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「ただの友達だから」と言って婚約者とイチャつく騎士系令嬢を物理で返り討ちにします  作者: ふくふくまる
第2章

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第32話 決闘① 第三者視点


 


 クロード・セルヴァンの両親は幼い頃、闇の魔術師の戯れによって殺された。


 敬虔な聖教会信徒達によるミサで、聖杯によるワインを飲む儀式の時に、大人達は全員血を吐きながら息絶えたのだ。

 後で聞いた話によると、神父の姿に変化した闇の魔術師が禁薬の効果を試すためにワインに入れて、人体実験したという。


 そしてその犯人は一度捕縛されたものの、山道で逃げ切り行方をくらませた。


 ワインと血に沈む息絶えた両親の骸。

 教会の大人達は死に、子供達は泣き叫び、神父に変化した闇の魔術師が狂ったように笑う。


 そんな地獄を目の当たりにしたあの日から、クロードは闇の魔術師を一掃するべく魔術の研鑽をしてきた。


 ──そして今日、この王立学園で禁薬を生成し、闇の魔術師の所業に加担する悪女に裁きを下す。

 

 円形闘技場の客席には、インターンから帰って来た生徒達や前回行われた決闘の噂を聞き、学園のOBまで訪れていた。


(祭りじゃないんだぞ……)

 

 闘技場のフィールドでオルガを待ちながら、クロードが内心吐き捨てる。


 するとようやく、フィールドに一人の女子生徒がやって来るのが見えた。


 肩に付くまでの色素の薄い金髪に深い碧眼。

 少し小突けば倒れ伏してしまいそうな、楚々とした雰囲気の令嬢が黒い礼服を纏って現れた。


「……誰だ、貴様は。オルガ・ノースモントはどうした」

「此度の決闘、代理としてこのクラリス・フェルゼンがお相手いたします」

「何?」

 

 しかしそこでふと思い出す。

 確かこの令嬢は、野外演習にてオルガと同じチームだった者ではないだろうか。

 そしてクロードは眉を顰めながら審判役の教師に詰め寄った。

 

「おい、こんなことが認められるのか」

「つい先程オルガ・ノースモント嬢より決闘代理の申請が行われました。決闘代行者の選出は規則により認められています。したがって、クラリス・フェルゼン嬢のオルガ・ノースモント嬢に代わる出場を学園は正式に承認します」

 

 そんな教師の言葉にクロードは苛立つ。

 けれど彼はハッとあることに気が付いた。

 

 クラリス・フェルゼン。

 インターンによりその場にいなかったが、前回の決闘にて見事騎士科の特待生であるミーシャ・ホワイトを討ち倒した令嬢。

 

 そして、あの『白薔薇の騎士』の娘。

 

 見れば、クラリスの腰には真っ白な剣が差さっていた。

 

「そうか……。オルガ・ノースモント、決闘に勝つため白薔薇の騎士の娘を味方につけるとは……なんと姑息な」

 

 そしてクロードはクラリスを睨み付ける。

 

「闇の魔術師に加担するなど亡くなった騎士たる母親が嘆き悲しむぞ」


 それにクラリスは何も返さず、ただ静かに佇むだけであった。

 表情は一切抜け落ちており、空洞のような瞳でクロードを見据える。


 そんな彼女にクロードは肩をすくめ、杖を構えた。

 

「……良いだろう。悪女オルガ・ノースモントに加担するお前も同じだ。俺が直接裁きを下してやろう」

 

 そしてクラリスも鞘から剣を抜く。


(馬鹿な女だ。たとえ白薔薇の騎士の娘だろうと俺に勝てるわけがない)


 なんせクラリスはまだ一年。インターンも難なくこなした三年のクロードに到底太刀打ちできるわけがない。


 何よりクロードは魔法騎士相手に負けたことがなかった。

 クロードの持つ固有魔法は、騎士の攻撃を一切通さない。


 それ故、彼はこう呼ばれた。


 ──『騎士殺し』のクロードと。


 開始のラッパの音が円形闘技場に鳴り響く。

 

「始めッ!」


 そしてクロードは凄まじい速さで魔法を展開した。


 

 ◇◇◇



 『固有魔法』とは、遺伝と才能と技術の研鑽によって特定の個人でしか扱えないオリジナルの魔法のことを指す。


 円形闘技場の客席にて。

 エリザベートやセシリア、ヴィヴィアンと共にオルガはフィールドを見つめる。

 

