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第二部 三話 ダチュラのネックレス

最悪の出会いとなったけれど、昴流さんは琉偉と何もかも違っていた。一から十まで自分でこなしたいタイプでマネージャーとしてやることはというと、彼の好みを把握しておくくらいだった。


「鈴木さん、衣装はこれでいいでしょ? ランチはこの和食屋さんからケータリングしてよ」


「了解しました。衣装はそれでOKです。差し入れはどうしますか?」


「面倒だけど、評判良さげな店選んでおいたから人数分注文しておいて」


一事が万事、こんな具合だ。差し入れまで自分で厳選するありさまで、私のやることはほとんどない。その分、マネージャーは良い仕事を持ってこられるように売り込みを熱心にするわけだけど…


「時間どれだけある? メイクしたし、少し仮眠したいんだけど」


「30分ほどですね。小菅さん、私は所用で抜けますのでよろしくお願いします」


「はい。30分で起こしますので」


鈴木さんが控室を出ていくと、昴流さんは手近なソファに仰向けになってしまう。私は何かされないようにと距離を置いて向かい側のスツールに座った。


「そんな警戒しないでよ。今は時間がないんだ。マジで休むだけだって」


呆れ笑いを浮かべながら言うと、昴流さんはそれっきり目を閉じて本当に眠ってしまった。琉偉もだけど、芸能人って適応力あるなあ。こんな控室のソファで仮眠できちゃうなんて…


こうして見ていると、この人も琉偉に負けず劣らず端正な顔立ちしているんだよね。舞台俳優にタレントにって売り出し中だから当たり前なんだけど。


あんな出会いでもなければ、もっと違う印象抱いていられたのかな…? お友達みたいになれたとか。


琉偉のことを嫌っているみたいだけど、どうしてなんだろう。琉偉が来るもの拒まずだったって本当なのかな? だとしたら、私はどう思えばいいんだろう。


静まり返った控室で色々と考えてしまう。来るもの拒まずというか私の方が口説き落とされた感じだから…


「あなたってさ、内にこもるタイプでしょ?」


ふと向かい側から聞こえてきて、ドキリとしてしまう。いつの間にか自分の思考にのめりこんでいたみたいだ。


「色々と損しても我慢して… 一宮さんの束縛さえ受け入れて我慢して… 我慢ばかりしてたらいつか後悔することになるよ」


何も言い返せなかった。確かに私は色々と我慢して生きてきた。女子高時代は背が高いってだけで男装させられたり、似合わなくて笑いものにされたりとひどい時代だったっけ。スクールカーストでも底辺をさまようばかり…


「俺には分かるよ。損な役回りばかり押し付けられて生きてきたんだってさ」


「反論はできませんけど…」


「どこかのぼせてる感じするんだよね。一宮さんに束縛されるのさえ心地いいって。いつか窮屈になるよ。だからさ、俺にしちゃいなよ」


テーブルをはさんで向こう側で横向きになっているままなのに、まるで今にもキスされてしまいそうな空気になっていてドキドキした。逃げようと思えば逃げられるのに、この人は初めて会った時みたいに分かりやすく迫っていないのに…


「俺は自由にはばたくあなたを見てみたいんだよね。服装さえ自由にできないんじゃなくて。もっと自由に生きていいと思うんだ」


ギシッと音がしてソファから起き上がる。途端に握りしめていたスマホのアラームが鳴り響いた。起きる時間だ。たぶん、最初から寝ていなかったんだろうけど。


「ま、一宮さんもマジ真剣な恋したことないみたいだしさ。その点では俺の方が上だってわかってよかったよ。だから、これはご褒美ね」


そう言うと、テーブルに投げ出していたカバンから小さなベルベッドの箱を取り出して、素早く中身を私の首に巻き付けた。白い花をモチーフにしたネックレスだ。


「あ、あの…! 昴流さん!! 受け取る理由がありません!」


「これ、ダチュラっていうんだってさ。これの花言葉、俺からのメッセージね。一宮さんに伝えてよ」


言うだけ言うと、私のこめかみに触れるか否かのキスをして控室から出て行った。


ダチュラの花言葉は偽りの魅力… なんて皮肉なことを言うんだろう。私達の関係が偽りかもしれないとか、琉偉の魅力が偽りかもしれないとか… そんなことを言いたいんだよね。


恐ろしいと思った。出会った時よりずっとずっと生々しくリアルに恐ろしく感じた。私を奪うことに貪欲で、その為ならどれだけ策を弄することもためらわない。


「…琉偉…!」


助けてほしくて。傍に戻りたくて小さく呟いた。けれど、琉偉は舞台稽古の最中だ。解放されるのは夜。どうにもならない。


私が揺らがなければいいだけだと戒めて。私は平常心を保つことだけに集中することにしていた。

ダチュラの花言葉にびっくりしました( ^^) _旦~~

偽りの魅力って… いや、ありがたくはあったんですけどね。

他にも色々とあったんですけど、アクセサリーとして存在していることも条件でしたのであると思いませんでした。

楽しんでくだされば幸い。感想くださればもっと幸い。

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