表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第二部 四話 ぶつかりあう二人の男

「これから一宮さんのところ?」


控室の鏡を借りてメイクを直している私の所に帰り支度をした昴流さんが近づいてきて、問いかける。どう答えたらいいのか分からなくて、黙り込んでいると、


「答えなくてもわかるって。一宮さんのためのメイクでしょ? 仕事の時はそんな華やかにしてないもんね」


頭にそっと手を置きながら言った。ごく自然な仕草で肩に手を置く。琉偉がするように触れてくる昴流さんが分からなくて、


「あなたが見ているのは私じゃなくて琉偉ですよね?」


と自分でも思っていなかったことを訊いてしまった。すると、目を丸くして驚きをあらわにしたかと思うと、


「そう見えるわけか… まあ、外れてはいないんだけどさ」


私の髪にそっと唇を寄せつつ笑みを浮かべて、


「いつか勝ってやるよとは思ってるかなあ。そんなの誰だってそうだよ。一宮さんの俳優仲間だって同じじゃない? その強弱の違いっていうかさ」


私には分からないことを答えてくれた。


「何でも持ってるし、なんにでも恵まれて生きてきた。…その上、こんな可愛い子にまで恵まれちゃうの? ほしくなるじゃん。一つくらい」


唐突に獣のようなギラつく眼差しで私を見据え、続けて言う。飢えた獣のようで怖いと思う。けれど、同じくらい可哀そうな人だと思った。そう思うと志向が急速に冷めて落ち着いていく。


私は化粧道具を片付けて帰り支度を整えながら、


「そう思っている限り、私はあなたを好きになりません。だって、あなたが欲しいのは琉偉の地位であって私っていう女じゃないですから」


と自分でもびっくりするくらい冷淡な様子で言った。途端に肩を捕まれて、


「一宮さんは違うって言いたいの?」


壁に押し付けながら問いかける。どこか苛立って見えた。その様子で失敗したことを思い知らされたけど、どうしようもない。


「俺はほしいものはなんだって奪うよ。そうしないと生きられないからさ…!」


ドン!!と壁に拳を叩きつけて言った。意識して忘れるようにしていたけど、昴流さんも男なんだ。今日一日は仕事だからと割り切っていたし、昴流さんもそうだったのかもしれないけれど。


「俳優になりたくて努力してる俺からすれば、気にいらないの一言に尽きるんだよ! 見た目に恵まれたから? 周りが売れるって言ったから? それであれだけ売れるならいいだろ? 一つくらい失ってもさあ…!!」


そう言いながら頬に大きな手が触れた。途端にドアが乱暴に開かれた。ほとんど蹴破るようにして入ってきたのは私が誰より助けを求めていた人だ。



「五月!! 今、鈴木さんから二人きりのはずだと言われてさ」


私を奪い取るようにして抱き寄せながら言う。珍しく軽く息を乱しているから、本当に心配してくれたんだろう。


「琉偉…」


何も言葉にならなくて。私は琉偉を見上げ、涙をにじませてしまう。


「こんな男の為に泣くことなんかないって! さあ、詳しいことは俺の車で聞くから行こう」


目じりにキスを落として言うと、私の肩に腕を回して抱き寄せる。心から安堵して涙があふれかかったけど、メイクを崩したくないから我慢した。


「っ…!! そうやってカッコつけたつもりかよ!!」


「愛する女の前だからね。そうでなかったら君は無事で済まない所だったよ。五月に感謝するんだな。顔に傷がつかなくてさ」


イライラと怒りのままに舌打ちして怒鳴りつける昴流さんを見下ろして、琉偉は冷然と告げた。


「ダチュラの意味、知ってんだろ!? 五月の気持ちも俳優としての地位も、なにもかも!!」


「偽りの魅力… そんなの知っているよ。本物にするための努力は惜しまずしてきたつもりだ。そんなの、俳優なら当たり前の話だろ。別に自慢するほどのことじゃない。だから、言わないし、見せないだけだ」


言われてみると、私は琉偉が俳優としてストイックに努力している所を見た覚えがない。知っているのはカロリー制限しているということくらいで。


アスリートみたいに筋トレや体力づくりにボイストレーニングとか… やっているはずなのに話に出てこないし、それで疲れたと愚痴る様子も見せない。…当たり前のことを当たり前にしているから、という琉偉なりのプライドなのかもしれない。


「行こう。いつもの店を予約してあるから」


私を見下ろした琉偉は普段通りで、私もつられて頷く。


「待ってよ。まだ話は終わってない!!」


「これ以上、プライドを傷つけられることもないだろう。俺に勝ちたければ、舞台の上で待っているよ」


怒りを隠そうともしない昴流さんと違い、琉偉は笑う余裕さえ見せつける。…こういうのを人間としての格の違いって言うんだとこっそり感心してしまった。


「昴流さんの色んなものに拘るところ、私は嫌いじゃないですよ」


私はそれだけを言って琉偉に促されるまま控室を出て行った。その後は琉偉の運転で始めてデートした和食レストランに連れられた。そして、当たり前に琉偉の部屋へ帰る。元通りの夜になっていた。

お待たせしました( ^^) _旦~~

一番悩んだのは琉偉くんと昴流くんの年齢差を表す所。

25歳と30歳の違いは表現したかったので。

その違いに気づいてもらえたら幸いです。

楽しんでくだされば幸い。感想くださればもっと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