 クロードが魔力を解き放った瞬間、彼の足元に落ちた影が大蛇のように蠢き始めた。

 そして黒い影の内部から無数の刃が突き出す。

 剣山のごとく鋭く伸びた刃が地面を抉りながら、四方八方からクラリスへと襲い掛かった。

 

 《影の具現化》。

 クロード・セルヴァンの固有魔法であり、自身の影から無機物を生成する力。

 影の伸縮は半径50mまで可能とし、そこから無数の剣や鎌等を影から突き出してくるのだ。

 

 蠢く大蛇のような影から黒く鋭い刃がいくつも具現化され、クラリスに襲い掛かる。

 それを自身に《身体強化(ブースト)》をかけたクラリスは避け、時に剣でいなすものの、それは一方的な蹂躙のように見えた。


(…………クラリス)

 

 闘技場のフィールドで戦うクラリスを、オルガは客席から固唾を呑んで見守る。


 クロードとクラリスの相性が、傍目から見て悪いのは一目瞭然だった。


 伸縮する地面の影から無数の刃を生み出すクロードの魔法。

 その物量によってクラリスは近寄ることはできず、精々剣でいなすことしかできないだろう。

 

(私の、せいで……)


 客席の生徒がオルガに気付き「あれが悪女の……」と騒めく。


 クラリスが苦しんでいる。

 自分のせいで決闘に出て、傷付いている。


(全部私がやろうとしたことなのに、結局諦めて、全てクラリスに背負わせて……)

 

 オルガの身体から、ずるずると力が抜けていく。


(私は、最低だ)

 

 今はもう自分が学園から追放されることよりも、クラリスが傷付く方がはるかに怖い。

 やっぱりクラリスに決闘の代理なんて頼むんじゃなかったと後悔した。

 

 そしてオルガが顔を俯かせようとした、その時。

 隣に座るエリザベートが静かに告げる。

 

「……──オルガ、顔を上げなさい。自分のために戦ってくれる騎士の姿を、最後まで見届けなさい」


 エリザベートの言葉にハッと顔を上げる。

 そんなオルガに彼女は優しく口を開いた。

 

「どうせクラリスに決闘の代理を頼んでしまったことに自責しているんでしょ? 私も同じだったから、気持ちはよく分かるわ」

「エリザベート様……」

「でもクラリスは、きっと貴女にそう思ってほしくないはずよ。…………これ以上貴女に傷付いてほしくないから、この決闘を引き受けたに過ぎないわ」


 そう言ってくれるエリザベートに、オルガは顔を上げたまま立ち尽くす。


 しかし次の瞬間、クロードの影から放たれた刃がクラリスの右腕を掠めた。

 その隙を狙い、影から生み出された黒い鞭が彼女の頭部目掛けて唸りを上げながら振り下ろされる。

 

「クラリス……ッ!」

 

 パンッと弾くような音と共に、クラリスの額からどろりと真っ赤な血が流れる。


 その光景にオルガは言葉を失った。

 そしてクラリスに向かって、クロードは吐き捨てる。

 

「…………これで分かっただろう。俺とお前じゃ格(・)が違い過ぎる。純粋な戦闘力だって俺の方が優れており、お前が勝つことは絶対にないだろう。早く降参しろ」


 しかしクラリスは額から流れる血をぐっと乱暴に拭い、再び剣を構えた。

 そんな彼女の様子にクロードが声を上げる。

 

「何故、オルガ・ノースモントのためにそこまでする!? 神聖な決闘を他人に託すような覚悟のない奴に、そこまでの価値があると思うのか!?」


 その通りだ。

 クロードの言う言葉は至極当然で、オルガの心を真っ直ぐ突き刺す。


 そうだ。私は駄目な奴で、中途半端で、優しくしてくれた人を盾にするような最低な人間。

 自分の運命を他人に委ねるような──覚悟の無い人間だ。


 けれどその時、クラリスが静かに口を開いた。


「……──訂正してください」

「何?」


 額から血を流し、ぼろぼろになった彼女が小さく咳き込む。

 

 そしてクラリスはクロードを真っ直ぐ見据え、はっきりと言い放った。

 

 

「────今の言葉を、訂正しろと言ったのよ」




 


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