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オールドリンデン 5

 

 チュン、チュンチュン……と、のどかな小鳥の鳴く声が聞こえてくる。


 そんな優雅な朝に、突然ドタドタとうるさい足音が聞こえてきて……


「おはようございます!」


 バーン! と、サリアさんが扉を開けた。


「「「お、お゛はようござい゛まず……」」」


「し、死んでるっ!?」


 オールドリンデン2日目は、若干の頭痛と寝不足で始まったのだ。


 ――――――――――――――――――――――――


 結論から先に言うと、昨日の夜はほぼ寝られなかった。


「エレナ、エレナ! 見てくれこれ! オールドリンデンの名産でもある、銘酒『海竜(タツ)殺し』の一番いい奴だよ! 一緒に飲もうよ!」


 なんてひどい名前の酒作ってんだ。

 だがまあ、これからリヴァイアサンを討伐するに際しての縁起物としてはいいかもしれない。


「何が『海竜(タツ)殺し』よ。だいたいリヴァイアサンはどんな強い酒でも酔わないでしょ。なんで『ウワバミ』って言葉があるか知ってるの?」


 蟒蛇(うわばみ)って言葉こっちにもあるんだ。


 ウワバミは大蛇を意味する言葉だ。

 大蛇はどんな物でも丸呑みすることができることから、俗に大酒飲みという意味で使われるようになったのだが……


「まあまあ、そんな細かいことは気にしないでさ、飲もうよ〜、高かったんだよ!」


「まあ別にいいけど……」


 ちなみにエレナは結構酒を嗜む。

 あまり強い酒は飲まないが、それでもそこそこの酒を何杯も飲める程度には強い。


 ついでにマーリオンは俺のところに来て俺にも杯を渡してきた。

 さて、実は俺は酒に強い。これでも大学時代は「酒豪カズフミ」と呼ばれて憚(はばか)らなかった。


「じゃあカズフミもこれ持って……乾杯!」


 それからが悲劇の始まりだったのだ。


 杯に口をつけると、甘い香りがふわっと広がり……


「うまい!」


 昔からアルコール度数には鈍かったが、あまり強くは無いのだろうか?

 強い度数の酒は味がしないからな。ウォッカとか。


「それでマーリオンは今までどんなところを旅してきたんだ?」


「…………。」


 ん? マーリオンさーん?


「おいエレナ! マーリオンが喋ら……」


「…………。」


 ん? エレナ……さん?


「なんかあっついわね〜」


「な、なんでエレナ服をはだけて……?」


 すると突然、ドンッ! と音がして、マーリオンが杯をつくえにたたきつけた。


「エレナ〜! なんでこんなにも愛しているのに僕の方を向いてはくれないんだ〜!」


 おいおい、とマーリオンが泣き出した。


 嘘だろ、マーリオン! 自分が持ってきた酒で自分が酔うとかダメだろ! しかも泣き上戸だと!?


「カズフミ! こっち向きなさい! なんでこっち向かないの!」


「え、エレナ! 服着て服!」


 こちらはこちらで服を脱ぎだした。


「だって暑いんだもん〜……」


「今窓を開けるから! ほ、ほら開けたからぁ!」


「む〜……」


 くそ、なんだってこんな……!


 とりあえず今のエレナに近づくのは色々と倫理的にも、理性的にも危ない。

 とりあえずはマーリオンの方に……


「む? カズフミ、お前……なかなかきれいな肌をしているな……」


 な、なんだ……? こっちもこっちで何か危うげなような気が……


「少し……吸っていいか?」


「うおおおおおお……!?」


 なんですか!? 急に薔薇展開ですか!? お前エレナへの思いはどうした!


 動揺している間にマーリオンの顔がどんどん近づいてきて……


「まじか!? 待て待て待て待てって……!」


「ではいっただきっまーす…………ん? 思っていたより冷やっこくて固いような……」


 あ、危なかったーーーー!


 なんとか〈土人形(ゴーレム)〉を身代わりにマーリオンのキスを躱した。


 ……流石にファーストキスが男というのは絶対に避けたい。


 こうなってしまっては、理性的に危なくてもエレナのほうにいるべきだろう。

 マーリオンとのランデヴーよりかは、エレナの素肌を見て朝にボコボコにされた方がずっとましだ。


「あ、カズフミ……」


「え、エレナ……服はまだ脱ぎ切って無いんだな、良かったよ」


 ラインギリギリでどうにかなりそうだ。


「ねぇ……ちょっと聞いていい?」


「な、なんでございますか?」


 質問に答えるくらいなら全然問題ない。

 今ならどんな質問にも答えてやろう。中学のときとか高校のときの悲しい話や、辛い話も……


「私のこと……好き?」


「はあ!?」


 何言ってんですかこの子! 大丈夫ですか!


「ね〜え〜……好きなの? 嫌いなの?」


 な、なんて答えるのが正解なんだよこれ!


 エレナ、エレナ、エレナは……


「あ、えと……す、好きだよ! ほ、ほら……旅の仲間として……」


「そういう好きの話じゃないのっ!」


「えぇ……」


 どうしろと! 俺にどうしろと!


「ほら〜、男女としての好きっていうかぁ……」


 そう言いつつ、エレナはグイグイ迫ってくる。


 上着を脱いできれいな肌が覗いて、上目遣いに……


 って近い! 近いですよエレナさん!

 なんだか頬も赤くて色っぽいし、このままじゃヤバイ、結構ヤバイ!


「カズフミは私のパートナーなんでしょ〜? パートナーなんだったら私のこと好きって言ってよ〜!」


「さっき言ったけど!?」


「だからぁ〜……そういうのじゃなくて〜……ってアレ? カズフミ? どうしたの? なんでそんなに逆さまに……なっ、て……」


 ドタリ。……スー、スー。


「ははっ……助かっ……た」


 それからエレナと、同様に倒れているマーリオンを介抱してベットに寝かせ、片付けをした。


「しかしどうしてこんな事態に……ん?」


 片付けをしている最中に、「海竜(タツ)殺し」の瓶を拾った。

 そしてそれを、くるっとひっくり返すと……


「アルコール度数78%!?」


 俺の酒への強さを再確認した夜だった。


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