76ドラゴンブレス4
「言わんこっちゃない」
上腕二頭筋が戻ってきたのがみえる。
だが後ろに何人か人を引き連れている。
三人?兵隊か?
あいつやっぱり何かをやらかしたのか?
「いや、でも、あの人達の服装見てください」
おおう。
上腕二頭筋以外の者達も、全員半裸だった。
というか、三人共全員筋肉だ。
何だあいつら?
上腕二頭筋の奴、体細胞分裂でもして増えたのか?
全員爽やかに笑っている。
なんというか敵意とか、ピリピリした感じが一切ない。
「危険は無いようだし、とりあえず行って話を聞いて見るか」
「ですね」
警戒心を解いて、
上腕二頭筋の方へと歩み寄る。
「ただ今帰りました。新指導者」
上腕二頭筋はニッカリ笑ってポーズをとった。
すると、それに合わせて残りの三人も筋肉達もニッカリポーズをとる。
あ、わかった。もうわかった。
こいつ等、上腕二頭筋の同類だ。
「おお、これが新指導者ですか」
「む、筋肉がついてないではないか?」
「いや、俺にはわかる。底しれぬマ、ソウルを感じる」
「前指導者のように変身するのか?」
「たぶんな。変身タイプの筋肉だ」
「どうです指導者様。あの軍勢の中に我等が教団員の者がいたので、連れてきました。情報源としては最高ですじゃ」
「だろうな〜」
こんなルックスの奴、教団員以外になかなかいないだろうし、
と、いうか。
我ながらやべ〜奴等のトップにたってるんだな。
こうやって筋肉軍団が各地に潜伏してるとか………
どれだけの数が潜んでいるかはわからないが、
潜伏している筋肉の数次第では、
上腕二頭筋が世界制覇を計画する気になるのも、わからんではない。
「おまえ達って、全員で何人メンバーがいるんだ?」
「………………はて?おう、誰か知ってるか?」
「………さあ?お前知ってる?」
「知らんけど、いっぱい?」
「カロリーの計算なら得意なんだが」
「おお、俺も俺も」
駄目だこいつ等も全員脳筋じゃね〜か。
世界制覇は無理だな。
筋肉を一匹見れば、五十匹いると思えともいうし、
案外うじゃうじゃいるかもしれぬ。
とりあえず。今城塞都市セイウで何が起こっているか聞いてみた。
「それで、都市を取り囲んでいる軍隊は何だ?」
「ああ、あれはチゴヤ商会の姉妹喧嘩です」
「………………は?」
なんだそれ?
詳しく話を聞くと、婚約者のドラゴンを誘拐されて、不機嫌の極みにある姉のセーラが、
そもそもの火種を作った妹カルナに八つ当たり?したのが原因らしい。
ビビったカルナは、ドラゴンを取り戻さないと、何をされるかわからんと、戦力をかき集めたのが都市の周りの兵隊だそうだ。
「んでなんで都市の門が閉まってんの?」
「カルナ様は大盗賊になるのが将来の夢で、今回集めた戦力は盗賊や山賊が主力をしめてまして」
「お、おう。それはまた思い切ったな」
「セーラ様は、この都市を略奪するつもりか。と、都市の騎士や兵士とともに迎撃の構えを見せて、カルナ様はそんなつもりは無い。王都に攻め込んでドラゴン取り戻すから、補給くれと」
だいぶ混乱してるな〜。
セーラ達も気がついたら野盗率いた妹に、取り囲まれてるとか、びっくりしただろうな。
「………何やってんだ?あの姉妹?」
「セーラ様は、野盗引き連れて王都に攻め込んだら、反逆行為になる。補給なんかだせるかと、言って。現在大喧嘩中です」
「妹何も考えて無いな。と言うか、セーラこの街の騎士とか兵士使えるの?」
「この街の守備隊長は王都最後の砦ゆえ、実績実力のある老将が引退前につく名誉職でして」
「ほうほう」
「老将はセーラ様の大ファンです」
「え?なんだそれ?」
「セーラ様に手玉に取られてまして、儂に息子か男の孫がいれば〜って、いっそ儂の嫁に来いと言って、老将が長年連れ添った嫁に刺されてました」
「この国には馬鹿しかいないのか?」
「まぁそうですね。基本的には国は傾いてますよ。なので第3王子の嫁に大国の豚皇女がやってきて、乗っ取られそうになってるわけで」
ああ、それで第三王子の政略結婚。
「だから我等マ、ソウル教団が世界制覇に乗り出す、第一歩とするのじゃ」
ここにも馬鹿がいた。
「やらないよ」
俺が思ったよりも、この国は駄目な状況だった。




