転生とはこういうもの 2
「………ん?」
目覚めると布団に寝かされている感触がする。
てっきり床に放置されるのかと思っていたのだが、どうもサービスが行き届いているものだな。
ゆっくりと起き上がり、ベッドからおりて周囲を見渡すと、洞窟の中ではあるが、一つの部屋を構成していた。
中央では焚き火がされており、ベッドはもちろん、トイレや風呂まで付いていた。
「タンスがあるのには驚いたな」
タンスがあったので開けてみると、この世界のものと思われる服が用意されていた。
なんだろう。想像をいい意味で裏切られたな。
その服を着て、軽くジャンプしてみると予想より飛んだ。
どうやら地球とは圧倒的な差があるらしい。
「体が軽い。これが能力値の違いか」
一応、ステータスオープンとかそれっぽいことをいくつか試してみたが、何も出なかった。
言うことが間違っている可能性もあるが、能力値という概念はあってもそれを数字などで視覚化することはできなさそうだ。
さて、せっかくなので魔法なんかも試してみたいのだが……魔法ってどう撃つんだ?
「ウォーターボール! サンダー! ウィンドカッター!」
メ◯ミとかも試してみたが出てこない。某RPGの呪文でもダメとなると、魔法は諦めた方がいいのだろうか。
諦めかけたちょうどそのとき、足音がした。
………ん? 足音? 人やモンスターのいない場所って言ってなかったか?
とりあえず隠れるか。敵か味方かわからない以上、迂闊に姿を見せることもない。
俺はベッドの陰に隠れた。
コツコツと足音はだんだんと大きくなる。
「そこに隠れているのはどちら様かな?」
バレたのか? いやハッタリの可能性、なきにしもあらずだ。まだ少し隠れておくか。
「そこのベッドの後ろ側におるのは分かっておるから、早く出てきなさい。わしはそちら様に危害を加えるものではない」
バレたならしょうがない。さっさと出ようか。
「すごいですね。一瞬でバレてしまいました」
ベッドの陰から出てみると、部屋の入り口に、金髪の、しかし顔にはしっかりとシワが刻まれた老人がいた。
優しそうで、それでいてどこか寂しそうな雰囲気を纏った老人は俺を見て少し、緑色の目を細めた。
「いや、あんなものは誰でも分かるわい。そちら様、魔力の扱いに慣れておらんのか? 魔力の抑制ができておらんぞ」
「そうなんですか」
それにしても魔力の抑制ときたか。
魔力の扱いについては何も知らない状態だからしょうがないのだが、どこかで学ぶことができないと困るな。
「どうせならそちら様、わしのもとで魔法について学ぶ気はないか? その状態でどうやって今まで生きてきたのかは分からぬが、これから生きる上では必要なことだぞ」
渡りに船とはこのことを言うのだな。心を見透かされた気分だ。生前の不幸の分、こっちでは幸運が舞い込んできてるのだろうか。
ありがたく、好意に甘えよう。
「よろしくお願いします」
「いやいや、お礼などはよい。それよりその状態でどうやって生きてきたのか教えてくれぬか?」
どうやって生きてきたのかと言われてもな。転生してきたと言って信じてもらえるのか?
