第二部 二話 蜜月の朝と脅威との出会い
キャスト
昴流 和希 (すばる かずき)
身長 175センチ
年齢:25歳
性格:好きになった女性は必ず口説き落とす肉食系でコミュ力の塊。空気を読むことに長けていて、女性の繊細な心の機微に敏く気付ける。そのコミュ力を生かして、バラエティなど幅広く活動している。
オシャレも得意で私服はすべて自分でコーディネートするほど。最初から俳優を夢見て努力してきた。何もかもに恵まれている琉偉のことはあまり好きじゃない。
鈴木 幸次 33歳 身長 171センチ
昴流のマネージャー。生真面目な性格で昴流の指示に従うことが多い。
琉偉に鍵を渡されてから、私は自分の家に帰ることが少なくなった。麻木さんとしては公私混同しているようで反対したいのが本音。だけれど、琉偉の反対を押し切ってしまった手前、許さざるを得ないってことだった。
「琉偉ってば、そろそろ起きてよ」
琉偉より1時間半くらい早く起きて支度した私は、男の人って楽でいいなあと思いながら彼を起こす。…低血圧なのかなんなのか。琉偉はいつもギリギリまで寝ていたがる。
「…まだ少しだけ」
そう言いながら腕を伸ばして私を抱き寄せる。そのまま仰向けになるから、私が琉偉の上に覆いかぶさる形になってしまう。
「わっ… 琉偉、起きてって!」
「キスしてくれたら起きる」
あからさまに甘えてくるものだから、思わず笑ってしまう。一宮琉偉のイメージは常にきちんとしていて紳士的で、どこかの御曹司みたいだけど起業家のように賢くも見えてってコンセプトだったから。
だけど、それは作られたイメージなんだよね。こっちの朝が苦手で甘えるのが好きでのんびりおっとりしているのが素顔なんだ。
「メイク崩したくないんだけど…」
「直す時間くらいあげるから、キスして。ね?」
「起きてるじゃない。仕方ないなあ」
そう言うと、少しぎこちなく唇を重ねた。すると、そのままぐっと抱き寄せられて深く唇を重ねられた。
「っ… ぅ…」
やっと慣れてきた大人のキス。だけど、まだ受け止めるだけで手いっぱいだ。一方的というよりも単純に経験値の違いで。顎のあたりに少しだけのびたヒゲが当たる。そんなだらしなくしている所を見られるのも私だけなんだよね。
もう少しこの時間を堪能したいけれど…
「よしっ、目が覚めた。今日の朝飯って?」
ガバッと起き上がった琉偉の顔は少しだけ俳優の顔で。少し寂しくなる。琉偉は私が選んだ服に着替えつつ問いかける。
「ベーグルとスモークサーモンあったから、サンドイッチにしたよ。それに作り置きのトマトスープとカフェオレ」
「ありがとう。料理はお互いに覚えておくべきだね。助かるよ。今日は舞台稽古で一日終わっちゃうからね。朝はしっかり食べておきたかったんだ」
テキパキ着替えて、ざっと寝癖を直して… 男の人って楽でいいなあと再び思いながら見上げている私に腕を差し伸べた。当たり前の顔で抱き締めると、
「今日からだったよね? 稽古の終わりが間に合えば迎えに行くから」
「うん。私が迎えに行く方が早いかもしれないし。そうしたらご飯だけでも一緒に食べましょ。ね?」
「もちろんですとも! いい店を探しておくよ」
じゃれあうようにキスを交わしながら話し合って、私はメイクを直し、琉偉は片付けるように手早く朝ごはんを食べる。舞台俳優というのは本当に大変な仕事なんだろう。
着替えるのもご飯を食べるのも本当に早い。私を初めて食事に誘ってくれた時はそんなことなかったから、あれはカッコつけていたのかもしれない。
◆
琉偉と渋い顔をしている麻木さんに見送られて、待ち合わせ場所に向かうと、待っていたのは生真面目そうな30代くらいの男の人だった。
「初めまして。昴流和希のマネージャーをしております。鈴木亮平と申します」
「初めまして。小菅五月といいます。一宮琉偉のマネージャーをしております」
