第2話 不審な男達
――惑星カイロス・オーブ――
荒廃した惑星カイロスには、転々と人々が住まう街がある。この街『オーブ』もその一つであり、カイロスの中でも最も大きな街だ。星外からの船を多く発着し、交易も盛んで街の防衛も十分な程に堅牢。多少の損害はあったものの、度重なる原生生物や機甲種、無人GMからの襲撃を守り切っている。……そんな今、とある集団がこのオーブを中心に活動をしていた。
「すまないが、このリストにあるGMとパーツを全て買い取りたい。」
全身を覆う大きなローブを着た男が、店の店主にデバイスに表示されたリストを見せた。店主は椅子から立ち上がり、そのリストを覗き込む様に見た。
「ほぉ〜……。随分な量だな。新参者の様だが、こんなに買って何をするつもりだ?GMレースにでも参戦するのか?」
店主は興味深そうに男の顔を見た。男は表情を崩さずに返事をした。
「必要だから買うだけだ。」
男はデバイスをいじり、クレジットの額を提示した。店主はそれを覗き込む様に見ると、その額に店主は直ぐに怪訝な表情へと変わった。
「……随分と金払いが良いな。アンタ、何処から来たんだ?」
「アスティルスだ。」
「……アンタ、連邦の人間か。」
店主は険悪な雰囲気へと変わり、ドスっと椅子に座り直した。
「最近、此処らでGMを買い漁る怪しい連中が居ると聞いていたが、まさか連邦の人間だったとはな。」
「あぁ、そうだ。」
男は否定せずに返事をすると、店主はテーブルに頰杖を突いて話す。
「何処かの企業からか?それとも物好きな富豪の部下か?」
「不要な詮索は無しだ。」
男は目的を答えず、淡々と店主に再度尋ねた。
「それで、売ってくれるのか?」
店主はデバイスに提示したクレジットの額を見て答えた。
「……クレジットが足りんな。」
店主はそう言って指を立てた。男はジッとその指を見てデバイスを操作し、更に高額なクレジットを提示した。店主はクレジットの額を見て、ニンマリと笑う。男はその様子を見て釘を刺した。
「一言言うが、これ以上の額は無理だ。……それでも強請る様なら、この取引は無しにする。」
男の真剣な眼差しに、店主は両手を挙げた。
「分かった分かった。コッチも売れなきゃ意味がない。」
「品物はシャトルの方へ送ってくれ。ターミナルは八番だ。そこに俺の仲間が居るから、物を全て確認出来次第送金する。」
男はそう言ってリストを店主へ送り、店から出ていった。店主はその後ろ姿を見送り、
「ホント、今度は何を企んでいやがる?……まあいい。高く売れりゃぁコッチのもんだ。」
そう言いながら、店主はリストの物を用意し始めた。
店を出ると、肌を焼きそうな青天の日差しが振り注ぐ。男はオーブの街を歩きながら、仲間との集合場所の酒場へと向かった。そして歩きながら、オーブの様子を見回していた。
(此処まで活気がある場所だったとはな……。既に廃星一歩手前だと言うのに……。)
そう思いながら、男は星間戦争の事を思い返していた。
アスティルス連邦国とウィンディム帝国が巻き起こした星間戦争。その戦火は十数年も続き、更に両国の星系では収まらず辺境星系にまで広がった。五年程昔に、両国で停戦協定が結ばれ、長かった戦争は終戦を迎えた。終戦後の連邦は多大な被害があったものの、既に復興は遂げている。内情は不明だが、恐らく帝国もそうだろう。
……しかし、今だにこの辺境星系には戦争の爪痕が残っている。殆どの星は生物が住めない廃星と化し、戦争の負の遺物が人々を襲い、滅びゆく星から逃げられる術もない。そんな絶望しかない筈なのに、この街……いや。まだ生きている星々は活気に満ち溢れていた。
(何がこの星々に活気を与えたのだろうか?)
