をたしなめるように言った。

「私のせいでしょ?わかってるわよ。命懸けてやるわ。殺せるものなら殺してみろっての!」

維月は手を上げた。陰の月の力を母が使うのは初めて見る。黒い霧が湧き上り渦巻き、それは上空へ向かって吹き上がった。

そして、その黒い霧の筋は、十六夜と維心の戦っている間を、切り裂くように通って消えた。

二人は、それにハッと我に返ったのか、同時に下を見た。この力は維月の力。維月が下に居る。

「いったい何をやってるのよ!ご覧なさい、回りがぼろぼろじゃないの!そんな人達だなんて思わなかったわ!いつも人のことを思っているなんて言っていたけど、全部ウソだったのね!」と義心を引っ張った。義心は何をするのかと思ったが、おとなしく従った。「私を騙していた人達なんて、もう金輪際関わりたくないわ!私の為に命を懸けてくれた、義心の方が信用出来るわ。私は義心と暮らしてもらうように頼むつもりよ!」

「ええ!?」

と義心も蒼も叫んだ。

「こっち向いて」

と義心の顔を掴むと、思いっきり口付けた。維心と十六夜から別の気が湧き上り、こちらを向いて降りて来ようとしている。そしてその別の気の発生と共に二人の闘気が急速に減って行く。

蒼の張っている守りへの負担が、急激に楽になって行った。でも…これって義心がヤバいんじゃ…。

十六夜の光りがどんどんと無くなり、姿がはっきりと見え始めた。維心も人型に戻って、猛スピードで降りて来る。二人は宮の天井がなくなったその間に、同時に降り立った。

「何をしている!許さぬ!」

維心が維月の腕を掴んだ。

「維月!オレは誰でも許すって言ってる訳じゃねえ!」

十六夜も言った。

維月はその手を振り払った。

「偉そうに言わないで!」維月は叫んだ。二人はひるんだ。「私は誰のものでもないわ!愛してたからこそ一緒に居たのよ!こんなことをする人達なんて、もう愛してないわ!私が誰を愛するかは、私が決める!もう付きまとわないで!」

維心と十六夜は絶句している。維月は義心の手を掴むと、引っ張って歩いた。義心はなす術もなく引っ張られて歩いた。

「ど、どこへ…」

維月は振り返った。

「義心の家!」

ショックで口がきけなくなっている二人を置いて、義心と維月は出て行った。

蒼はため息をついた。この大惨状を片付けなきゃならなくなったじゃないか。それに、オレがこの後フォローするのを期待して、母さんはオレを置いて行ったんだよね。やめてよ、なんでもオレに振るのは…。

十六夜と維心を恐る恐る見ると、二人はまだ放心して立っていた。こっちは後に回そうと蒼は思った。

「皆の安否確認を!それから破損状況と、次元の歪みは出てないか確かめて報告!」

蒼は叫んだ。遠巻きに見ていた軍神達が、一気に散り散りに調査に走ったのだった。


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