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恋愛については未履修です ~転生先では恋愛心理学の教授になっていました~  作者: パト山


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12.共感という手段

――“人の心を使いたい側”。

 その直感に、背筋が僅かに冷えた。

 だが授業中だ。

 私は表情を変えないよう努めながら、教壇へ戻る。

「では次の実践へ行きます」

 パン、と手を叩く。

「今から二人一組で、“相手を安心させる会話”をしてください」

「具体的には?」

 

 一人の男子学生が聞く。

「相手が話した内容を、“否定せず整理して返す”」

 黒板へ書く。

『安心感の基本』

・否定しない

・急に解決しようとしない

・感情を整理して返す

「例えば――」

 私は近くの学生へ声をかける。

「最近困ったことありますか?」

「え、あー……剣術の成績悪くて……」

「なるほど。“頑張ってるのに結果が出ない感じ”ですか?」

「……あ、そうです」

「これだけで、人は“ちゃんと伝わった”と感じやすい」

 学生たちが感心したように頷く。

「逆に悪い例」

 私は真顔で言う。

「努力不足じゃないですか?」

「うわぁ……」

「言われたくねぇ……」

「正しい可能性はあります。でも人は、防御状態だと正論を攻撃として受け取りやすい」

 すると後方から声。

「つまり、“気持ちよくさせればいい”ということですか?」

 ユリウスだった。

 教室の空気が少し張る。

「違います」

 私は即答した。

「安心と依存は別です」

「……ほう?」

「相手を安心させる技術は、“支配”にも転用できる」

 自分で言っていて少し苦くなる。

 カウンセリング技法も。

 共感も。

 承認も。

 使い方を間違えれば、人を縛れる。

「だから重要なのは、“相手の自由を奪わないこと”です」

 ユリウスは黙って聞いている。

 笑顔のまま。

「例えば、“君のためを思って”と言いながら相手をコントロールする人がいる」

 学生たちの表情が少し真面目になった。

「不安を煽って依存させる人もいる。“自分がいないと駄目だ”って」

「……」

「でもそれは、“理解”じゃない」

 私は教室を見渡した。

「人を理解するって、本来は“相手を自分の思い通りにする”ことじゃない」

 静かな空気。

 その時。

「先生」

 今度は前列の女子学生が手を挙げる。

「じゃあ、“優しくしすぎる人”ってどうなんですか?」

「優しくしすぎる?」

「嫌われたくなくて、何でも合わせちゃう人です」

「あー……」

 教室の何人かが目を逸らした。

 心当たりがある顔だ。

「それは一見優しいですが、実は“嫌われる恐怖”が中心になってる場合があります」

「っ」

「なので長期的には疲れやすい」

 私は少し考えてから続ける。

「本当に安心できる関係って、“断れる”んです」

「断れる……?」

「嫌な時に嫌と言える。無理しない。それでも関係が壊れない」

 するとルミナが後ろから口を挟んだ。

「うわ、それ難しそう」

「難しいです」

 私は苦笑する。

「だから皆苦労する」

 教室に少し笑いが起きた。

 空気が和らぐ。

「では実践開始。五分間、“相手が安心して話せる空気”を意識してください」

 学生たちが一斉に話し始める。

「えっと……」

「き、緊張するな……」

「最近ハマってる食べ物とかある?」

 ぎこちない。

 だが悪くない。

 私は教室を歩きながら様子を見る。

「今の良い返しです」

「質問攻めにしすぎない」

「ちゃんと相槌を打つ」

 すると。

「…………」

 ユリウスだけが、異様に上手かった。

「それは辛かったでしょう」

「貴方は頑張っていたんですね」

「分かりますよ」

 柔らかい声。

 穏やかな笑み。

 相手の女子学生は完全に安心した顔になっている。

 だが。

 違和感があった。

 完璧すぎる。

 “共感している演技”として。

 私はゆっくり彼の近くへ行く。

「上手ですね、ユリウスくん」

「ありがとうございます」

「普段から意識してるんですか?」

「ええ。人は、“理解してくれる人”へ弱いので」

 その言葉。

 妙に引っかかった。

「……弱い?」

「安心すると判断力が鈍る」

 にこやかに。

 当然みたいに彼は言う。

「だから信頼を得るのは簡単です」

 ゾッとした。

 これは。

 知識として理解しているだけじゃない。

 “利用方法”として身についている。

「先生?」

 ユリウスが微笑む。

「どうしました?」

「……いえ」

 私は静かに答えた。

「少し、“上手すぎる”と思っただけです」

 一瞬。

 彼の笑みが止まる。

 本当に一瞬だけ。

 まるで。

 “見抜かれた”みたいに。

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