男は不思議に思いながら、デバイスを取り出して一枚の写真を見詰めた。そこには若い頃の整備士の服を着た男の姿と、幾人ものパイロット達の姿。そしてその背後には、パイロット達のGMらが並んでいた。男は懐しむ様に微笑むと、集合場所へと向かった。
男は集合場所の酒場へと着くと、手動ドアを開けて中へ入った。そして、辺りを見渡して仲間を探す。すると、
「『ハイネス』センパーイッ!此処っす!!」
酒場のカウンターに、同じくローブを着た好青年が手を振った。ハイネスは彼の元へと歩いていった。彼は既に酒を飲み始めていた。
「『ケイン』、そっちの進捗はどうだ?」
「とりま、リストの大体は回収出来そうっす。多少ごねられましたが、金でどうにか出来ました。後の残りは……、行方知らずって感じっすね。そっちの行方なんて大方予想はつきますけど。」
ケインは窓から外を眺めた。ハイネスもそれに続き、遠い空を見詰めた。
「街の外か……。回収出来るかも分からないとなれば、流石にそこまでのリスクは冒せないな。」
バーテンダーが二人に近付く。ハイネスは水を注文し、ケインは酒をまた注文した。
「他のメンバーも回収は済んでいるみたいですし、一旦撤退って感じっすか?」
「……いや。後一機、確認したい機体がある。」
ハイネスはリストをスクロールし、最後の一機の名前を出した。
そこには型式番号と共に、アストラの名前が書かれ、アストラの姿を鮮明に映す一枚の写真が出ていた。ケインはハイネスのデバイスを見詰め、
「そのGMっすか?何処にあるのか検討があるんすか?」
「あぁ。……ケイン、此処で行われているレースについて知っているか?」
ハイネスはケインに尋ねた。すると、
「あ、実は今やっている様で、俺も賭けている所っすよ。」
ケインは思い出したかの様に言い、酒場の大型テレビへ視線を向けた。ハイネスもテレビの方を向くと、丁度GMレースの終盤に詰め掛かっていた。
「GMレースでしたっけ?中々に面白いっすよ。」
ケインは笑って言った。ハイネスはテレビを見ながら、周囲の人々の様子を見た。彼らもまたテレビに注目し、レースの行方を見守っていた。ハイネスは興味深そうに再びテレビの方へ向いた。……その時、
《バコンッ!!!》
テレビから大きな音が響き渡り、レース中のGMが一機大破した。それと同時に、周囲の人々が声を上げた。ハイネスはその声に身体を震わせて驚いた。
「シャァ!!DEAD・Bet頂いたッ!!」
「あぁ!!クッソマジか……。ALIVEの方に賭けちまった……。」
酒場は歓声と落胆の声で包まれる。更には、テレビからの実況が大盛りあがりに声を出していた。ハイネスはこの光景に信じられない様な表情で見詰め、バーテンダーが持ってきた水を手にし、そして、
「話には聞いていたが、まさか此処までの最悪なモノとはな……。」
そう口にして水を飲んだ。ケインはそれでも夢中にテレビを見ており、ハイネスは呆れ返っていた。すると、
「都会の人間には刺激が強過ぎたか?」
バーテンダーが鼻で笑いながらハイネスに声を掛けた。ハイネスは冷静に返した。
「人の生死までも賭けるなんて、俺には到底理解が出来ないな。」
「そうだろうなぁ。……アンタ等には理解が出来ないだろう。理解して貰いたいとも思わんが。」
バーテンダーがそう言い、周囲の人々が二人に視線が集中していた。ケインもそれに気付き、周囲へ警戒心を高めた。ハイネスはケインにハンドサインを出して落ち着かせ、バーテンダーにアストラの写真を見せた。
「……このGMのパイロットを探している。機体名はアストラ。このレースに何度か参加していた筈だ。」
バーテンダーはジッと写真を見詰め、思い出したかの様に答えた。
「あぁ、バットガールのGMか。今回のレースは不参加みたいだったが……。」
バーテンダーはテレビの方へ視線を向けた。
「この機体がこの街に来ていた事は掴んでいる。パイロットが街の何処に住んでいるのか知りたい。」
ハイネスは即座に質問した。しかし、バーテンダーは首を横に振った。
「あんたらに教える義理はないな。なにせ、アイツは俺達にとって一攫千金の価値があるからな。そうだよなあ!?」
バーテンダーが大声で周囲に聞くと、周囲は笑いながら声を上げた。ハイネスはその反応に不思議に思った。
「どういう意味だ?」
そう尋ねるが、バーテンダーはニヤニヤと笑っていた。
