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やっぱりトリップしないとだめですか?  作者: 物想空之
ミズウミトミサキ
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第41話 天地争乱 -悪魔の章-

「つまり、倭の都の夏の島は、この世界と密接に関わっていて、しかも比較的楽にその時空を越えられる場所だったのね」

「そうです。特に毎夜開催される夏祭りでは、その境界線があいまいな場所では何人ものこの世界の人が倭の都に迷い込んでしまいます。私はそのあいまいな場所を歩き回り、境界線をまたいだだけ」


エマは(サイ)からどうやって来たのか聞きながら歩いていた。


浜辺でシキと交信した後、露実の家まで行ってみたが、そこには露実という少年はいないと言われた。

謎は残ったが、ロキはハザマの世界で事情聴取を受けている。

彼から真実を聞ければいいだろうと思い、エマは先に進むことにしたのだった。


「簡単に言うのね、夏の島までは春市場からどのくらいの距離だったの?」

「二日ほどですね。あの屋敷で、上で話声が聞こえたのでこっそり聞いていると、少年と葵さんが話し込んでいて。何やら急いで二人はトイレに。私が下に降りると、先生が『行こうか』と」

「?どこに?」

「私もそう聞いたんですが、とにかく旅支度をして、自分を秋社に届けてくれと。そのあとはあなたが向こうの世界へ行ったから君も君の方法でそこへ向かった方が良いと」

「まるですべてこうなることがわかってたみたいね」

「私もそう思いました」

「それであなたは二日かけて夏の島へ?」

「はい、二日目の夜に丁度到着したのでそのまま夏祭りの行われる場所へ」

「待って、つまり先生は二日間、秋社に居たの?」

「…おそらくそうなりますね、葵さんが必ずここにくるから待つと言ってました」

「そうだったの…」


まだあの二人の切ない顔が目に浮かぶ。

もうすぎたことだと自分に言い聞かせ、話題を変えることにした。


「ところで、ここからあなたの世界へは、どう行くの?同じように時空を楽に越えられる場所があるの?」

「そうですね…和の都に行くよりは少し面倒です」

「面倒?」

「はい……ほどんどの人は、この世界を起点に、我々の世界や他の異世界を考えますよね」

「そうね」

「つまりこの世界に居る人、というのが最も多いわけです。そして、異世界と言うものもこの世界から見た数だけあるので多い」

「…まぁそうね」

「我々の世界からこの国へはある意味、一方通行ですが、この世界からは多方向に向かう道からひとつを選ばなければならないんです。偶然、不意にトリップしてしまう以外には」

「…目的地が定まっているから難しいってこと?」

「そうです、正確に言うと、目的の国と、目的の時間」

「そっか、時間の経過速度も違うから…」

「はい。特にゲームの世界ではプレイヤーが沢山いますから、だれがいつプレイしている時空の世界なのか選ばないと」

「すこしどころじゃないじゃない、面倒度合いが」


罪はぽりぽりと頬をかきながら、まぁそうですね、と苦笑した。


「ちょっと疑問に思ったんだけど、プレイヤーの数だけ世界が並行して存在してるの?それってかなり複雑な時空軸じゃない?」

「うーん…」

「?」

「時空自体は一つです、プレイヤーが複数アクセスしてきたとしても、世界自体はそう変わりません。一人のプレイヤーが我々の世界で冒険を終える時間は、こっちの時間にすればほんの一瞬で、その一瞬が終われば世界はリセットされ次のプレイヤーがプレイし始めます」

「そうなんだ。それじゃあ、あなたの世界に現れたっていう勇者はどうしてプレイを終えないの?」

「なぜでしょう、それが分からないんです。ゲームは全体が一つの『天地争乱』というストーリーになっていて、我々がいるのはその中の『悪魔の章』という章なんですが、勇者はその章からいなくならないんです。とにかく悪魔を倒しまくっていて、リセットされないせいで悪魔の数が減っていって…」

「そこに男が現れたのね?」

「はい」

「そしてあなたが派遣されたと」

「そうです」


話し終えたとき、信号の前に二人は並んだ。

人通りの少ない街だ。

人が少ないので浮いた格好をしている二人をじろじろ見る者も少ない。


「どこに向かってるの?」

「この町にある小さなゲームセンターです」

「ゲームセンター?」

「はい、そこの主人は特殊で、トリップに詳しいんです」

「詳しいって…」

「おそらく昔トリップしたことがあるか、あるいはトリップしてこの世界に来たか、どちらかではないかと私は思っています」

「…それは会うのが楽しみね」



着いたのは、本当に古びたゲームセンターだった。

看板には「ーたんせむーげ」と書いてある。

たてつけの悪い引き戸を引き、一人が入れるくらいの隙間を空けた。


「いらっしゃい」


小太りの、年齢の分からない男が新聞を読みながらそういった。

カウンターの前に行くと、男が顔を上げる。

丸眼鏡をクイッとあげると罪を見て、それからエマを見た。


「フィギアみたいな姉ちゃんだな」

「?」

「いやいや、なんでもない」


エマに向かって一言いうが、すぐに男は自分でかぶりをふった。

罪が口を開く。


「天地争乱、悪魔の章」

「?…へぇ、兄さん悪魔かいな」

「あぁ」

「え!?」


平然と答える罪にエマは驚いた。

店主は、姉ちゃん知らんで一緒におったんかい、と言って笑った。


「言っていなくてすみません」

「あ、ええ、別に…大丈夫です…けども…」

「はっはっは」

「家に帰りたいんだ、方法を教えてくれ」

「はいはい、ちょっと待ってくれ。最近はゲームも多いからな、見つけるのが難しいんだ」


店主は、よっこいしょと良いながら立ち上がると店の奥に向かって歩き出す。

エマは罪と一緒に後に続いた。

途中で炭酸をとるために冷蔵庫にも寄った。

ついでだからと、飲み物をもらった。


奥の畳の部屋には所狭しと電子機器が並べられていた。

同じかそれ以上の数、壁一面に二次元の女の子のポスターが貼られている。

パソコンも、タブレットも、大きなディスプレイも、すべて電源が入っていて何かを表示していた。

奥の大きな倉庫は空調設備が完備してあり、ハブがはいっていると言う。

表のボロさからは想像できないハイスペックさだ。


エマは男を観察した。

普通の人と変わらない。

しかし彼のかけている眼鏡は、なんだか普通のものとは違うオーラを放っていた。

 あの眼鏡で、罪が悪魔だとわかったのだろうか?

 それじゃあ、この神の眼にはどうして悪魔は普通の人と変わらないようにうつっていたのだろう?


「あぁ、運が良いね、今日の午前二時にこの近くでトリップできそうだ」

「どうしてわかるんですか?」

「それはほら、企業秘密だよ」


大きなディスプレイを見ていた男にエマは問う。

眼鏡をあげながら楽しそうに彼は言った。

暑い暑いと首から下げていたタオルで汗を拭く。


「あとはとぶ地点をどうやって特定するかだね」

「できますか?」

「これ、そろえてきて」


男は罪になにやら汗で少し湿ったメモを渡した。

エマは罪と一緒にそのメモに目を通した。

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