86ドラゴンブレス14
300mほど先から、セーラがしずしずと、ゆっくり近づいてくる。その後ろには影のようにセルバンテスが、付き従う。
ヒャッハーの他には、誰もセーラ達に向かっていかない。
俺がヒャッハーをぶっ飛ばしたからかと思ったが、
勘違いしていた事に気がついた。
「は、離すさ。早くここから逃げなきゃ」
ジタバタと、今までにない程に暴れるカルナ。
何だ?
何をそんなに………
あ、あれ?
何だこれ?上手く体が動かなかった。
徐々に体が重くなっていくかのような感覚。
「姉さんが怒ってる。逃げなきゃ、逃げなきゃ」
「セーラ?あ、あれ?なにあれ?」
セーラがコチラに近づくにしたがって、誰もセーラに襲いかかっていかない理由、それが当然な事に気がついた。
一見して、セーラは、にこやかに笑っている美女だ。
が
目が笑っていない。
セーラの両目は黒く暗く、まるで深い洞穴のような様相をしていた。見ているだけで全てを吸い込むような。
まるで、その目は、
この世全てからズレてるかのような異質感覚。
視線を合わせるだけで呪われそうな凶相。
カエルが蛇に睨まれているかのような感覚。
ヒャッハーの奴、よくあんなのに突っ込んだな。ヒャッハーの奴メンタルも、ぶっ壊れてんだな。
しかし今は、ヒャッハーよりも何よりも、
セーラの視線は真っ直ぐこっちの方を見ている。
ただそれだけで、こちらの動きが重くなる。
「何あれ、怖エエエエ」
「だから言ったさ。早くブレス撃ち込むさ。早く早く」
「嫌だ。あんなのに撃てるか、怖えよ」
あんな目をした人間に、怨みでも買おうものなら、何をされるかわかったもんじゃない。
魂までも呪われかねない。
「アンタがブレス撃ち込んで、アンタに姉さんの気が向けば、あたしが逃げられる可能性がふえるさ」
「ふっざけんなよ。お前」
「アンタが悪いんだから責任取るさ」
なんだ?あれ?
セーラってあんな奴だったの?
セーラの後ろを歩いてくるセルバンテスが、まるで子犬のように感じられるほど、そんな巨大な存在感をセーラは周囲に振りまいていた。
その場にいる誰もが動けず、ただセーラの一挙手一投足を見守っている。
いや、ただ一人。
「待つのじゃあ」
巨大化した上腕二頭筋が、異常事態に気が付き、城塞都市の門から離れ、セーラとセルバンテスへと向かう。
だが
クルンと不自然にセーラの首が上腕二頭筋の方に向いたと思った瞬間。
上腕二頭筋の動きが止まる。
「な、なんじぁ…………ぁぁぁぁ」
見る間にみるみると、上腕二頭筋の筋肉が萎んでいく。
上腕二頭筋は変身前のサイズへ戻った。
上腕二頭筋は、萎んだ自分の筋肉をみつめて、茫然自失の体でその場に立ち尽くす。
「い、今のうちににげるさ。姉さんの気がそれてる。今なら逃げられるさ」
「え、あ、ああ」
余りの異常事態に、俺は考えがまとまらない。
俺やカルナが、まごまごしている間に、
セーラは上腕二頭筋が動かなくなったのを、その様子を見届けて、再びセーラは視線をコチラに戻す。
俺の視力の良い目は、セーラの口が小さく
「貴方は逃しませんよ」
っとつぶやいているのを見た。
「いや、怖い怖い怖い。何あいつ、あんなに怖かった?」
「何言ってんのさ?姉さんは、はじめから怖いさ。当たり前の事を何を今更?」
「いや、前あったときは普通に良い子だったから」
「それは、きっと呪いで弱ってたからさ。姉さんは基本めっちゃ怖い人さ」
俺の視力の良い目はみた。
セーラの口が
「あら?あらあらあら、悲しいわカルナ。私の事をそんなふうに悪く言うなんて、お仕置きが………」
と動くのを。
「セーラに聞こえてるぞ」
「え?なんでさ」
「カルナにお仕置きが、どうとか言ってるぞ」
「わあああ」
カルナはブクブクと口から泡をふいた。