するとその時、ケインがデバイスをいじりながら横から口を出した。
「確かその名前……。あ、やっぱりそうだ。レースで高額の倍率を掛けられてますね。」
ケインはそう言い、デバイスをハイネスに見せた。ハイネスはそれを見ると、確かにそこには高い倍率が掛けられていた。しかしそれはDEAD・Bet……。つまり、パイロットの死亡による倍率だ。
「……一攫千金が人の死とはな。まるで賞金稼ぎの様だ。」
ハイネスは哀れそうに言った。しかし、バーテンダーは怯まない。
「そうさ。アイツがレースで死んでくれれば、俺達は遊んで暮らせる程に一気に稼げる。……アンタ達、さっきからGMの回収だとかなんとか言っていただろ?つまり――」
「余計な事をするな……と。」
バーテンダーは何度も頷いた。ハイネスはケインのデバイスをいじり、バットガールの戦績をザッと調べて言った。
「一攫千金の夢を持つのは構わないが、このパイロットは随分とレースに参加している様だな。……この様子を見るに、いつ死ぬのかも分からんな。」
ハイネスは笑って言った。バーテンダー達は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。ハイネスはそれを見て、彼らが賭けに負け続けている様子なのは直ぐに分かった。ハイネスは立ち上がり、
「その夢を待ち続けるのは構わないが、こういうパイロットは不思議と長生きする。何故だか知らないが。」
そう言って、クレジットを多めに支払った。
「失礼な事を言ったお詫びだ。此処の全員に一杯奢ろう。行くぞケイン。」
「ウイっす。」
ケインは頷き、酒を一気に飲んで立ち上がった。二人が酒場を出ようとしたその時、
「バットガールは、キャラバン隊のジャンク屋メンバーだ。今はオーブの外の北側で営んでいる。此処からはそう遠くはない。」
バーテンダーがそう言った。ハイネスは一瞬後ろを振り返り、手を上げて感謝を伝えその場を去った。
「ジャンク屋……か。可能性として、回収出来ていない機体もそこにあるかもしれんな。」
「そうっすね。しかし、街の外となると足はどうします?」
「GMで向かうと相手を萎縮させてしまう。車両を使おう。」
「了解っす。ハイネス軍曹。」
ハイネスとケインはそう話し合い、車両の手配に向かった。
二人が去った後、酒場は静けさだけが残った。すると、
「良いのか?あんな奴らに教えちまっても?GM回収されちまったら、二度と大金が稼げなくなるぞ?」
一人の客がバーテンダーに聞いた。バーテンダーは笑って言う。
「どうせ無駄さ。あの若造にライナーの事は分からん。況してや、あのバットガールだぞ?大金を積まれても、GMをアイツらに手放す訳がない。」
そう勝ち誇った風に言うと、その場の全員が笑った。
「さあ、折角貰ったんだ。全員一杯飲んで、レースの最後を見届けようか!」
酒場は再び活気を取り戻した。
………………
…………
……
「あ~ぁ……ヒマ〜……。」
セリアはボロボロのソファに寝転がり、テレビでGMレースを見ていた。前回のレースで大破したアストラの修理が間に合えば、セリアも今回のレースもに参戦予定だった。しかし残念な事に、アストラの修理は未だに終わっていない。
「相変わらずグランは速いね〜。」
レースはグランの独走状態で、二位以下の連中は互いを潰し合ってグランと差が開く一方。逆転はほぼ不可能に近い。セリアは仰向けになると、ぐで〜っと身体を伸ばした。すると、
「おや、セリア。こんな所で油を売っている所かい?」
婆ちゃが杖を突きながら部屋に入ってきた。
「しょうがないじゃ~ん。アストラが動かないんだからさ〜。」
「それ以外にもやる事があるだろう?……よっこらせっ……と。」
婆ちゃは椅子に座り、古びたノートパソコンを開いた。セリアはテレビを見ながら、婆ちゃに声を掛けて聞いた。
「婆ちゃ〜。前回のレースの稼ぎはどうだったの〜?」
婆ちゃはパソコンを打ちながら答えた。
「そうさね……。勝ち分だけを見れば、二カ月は此処の連中全員を豪勢に養えたねぇ。勝ち分だけを見れば。」
「……ソレハヨカッタナー。」
婆ちゃの穏やかながらも、強い声色を発した。セリアはその声色に全てを察し、遠目でテレビを見続けた。
「アストラの修理費と諸費用を差し引いて……。まあ、半月はいつもと変わらない生活が送れる程度の稼ぎだねぇ。」