まずは社会人の常識の名刺交換から。意味があるのか分からないけれど。恰好は琉偉のアドバイスで地味なパンツスーツだ。メイクだけは昔と違うけど、これくらいは常識の範囲内だよね。
「へ~ぇ、可愛いじゃん」
鈴木さんの後ろに停められていた車が開いて、プロフィールで見たよりも気の強そうな顔立ちをしたイケメンが降りてくる。
「昴流さん! 車の中で待っていてほしいと言ったはずです」
「そうだっけ? 一宮さんと一緒の時を何度か見たことあるけど、今日はそんな地味なので来ちゃうんだ~。わかりやっす~」
鈴木さんが止めるのも聞かずに車から降りてきて、遠慮なく私の全身を眺める。
「香りも一宮さんと同じだし… なかなかそそられることしてくれるじゃん。ねえ、俺が上書きしてもいい?」
上書きの意味は分からないけれど、混乱を押し込めて私はまっすぐに昴流さんを見つめた。身長差はほぼないし、私は決めたんだもの。この業界で生きていく以上、こんなセクハラじみたことも乗り切っていく。
琉偉を心配させないように、強い女になるって。
「私は仕事をしに来たのであって、あなたと親密になるためじゃありませんので」
ときっぱり告げた。琉偉ならこれで引き下がってくれたかもしれない。表向きだけでも… だけど、昴流さんはどう思っているんだろう。目を輝かせて笑うと、
「特別な男は一宮さんだから?」
私の髪をそっと梳いて唇を寄せながら問いかけた。ただそれだけなのに、あからさまにセクシーに見えて、私を異性として意識しているんだと分かり、嫌悪感が募る。
「プライベートに踏み込んだ質問にお答えすることはできません」
「一宮さんの一目ぼれらしいじゃん。業界じゃ有名だよ。来るもの拒まずの一宮琉偉を本気にさせた女だってさ。教えてあげようか? あいつがどれだけ残酷な男だったのか… 知りたいでしょ?」
「琉偉の過去には興味がありませんので結構です!」
そこまで答えてから失敗したと後悔した。仕事をしに来たんだから、一宮さんと名字で呼ばなきゃいけなかったのに、うっかり呼び捨てにしてしまった。ニヤニヤと意地悪く笑って見せる昴流さんを、私はまっすぐに睨んだ。
「へえ、琉偉… ねえ。いいじゃん。澄ましているよりずっとイイ顔してる。あれこれがいきり立つね」
「もてあそぶのもここまでにしてあげてください! 昴流さん」
「これくらい挨拶じゃん。じゃ、一か月楽しませてよ。その上で俺に奪われてくれたらいいんだけどね」
そう言うと、昴流さんはギリギリと握りしめていた私の腕を取り上げて、見せつけるように手の甲へキスした。
「俺の名を忘れられないようにしてやるよ。五月」
「そう呼んでいいのは琉偉だけです!」
嫌悪感で背筋に鳥肌が立つのを感じながら、私は感情のままに告げる。ありったけの怒りを込めて睨んでみたけど、意味がない。逆効果になるばかりだ。
内心で琉偉が反対したのはこういう意味だったのかもしれないと理解していた。私は琉偉以上に忙しくしているタレントの世話をするんだとしか思っていなかったけれど。
「小菅さん、大丈夫ですか?」
「ちょっとつついて遊んだだけだって~。じゃ、俺は先に戻ってるね」
心配してくれる鈴木さんにかろうじて返事をしてみたけど、朝からズタボロに疲れ切った気分だ。こんな人と一日中一緒にいて仕事しなきゃいけないんだと思うと、早くも琉偉のマンションへ帰りたくなった。
けれど、絶対に投げ出したくない。一か月やり切って見せたい。琉偉の傍にいられるようにというのもそうだし、いつまでも琉偉に甘えてばかりでいたくない。
マネージャーとしてスキルアップとか考えたことなかったけれど、この業界で生きていく以上、これくらいのやり取りも笑顔で乗り切らないといけないんだよね。
必死で自分に言い聞かせて、私は昴流さんの待つ車へ乗りこんだ。
お待たせしました( ^^) _旦~~
ようやく新キャラの昴流くんが登場です。
最初から色々と飛ばしていますね((+_+)) 書き慣れるまで苦労しました。
琉偉くんとももめそうだなあ(-ω-;)まあハピエン目指して頑張ります。