転生とはこういうもの 1
「―――随分とブラックな企業に勤められていたんですね〜」
誰かの声が聞こえて俺は目を覚ました。
……ここはどこだ? なんでこんなところにいる? 明日までに終わらせなきゃいけない仕事があるんだ。
さっきまで俺はパソコンと向き合って、山のように積まれた書類を処理していたはずなのだが。
俺は周囲を見回した。
もちろんパソコンはおろか、机も書類も見えない。
見えるのは真っ白な場所、どこまでも続いて終わりの見えない世界。
そして目の前には美しさを越して、神々しさを感じる美少女がいた。
「労働法の改正で、規制が厳しくなったこのご時世に珍しいですね〜」
「はあ……?」
俺の勤めている企業はこの少女の言う通りのブラック企業である。最近じゃなかなかブラック企業なんて聞かなくなったこのご時世、なんとかしぶとく生き残っているのだ。
「あ、気付きましたか? 藪和史さん、9月15日生まれ、享年25歳であってますよね?」
「ええ、あってま………ん? 享年?」
なんだ享年って? 享年って死んだときに使うアレだよな? どうゆうことだ?
「ああ、残念ながらあなたは死んでしまいました。ちなみに死因は過労による衰弱死ですね」
そうか、そうだった。
俺は2徹して若干意識が朦朧とする中でなんとか仕事を終えたんだったな。
それで帰り道の横断歩道を渡ろうとして………。
「思い出しましたか? あなたの死因は流石にひどいと上が判断しまして、特別にここに呼ばれたのです」
死後の世界にも上とかあるんだな。どこに行ったって世知辛いものなんだろう。
それにしても死んだのか、俺。
よく考えたら、なんにもやってないんだよな。
恋とか愛とか、そういうのとは無縁の生活を送ってきた。
学生時代は典型的なボッチ。おかげさまでアニメやらゲームやらそういうのには詳しくなったんだが。
勉強はある程度していたが、どういうわけだが大学に落ち、しょうがないから働こうとして勤めた先はブラック企業と。
そう考えてみると、俺の人生ってなかなかにひどいな。いじめられてなかっただけマシなのだろうか。
「ここに呼ばれる人って、結構たくさんいるんですよ〜。ひどい死に方をした方は世界に結構いますから。昔は会社に殺された方も多かったんですが、今どきこの死に方は珍しいですね〜」
「で、ここに呼ばれたのはいいんですけど、これからどうなるんですか?」
少女はそうだった、と言うと空中から書類を取り出した。
……忘れてたのかよ。というか今空中から書類取り出したけど、魔法なのか?
「それで本題なんですが、あなたには違う世界、あなた方の世界では異世界と呼んでいるあれです。生まれ変わるというかそこに転移して違う生活を送る権利が与えられました」
「要するに、異世界転移でセカンドライフをってやつですね?」
「まあそういうことです。……そうですね、あと、ひとつだけ特殊な能力や武器をあげることができます」
なんというか、ラノベでよくあるアレみたいだな。
チート能力をもらって異世界で最強になってハーレムってやつによく似てる。
「世界と能力は選べるので、好きなのを選んでくださいね。どうぞリストです」
俺の目の前に選択肢が現れる。
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☆おすすめ☆
【シルドヘイム】
・剣と魔法の世界 ・王国が2つ、帝国が1つ、魔界が1つ ・魔族と人族が対立している ・現在人族がおされ気味
備考 チート能力を使って人族を助ければ、名声でもなんでも簡単に手に入るでしょう
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☆おすすめ☆
【マキナヘイム】
・機械の世界 ・王国が1つ、帝国が1つ、共和国が1つ ・AIによる反乱が起こっている ・人類は滅亡の危機 ・男性が不足中
備考 魔法系のチートで人類の危機を救えば全女性とのハーレムも可能でしょう
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☆おすすめ☆
【ドラゴヘイム】
・剣と魔法の世界 ・王国が2つ、龍国が3つ ・龍族と人族が対立 ・人類は龍に支配されている
備考 ドラゴンキラー系の能力や武器を使えば、簡単に最強になることができます
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このほかにあと4つくらいの選択肢があった。
それにしても、なんでどの選択肢も人類は滅びそうなんだ。しかも備考にはハーレムやら名声やらが簡単に手に入る、ってことしか書いてないし。
ハーレムなんていらないから、もっと平和に暮らしたいんだが。
「ほかにないんですか?こう………平和になったあとの世界とか」
「はあ………?」
少女は不思議そうな顔で俺のことを見た。
「ありますけど、そんな世界に行きたい人なんて今までいなかったので………」
なるほどな。
たしかに簡単に最強になって、ハーレム作るのはある種の男の夢だからな。
今まで死後ここにきた男たちはそんなのばかり選んできたんだろう。
それなら最初からその選択肢を見せないのも、理にかなっているんだろう。
「あるならそういう世界のリストを見せてもらえませんか?」
「ええと、待っててくださいね…………どうぞ」
俺は目の前に現れたもう1つのリストに目をやった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【48】 ・快適
備考なし――――――――――――――――――――――――――――――――――
【49】 ・快適
備考なし――――――――――――――――――――――――――――――――――
【50】 ・快適
備考なし――――――――――――――――――――――――――――――――――
【51】 ・混雑
備考なし――――――――――――――――――――――――――――――――――
………MMORPGのサーバーみたいだな。
なんで世界の名前が番号なんだ。雑すぎるだろ。
「なんでこんなに雑な名前なんですか?」
素直に疑問をぶつけてみた。
「あー、こういうのって世界の悲鳴なんですよね〜」
少女は、その疑問はよく分かるというような感じで答える。おそらく少女も初めてみたときは俺と同じ疑問を持ったのだろう。
それにしても、世界の悲鳴?
