第1話 どう考えても良いわけねえだろ
男友達系令嬢の話を自分でも書いてみたく…
広い心で読んでいただけると幸いです。
「ねえ、クラリス! 今日の放課後、エドガーと街に出掛けるんだけど問題ないわよね? 安心して! エドガーと私はただの友達なんだから!」
目の前に佇む婚約者の青年エドガーと、彼と同じ騎士科に所属する令嬢ミーシャが仲睦まじく並んでいる。
逞しい体躯をしたエドガーと、艶やかな亜麻色の髪を持つ──夏の日差しを思わせるような健康的な雰囲気の令嬢ミーシャはとてもお似合いで。
傍目から見れば『男女を問わず好感を持たれそうな、誰からも好かれる理想的なカップル』のようにも見えた。
そんな彼らを前に、私ことクラリス・フェルゼンは「またか」と思う。
私達の在籍する王立学園では『騎士科』『特進科』『魔術科』と3つに別れており、クラスは違うものの同じ授業を選択することで教室が一緒になったりする。
そのため特進科に所属する私と騎士科に所属するエドガーが、同じ授業を受けることもあった。
そんな彼と会える数少ない時間が嬉しくて、よくエドガーの隣に座って授業を受けていたのだが………最近になって、騎士科の令嬢であるミーシャが行動を共にするようになったのだ。
可愛らしい容姿に鼻をかけることもなく、男の子達に交じって剣を振るう騎士科唯一の乙女。
天真爛漫で男勝りな性格をした彼女にエドガーも気を許したのか。
いつの間にか二人で街に出掛けたりする程仲が良くなり、ふざけて肩を組んだり、果てはスキンシップと称して抱き合っている姿を見かけることもあった。
「…………ええと、その、ミーシャ? 恋人同士でもない男女が二人きりで出掛けるのは良くないわ。エドガーの婚約者である私としては遠慮してほしいのだけど…………」
おろおろとしながらも、やんわりと注意してみせる。
けれどそれにエドガーとミーシャはおかしそうに噴き出した。
「やだ、クラリスったら可愛い! 街に二人で出掛けるだけでどうこうなるわけないじゃない!」
「そうだよ。俺だってこんな男みたいな奴、そんな目で見れないし」
「ちょっと! この間私が髪を結ってきた時、顔を赤くしてたじゃない!」
「な、そんなこと言うなって………!」
仲睦まじくじゃれ合う二人を前に、何だか一人だけぽつんと取り残されたような気持ちになる。
婚約者であるエドガーの、こんな楽しそうな顔は今まで見たことがなかった。
そしてそんな彼の笑顔を引き出すのは、自分なんかよりもはるかに可愛いミーシャ。その事実に劣等感に蝕まれる。
するとミーシャはくすくすと笑いだした。
「でもクラリスったら本当に初心なのね。私もクラリスみたいに繊細で可愛い女の子だったら良かったんだけどなあ」
「そんなことは………」
「こんな感じだから男の子と一緒にいる方が楽なのよね。それが気に食わないみたいで一部の女の子達からやっかまれちゃうけど、みんな本当にねちねちしていて嫌になっちゃう」
「……………」
「そういうところが男の子達に面白がられちゃうんだけど、それはそれで失礼よね? あーあ、私もクラリスみたいな性格だったら女の子達ともうまくやっていけたんだけどなあ」
表向きは私のことを褒めてくれるけれど、何故かそれを手放しで喜ぶことはできない。
いつもこうなのだ。
ミーシャと関わると、彼女の言動に何故か胸がざわついてしまう。
何だろう。
褒められているけど、けなされているような気がする。
何だったっけ。これって何て言うんだっけ………。
しかしその時、私は天啓を受けたかのようにハッと思い出した。
(────これって所謂『マウント』ってやつじゃない………?)
そして同時に、芋づる式にあることを気付く。
あれ、もしかしてこの世界って『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』の世界なのでは………?
生前やっていた乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』
主人公のミーシャ・ホワイトは騎士を目指す女の子。女の子はドレスを着て甘いお菓子を食べていろだなんて真っ平御免!
女性唯一の騎士となった『白薔薇の騎士』に憧れて、ミーシャは今日も突き進んでいく!
────といった話だ。
そして私はというと、ミーシャ唯一の女友達兼サポートキャラクターである。
しかし中盤ミーシャと婚約者エドガーの仲に嫉妬したクラリスは、ミーシャを亡き者にするため毒を盛ろうとする。
もちろんその企みは潰され、クラリスは学園を追放及び投獄されるわけだが…………
(え、私って物語中盤で闇落ちして破滅するクラリスなの………!?)
元々あったクラリスの人格が前世の記憶のある私の人格と移り変わるといったことはなく、混乱しながらもゆっくりと二つの精神が融合していくようだった。
むしろこの世界に生まれてからずっと「何か大事なことを忘れているような……?」と思っていたのだが、それがようやく分かって内心すっきりする。
しかしそこでハッとした。
「そもそも私ってミーシャの友達だったの?」と。
前世でゲームをしていた時は「良い子だなあ」くらいしか思っていなかったが、いざクラリスの立場になってみると、いかに自分がミーシャから搾取されていたのかが分かる。
座学の授業が被った際には課題を見せてと言われ、丸写しされる。
教師から頼まれた仕事を「騎士科のみんなと授業後特訓しなくちゃいけないから………」と押し付けられ、後日何故かミーシャがやったことにされる。
サポートキャラだからと言われたらお終いだが、クラリスが個人的に統計したテスト範囲を当たり前のように教わろうとする。
おそらくミーシャに悪気はないのだろう。
けれどその上で人の婚約者と仲睦まじくしているのだ。
そりゃ闇落ちして当然だろう。
するとぼうと立ち尽くす私に不思議に思ったのか、ミーシャは首を傾げた。
「どうしたの? 急に固まっちゃったりして。それよりエドガーと街に出掛けても良いわよね?」
私はミーシャを一瞥する。
この子は今まで何の悪気もなく私を見下し、舐め腐ってきたのだろう。
そしてその横できょとんとしている、何も考えていなさそうな婚約者のエドガーにも沸々と怒りが湧く。
そんな彼らに私はつい言い放ってしまった。
「どう考えても良いわけねえだろ」
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