87ドラゴンブレス15
口から泡をふいたカルナ。
正直年頃の女にあるまじき、無様で見ていられない醜態だが、今は、そんな事よりも何よりも、
『おきろ。この馬鹿。お前が気絶なんてしたら、俺一人に注意が向くかもだろうが」
カルナを揺する。
「あとは任せたさ。がく」
「おきてるじゃないか。ホントに、ふっざけんな」
カルナここに捨てとくか?
………いや、でもなぁ。
コイツここにおいて、もしもセーラが俺の方に来たら、使える盾が無くなるし。
いざとなれば、カルナ盾を使えば、何とかなるかもだし。
むう。
コイツを囮に使って逃げるか?
それとも盾に使うか?それが問題だ。
そもそもセーラの狙いがわかんないし、逃げる意味無いかもだし。
俺セーラの命の恩人だから、大丈夫、な筈だ。
「ふう。よし決めた」
『何を決めたのさ?」
「お前をセーラに突き出して、俺だけ助かる」
「は〜な〜せ〜」
「………暴れるな。生贄」
「誰が生贄さ………ひ」
セーラが100M程の距離まで近づいてきてる。
その後ろにはセルバンテスが、気楽に左右を見ながら口笛ふいてる。
え?何あいつ?やる気全く無いな。
が、
セーラの方は、もう地獄だ。
どす黒いオーラが駄々漏れ。背後霊か何かを数百体単位で背負ってないか?
こっわ。セーラのオーラ怖。
ドラゴンの俺がチビリそうなんだが………
怖くてまともにセーラの眼が見れない。
だが、大丈夫。
俺にはカルナの盾がある。
俺は、近づいてきてるセーラにカルナの盾を掲げてみせた。
「カルナも、ちび竜さんもしばらくぶりです」
カルナは自分のスカートを両手で軽く広げ、きれいな姿勢で優雅に一礼する。
あ、これ大丈夫な奴だ。心配して損した。
「や、やぁ、やんちゃしてたカルナを捕まえておいたよ」
「姉さん騙されないで、この軍勢を率いてたのはコイツさ。私に全ての罪をなすりつけようとしてるのさ」
「そうなのですか?」
セーラーはニコニコしてる。
「違う。俺は無実だ」
「姉さん。コイツが私の一番大切な物を無理やり奪ったさ。敵をとってほしいさ〜」
「そうなんですか?」
「違う」
「違わないさ。力ずくで私の大事な物と、部下を奪われたさ〜」
なんだその言い方?
ヤバイ。カルナはもうなりふり構わず、俺に罪を着せようとしてやがる。
「そうですか。私のちび竜さんが行方不明になったかと思ったら、まさか妹にNTRされてたとは思いませんでした。しかもBSS僕のほうが先に好きだったのに」
………あ、コレは駄目な奴だった。
にこやかに笑っているが、
セーラの眼がエライことになってる。
洞窟の穴みたいな眼だったのが、今では、まるで般若の眼のようだ。
「違う違う違う。カルナの言ってる大切な物って、コイツの白虎の装備の事だぞ。美味しそうだったから、食べたんだ。変な誤解するな」
「そ、そうさ。コイツ最低さ。NTRなんてするわけないさ」
「へえ〜〜そうなんだ〜〜〜。随分仲良さそう。チビ竜さん、両手に花で良いですね〜」
セーラーはまず俺を見て、次に舐めるように、俺が左手で抱えているタレ目さんを見た。
「ち、違います。私は攫われてきたんです」
「そう。つまりはチビ竜さんは、こういうタイプが好みだと?美人で大人しそうです。とても拷問が似合いそう」
攫ったのは俺では無く、多分ヒャッハーだが。
いや、ちょっとまて。
セーラ最後になって言った?
セーラは、そのイカれた眼光で、タレ目さんを舐めるように、睨めつける。
「ひ、ひぃ」
「ね、姉さん。もしかして嫉妬してる?」
カルナの言葉をセーラは無視して。
「カルナ。貴方はチビ竜さんと何も無いのね?」
「は、はい」
「じゃあ、その証拠に、このタレ目の女を殺しなさい。その後自害なさい」
「な、なんでさ?」
セーラは怖い事言い出した。悪魔かコイツ。
セーラはクルンと、首を回して、俺の方をみだ。
怖い怖い怖い。
顔は整っているのに、目が怖い。
呪いで弱ってたときの、ゾンビ状態のほうが、まだ怖くは無かった。
「チビ竜さん?貴方はこの二人と何も無かったの?」
「うん。軽く齧っただけ」
「それを証明するために。この二人を殺してください」
「うん。わかった」
躊躇うカルナとは違い、
セーラの眼光に気圧された俺は、
あっさりそう答えた。
「ひぃ」
「わかるなさ〜」
恐怖に見を震わせ、二人の悲鳴が周囲に轟いた。
俺達の周囲にいた山賊モドキ達も、ドン引きだ。
気楽そうに見えるセルバンテスも、引いてた。