どういうことだろうか。
「なんらかのバランスが崩れてその世界が破滅へ向かうことがあるんですよ。大抵は勇者や英雄といった存在が現れて解決するんですけどね〜」
少女はリストをスライドする。
「でもそういった勇者や英雄が生まれなかったり、生まれてもどうすることも出来ないところまで事態が進んでしまったとき、世界がここに抑止力を求めて悲鳴をあげるんです」
なるほど、チート能力や武器を持って抑止力を世界に与えるのもここのもう1つの役割なんだろう。
ひどい死に方をした人を救済し、もういちどチャンスを与えつつ、世界も救うとは。
このシステムを考えた奴は頭がいいな。
おそらく最初にでてきたリストに平和な世界が表示されなかったのはそういう理由も込みなんだろう。
そもそも出されたリスト以外に世界があるかどうかなんて、疑う奴は少ない。
ア〜エまでの選択肢の問題でオの選択肢を探す奴がそうそういないのと同じだ。
「そうやって救われた世界は悲鳴をあげなくなり、連絡も取らなくなります。そうするとこんな感じで人口くらいしか把握できないので、混雑、快適で仕分けてあるんです。それに引き継ぎの時にいちいち名前も面倒なので、悲鳴が来なくなった世界は番号で整理されてるんです」
なるほど、それなら俺も平和に貢献とかした方がいいんだろうか。
俺だって、悲鳴をあげてる世界が目の前にあるっていうのに、見て見ぬ振りできるほど腐ってるわけでもない。
「ちなみに1年にどれくらいの世界が悲鳴をあげてるんですか?」
「18万くらいですね〜」
割と多い………のか?
基準がないと判断もできないな。
「1年にどれくらいの人がここにくるんですか?」
「125万人くらいですかね〜」
……前言撤回。
平和貢献なんてどうでもいいな。やっぱり平和になった世界ですごそう。
そりゃそうだ。考えてみればわかる話だった。
世界にどれほど不幸な死に方をした人がいるだろうか。それこそ余るほどいるんだろう。
世界のことはそっちに任せよう。それがいい。
「平和になったあとの世界でまだ連絡がきてる世界ってないですか?」
「ないと思いますけどね〜。ときどき平和になった後も感謝して連絡をくれる世界もありますけど、長続きしませんし。そんなに都合のいい世界なんて………」
と言いつつ探してくれるところ、ラノベによく出てくる、だ女神とやらとは違うんだろう。
だ女神の方がイベントありそうだし、そっちの方がいいとかいうやつもいるだろう。だが、俺にとってはとてもありがたい。
「………えっ………あ、ありました!」
「ほんとですか!」
少女は、俺にそのリストを見せてくれた。
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【オスルヘイム】
・2年前にハヤト・チバによって魔王打倒 ・剣と魔法の世界 ・現在は平和 ・ハヤト・チバは残留
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いいんじゃないだろうか。勇者の名前が、明らかに日本人なところも気に入った。
魔王が打倒されているし比較的に平和暮らせるだろう。
「ここでお願いします!」
「分かりました〜。ステータスはこちらでその世界に順応できるように調整しておきますので。それでは次に武器や能力のことなんですが………」
「結構です!」
「はいわかりまし………は!?」
ここはさっくり断っておこう。俺はチートがしたいわけじゃない。人並み、且つ、少しスローなライフを送りたいだけなのだ。
企業や誰かのためにではなく、自分のために働きたい。そのためには能力なんかは不要なのだ。
「いやいやいや、特殊能力ですよ?最強装備ですよ?いりますよね?普通要求しますよね!?」
「いえ、結構です。そんなものいらないので」
「いやいやいやいや、向こうの世界は厳しいですよ!弱肉強食の世界!何かないと厳しいですって!死んでしまいますよ!」
「いえ、大丈夫です。なんてったって一回死んでますし」
「いやまあそうなんですけどっ!そういう問題でなくっ!」
「さあ、もういいですから!行かせてください!」
「流石に行かせてすぐに逝かせるわけにはいかないんですよ!こちらとしても!」
強情だな。いらないって言ってるんだからいいじゃないか。だがこの流れ、どうも何かないと一生行かせてはくれなさそうだ。
こちらとしては、さっさと行きたいんだが。
「……分かりました、それならこうしましょう。装備も能力もいらないので、魔力のステータス値だけ少し、多めにしておいてくれたらそれでいいです」
「そうですか……それならまあ妥協点ですね。それでは魔力を多めにしておくということで」
折れてくれたか。これでやっと異世界に行けるというわけだ。オスルヘイムだったか、この地獄のような社会より幾分かマシだといいが。
「じゃあ、飛ばしますよ〜。一応危険のないよう、人もモンスターもいない場所に飛ばします。右に出て看板の通りに進めば最初の街につきますから。とりあえずそこで、新しい身体能力に慣れてくださいね」
まあ、剣と魔法の世界というのであればこの世界よりステータス値は高いのだろう。慣らす場所があるというのはありがたい。
「では行きますよ〜」
「ああ」
魔法陣が足元に現れる。少女は聞き取れない言葉で詠唱を行った。
だんだんと世界が薄れていく。
さて、新しい世界、オスルヘイムでのセカンドライフを楽しむとするか。
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「魔力多めってどのくらいなんだろ……? この世界で一番魔力の多い人は……リジェル、って方なんですね……」
少女は少し悩んだ末に結論を出した。
「ま、リジェルさんの2倍くらいでいいかな」




