帰還
目が覚めると、日は高く昇り、少し傾き掛けていた。
横を見ると、しばらく一緒に居るだけだと思っていた維月が、座って微笑んでいた。
「維心様、お目覚めですか?十六夜が少し気の補充を手伝っておりましたが、お加減はいかがですか?」
維心は身を起こした。かなり楽になっている。
「もう、良いようだ。主はここにずっと居ったのか?」
維月は微笑んだ。
「はい。気がほとんど無くなり掛けていらしたので、何かあってはと。」
維心は、維月の腕を引っ張って、寝台へ座らせた。
「我は…主が居らぬと気も補充出来ぬのだな。同じようにしているつもりであったのに、一向に出来ていなかったらしい。」
維月は目を伏せた。
「まさか維心様がそれほどまでに想ってくださっているとは思いもしませず…怒っていらっしゃるとばかり思って。おつらい想いをおさせしてしまいました。」
維心は恐る恐る、維月の肩を抱いた。維月は維心を見た。
「我がこうしているのは、嫌ではないか…?」
維月は悲しげに笑った。
「維心様…私は嫌いになどなってはおりませぬ。なぜにそんなにご遠慮なさるのですか?」
維心はためらった。自分が何かすることで、維月に距離を置かれるのが怖くてたまらないのだ。もう二度と、あんな想いはしたくない。
維月はため息をつくと、維心の口唇を塞いで、深く口付けた。激しく口付けると、維心はびっくりしたように戸惑っていたが、しばらくして落ち着いて、維月を抱き締めてその口唇を同じように受けた。
口唇を離すと、維心はじっと維月を見つめた。
「…早く我が宮へ帰りたい。主と一緒に。」
維月は微笑んで頷いた。
「はい。明日には戻れそうですか?」
維心は首を振った。
「本日だ。」
十六夜は腕を組んで立っていた。
「維心、お前はほんとにこうと思ったらそればっかりだな。まだ気は十分でないぞ?戻って大丈夫なのか。」
維心は頷いた。
「我は我が宮に居る方が気が補充しやすいのでな。ここまで回復したら大丈夫だ。後は戻って補充するゆえ。」と見送りに出て来た蒼を見た。「蒼よ、騒がせたな。」
蒼は頷いた。
「ここは瑤姫もおります。お気になさらず、いつでも来て下さい。」
維心は維月を抱き上げた。
「十六夜、主とはまたゆっくり話がしたい。」
十六夜は頷いた。
「嫌でもまた訪ねて行くさ。維月がそっちに居る限りな。」
維心はフンと鼻を鳴らした。
「我が主と話したいのだぞ?まあ良いわ。」と飛ぶ構えをした。「世話になった。さらばだ。」
維心は空へ、維月と共に飛び上がった。
それを見送って、蒼はやっとホッとしたのだった。
王と王妃が帰還とのことで、宮の龍は一斉に迎えに出て来て、出入り口は大変な混雑だった。
その一番先頭に、洪と公李と兆加が、心配そうに並んでいた。維心はそこへ、維月を抱いて着地した。それを見た洪は、涙を浮かべて維心に走り寄って来た。
「おお!王よ、維月様よ!よくぞお戻りくだされました。ささ、居間の方へ!」
洪は回りの臣下を脇へ除けながら、道を開いて二入を奥の維心の居間へといざなった。維心と維月は並んで、回廊を居間へ向かって歩いた。洪が先頭に立ち、王と妃の後ろに公李と兆加が並んで付き従っている。宮を上げての出迎えに、維月は面食らった。こんなに大事になっていたなんて…。
居間へ着くと、奥のいつもの席に維心は座り、その横へ維月も腰かけた。洪が侍女に茶を出すよう指示し、臣下の中でも重臣の三人は頭を下げて挨拶をした。
「王に於かれましては、このたび無事に維月様とご帰還いただけましたこと、我らお喜び申し上げまする。王の気もかなり回復しておられるご様子…安堵致しましてございまするが、ご油断はできませぬ。本日はゆるりとお過ごし頂き、完全なるご快復を我ら願うておりまする。」
維心は頷いた。
「主ら、我の気が減っておったのを知っておったのか。」
洪が頷いて顔を上げた。
「はい。侍女達もそれは心配しておりましたが、薬湯など差し上げても維心様は何もお口になさらぬので、日に日に気を失われて…ですが、我らがご注進いたそうにも、維心様は話を聞いてくださらなかったのでございます。」
維心は考え込んだ。
「…覚えがない。」
公李が肩を落とした。
「我ら入れ替わり立ち代わり王に話し掛けましてございますが、何もお耳に入ってはいないご様子でございました。相槌は打たれまするが、心ここにあらずでいらっしゃって。」
侍女が茶を持って入って来た。維心には薬湯のようで、維月のものと色が違った。
「さあ、それをお召しになって、本日はごゆっくりなさってくださいませ。こちらに戻られて急激に気が回復なされているのが目に見えてわかり申しますが、王は大切なお体でございまする。」
維心は頷いて立ち上がった。
「維月、では、参ろうぞ。」
維月の手を取って立ち上がる維心を見て、洪は慌てて言った。
「王よ、気がご快復なされるまでは…」
維心は眉を上げた。
「心配は要らぬ。」維心が言うのを聞いて、洪が安堵した顔をした。「我はこの宮で気を失うことなど無いゆえに。」
洪はまた慌てたが、維心は涼しい顔をして、奥の寝所へ維月を伴って入って行った。
「まあ…王がお元気になられたのだから、よかったとしなければの。」
洪はため息をついて、それを見送った。