……そういえば、少女に見せてもらったリストにハヤト・チバとかいう勇者がいたって書いてあったな。
もしかしたらこの世界には、転生という概念があるかもしれない。
試しに言ってみようか。
「信じてもらえないかも知れませんが、僕はついさっきここと違う世界から転生してきたんです」
さあ、反応はどうだろうか。
……怪訝そうな表情だな。やはり信じてはもらえないか。
「ああ、ハヤト殿と同じところから来られたのか。ハヤト殿もわしのもとで魔法を学んだのだ。そちら様、名前はなんというのだ?」
予想外だったが、ハヤトの知り合いだったようだ。しかも魔法を教えたという。ならば話ははやい。
「カズフミ・ヤブといいます。よろしくお願いします」
「わしの名はリジェル。苗字など遠の昔になくした、ただのリジェルだ」
そう言って、リジェルと名乗った老人は静かに笑った。
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こうして俺はリジェルのもとに弟子入りすることになったわけなのだが、そこからの日々は早かった。
まず第1に教えられたのが、この世界の言語、文字だった。
最初から話が通じていたので、どうも翻訳機能を貰ったのかと思ったのだが、そうでもなかったようだ。
次に教えてもらったのは、おおまかな歴史の流れだった。
「まあ歴史と言っても、わしが教えられるのは魔王と
人間の戦いの歴史くらいなのだがな」
大まかというだけあって、有名どころの戦役とそこで名を挙げた魔族や、人間のことで、それほど時間はかからなかった。
その次は基本的な礼儀作法と、お金などの価値基準について教えてもらった。
「この国の通貨は、白金貨、大金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨、青銅貨が存在しておる。それぞれ10枚で1つ上がるが、金貨から上は100枚で1つ上がるのだ」
まあなんというか、想像通りといえば想像通りの貨幣だな。
「だいたいこのりんご1つで銅貨1枚ほどする。その月の取れ具合にもよるからはっきりとはしておらぬのだがな」
その他にもいくつかの例を出してもらって総合的に考えると、まあだいたい
青銅貨=1円、鉄貨=10円、銅貨=100円、銀貨=1000円、金貨=10000円、大金貨=100万円、白金貨=1億円
という感じだった。
分かりやすいから楽でいい。
そしていよいよ魔法の授業が始まった。
「魔法を使用する方法は大きく分けて2つある」
ひとつ目は、詠唱による魔力行使だそうだ。
「だが詠唱は長くてな……わしは好かん。だから教えるのはもう一つの方法だ」
2つ目は魔法陣による魔力行使だそうだ。
「これをカズフミにはマスターしてもらうとしようかの」
さてここで、魔法行使をする前に1つ問題があると指摘される。
「だがまずはカズフミは魔力の抑制、制御を覚えてもらわねばな」
魔力の抑制と言われても、イメージがわかないことにはどうしようかなもないのだが。
「どうやってですか?」
「まずはカズフミには魔力というものを認識してもらおうと思っておる。少し違和感がするであろうが、その違和感を覚えておくのだ」
リジェルは俺に近づいてきて、手を取った。
「本当は首が1番良いのだがな。〈魔力吸収〉」
「うわっ……!」
その瞬間、グッと引かれるような感覚がする。
血管を通る血の流れとは違うもう1つの流れが逆行し、手に集まり、流れていく。
リジェルが手を離すと流れの逆行が止まり、また流れ出した。
しかし、流れている魔力を意識することはでき、今までにない違和感が俺を襲っていた。
「わかるかの? これが魔力だ。流れているのが分かるだろう?」
「はい、分かりました。……これはすごいな」
「さて、魔力を意識できるようになったところで、そろそろ魔力の抑制といこうかの」
リジェルは沢山の魔界文字が書かれた紙を空中から取り出し、机に置いた。
空中からということは収納魔法とかの類だろうが、便利な魔法だ。俺も使えるようになりたい。
「この紙に書いてあるのは〈水球〉の魔法陣だ。これに魔力を流すと〈水球〉が発動するようになっておる。カズフミにはこれを使って魔力の制御を覚えてもらう」
リジェルは次に大きさの違う透明の器を4個取り出した。
「この器は許容量よりも多い量の魔力が入ると割れるようになっておる。この器を〈水球〉で満たすのだ。魔法陣と器はそれぞれ10000ずつ用意した。カズフミ、頑張れ」
「分かりました。頑張ります」
それだけ言うと、リジェルは部屋を出て行った。
さて、ものは試しだ。とりあえず〈水球〉を発動してみようか。
魔力の流れを意識してそれを放つイメージで魔法陣に魔力をぶつけてみる。すると魔法陣は爆発した。
どうやらやり方が違うようだ。やはり、魔力は流れが大事なのだろうか。
俺は魔法陣の紙を手に持って、手から魔力を流すイメージで魔力を込めた。
魔法陣が光る。どうやらこれが正解らしい。
「〈水球〉」
その瞬間グッと引かれるような感覚がさっきよりもずっと強く起こり、直径3メートルほどもある水球が現れた。
「うわっ!」
水球は操作がきかず、部屋の壁を破壊して消えていった。
「まじかよ……」
どうやら、大きさと発動後の操作が魔力制御のポイントなようだ。
しかし、初めて魔法を使ったが、なんというか興奮するものだな。
異世界というものを強く感じた俺はボロボロになった部屋でしばらく、その感動を味わっていた。
女神様視点
「あっれー? おかしいな? 転生させる場所になんか洞窟できてるんだけど……」