婆ちゃは慣れた手付きでキーボードを打っていく。テレビのレースも終盤を迎え、グランが首位走り続ける、面白味のないレースになっていた。
「はぁ……。アストラが直っていたら、このレースで一位になれたかもしれないなぁ〜。」
セリアは溜め息を吐きながら言った。
「なら参戦すれば良かったじゃないか。アストラじゃあなくても、ウチには空いている『ガンダニア』もあるのだからさぁ。」
婆ちゃは笑って言った。セリアは起き上がり、
「ヤダよ。アレ、婆ちゃ並みの老いぼれGMじゃん。この前だって、動かしていた時にオイルを漏らして大変だったの覚えてるでしょ?」
セリアがそう言うと、婆ちゃはその時の事を思い出して大笑いした。セリアは婆ちゃを見ながら続けて話す。
「それに、ガンダニアにレース用の装備を付けてみなよ?スタートした瞬間にオイルを漏らすどころか、爆発するかもしれないじゃん。」
「確かにそうかもしれんねぇ。……なら、余計にガンダニアに乗って貰いたいもんだ。そうすりゃあ、DEAD•Betに思う存分賭けれるからなぁ。」
平然とした様子で言う婆ちゃに、セリアは頬を膨らませた。
「アレに乗る位なら誰かから借りるし。」
「誰にも貸しては貰えんだろう?毎度のレースでアストラを壊しているんだから。」
「あ~ぁもう!みんな冷たい!私にはやっぱりアストラしか居ないよ……。」
セリアは不貞腐れながら、再びソファーに寝転がってテレビの方を見た。GMレースはグランが一位でゴールし、他のライナーはまだゴール出来ておらず、グランの圧勝という面白味のない結果を迎えていた。
「やっぱりグランが一位か〜。……腕利きのライナーが居ないと、こんなもんだよねー。」
セリアはそう言ってテレビを消し、そのまま瞼を閉じて寝ようとした。すると、婆ちゃがセリアに声を掛けた。
「セリア、仕事がまだ残っているだろう?」
「……後は、ダニーの仕事が終わり次第だよ〜。いつ終わるか知らんけど。」
セリアは手を上げ、ブラブラと振った。
「そうかい。なら、ダニーの手伝いでもしてあげれば良いのに。」
婆ちゃは呆れながら言った。セリアはその言葉を聞かないフリをし、上げた手を力なくダランっと下ろした。そしてそのまま、セリアは夢の中へ入ろうとしていた。――その時、
《ドタドタドタドタッ!!》
「婆ちゃー!居るー!?」
そう大きな声を出し、男の子が部屋に突撃してきた。セリアは咄嗟に両耳を指で塞ぎ、薄目で突撃してきた男の子を見た。すると、
「あ、セリア姉ちゃん。此処でサボってたんだ。」
そう指を指しながら言った。セリアは直ぐに、
「違います〜。休憩しているだけです〜。」
と言って再び目を閉じた。男の子は疑いの眼差しを向け、
「本当かな〜?ダニー兄ちゃんが見たらなんて言うのかな〜?」
そう不敵な笑みを浮かべて言った。しかし、セリアはそれを無視して目を閉じ続けた。
「そんな事よりも『ヤーレン』。何かあったのかい?」
婆ちゃがヤーレンに尋ねた。ヤーレンはハッとし、要件を言いに来た。
「そうそう!なんか今、変な二人組のオッサンが来ていて、父ちゃんから婆ちゃを呼んでくれって頼まれたんだ。」
「変な二人組……?」
「何か、明らかに不審者みたいな……。外の星から来た人だと思う。」
ヤーレンがそう言うと、婆ちゃは首を傾げて何か思い当たる節があるか考え始めた。セリアは聞き耳を立てながらも、無関係だと思い目を閉じ続けた。
「まあ、兎に角行こうじゃないかい。顔を見れば思い出すかもしれんしなぁ。」
婆ちゃはそう言って立ち上がった。ヤーレンはニコッと笑って部屋から出ようとしたその時、ヤーレンはセリアに尋ねた。
「セリア姉ちゃんは来ないの〜?」
「……何で私も行かないとなのさアホ。」
セリアはヤーレンに暴言を吐くと、ヤーレンは二マーっと意地悪な笑みを浮かべ、
「だって、そのオッサン達。姉ちゃんのアストラを買い取りたいって言ってたんだもん。」
「――ッ!!?それを早く言えこのポンコツヤーレン!!」
セリアはソファーから飛び上がり、一足先に部屋から飛び出して行った。ドタバタと足音が響き渡り、ヤーレンは笑って婆ちゃは呆れていた。
「やれやれ。いつもアレ位動いてくれれば良いのにさ。……しかし、アストラを買い取りたいとはなぁ。随分な物好きな者もいるもんだ。」
婆ちゃはそう言いながら、ヤーレンと共に部屋から出て行った。




