第4話ベトナムの喧騒と究極のヤギ鍋 その3
買い付けを無事に終え、夕食の前に在住の知人に会いにタクシーを飛ばす
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15分くらい歩いて、先ほどの厨房道具のお店に戻ると、鍋を探しに出かけたの男の店員が戻ってきていて、女の店員と、鍋を持って待ち構えていた。
いよいよ交渉開始。最初の金額から値引き交渉をするものの、観光客相手の商品なら、最初に本来の売値よりもはるかに高い額を提示してくるので、値引きのやりがいもある。
しかし、恐らく売値に近いと思われる厨房道具はそう簡単に下がらない。
料理長が、身振り手振りで、たくさん買ったから安くしろといい続けると。
少しは値が下がった。しかし、それ以上の値下げは不可となると、相手も首を縦に絶対振らない。
5分ほどで交渉成立。96万ドンなので、5000円以下で飾り切り包丁20本をはじめ、五目鍋用の鍋やクウシンサイの飾り切り等を買う事ができた。
大きな袋一杯の荷物を抱えて、とりあえず、ホテルに戻る事にした。
帰りは、行きとは少し違う道。
午後6時を回り、少し薄暗くなってきているものの、料理長はかれこれ10回近くベトナムに来ているためか、もはや地図など必要なかった。
1区の中心部なら迷う事が無く、地元大阪の船場エリアにいるような感覚で歩くことができるのだった。
懐かしい通りを見ながら、途中にあった国営デパートのATMで、100万ドンを下ろして、一旦ホテルに戻った。
料理長が出国前に、安い厨房道具が手に入る市場を教えてもらおうと、HCM在住の日本人ユキ氏と連絡を取り合っていた。
しかし、肝心のユキ氏の携帯電話の番号を書いてあったメールを見ようにもネットのできる場所が無い。
それ以上に、限られた時間でネットをやる余裕も無いので、思い切ってユキ氏のご主人である富澤氏の経営する “オーバーランドクラブ”に行って見る事になった。
ホテルからタクシーで場所を伝えるものの、運転手もホテルの人間も場所がわかりにくいらしく、近くまで来て迷ってしまった。
運転手も頑張って、地元の人に聞くなど努力をするものの、上手く伝わりそうにもなかったので、近くにあったレヴァンタム公園の前で降ろしてもらった。
メーターは45000ドンと高くなってしまったが、運転手も見つける事ができなかったと恐縮と謝罪の表情をしながら受け取ったので、後味は悪くなかった。
タクシーを降りると既に空一面に暗がりが広がっていたが、ようやく熱気から開放され、風が吹くと涼しさすら感じるようになり、散歩には最適の状態であった。
レヴァンタム公園は大きな公園で、中では主にカップルが、遊歩道で散歩をしていた。なぜかみんな等間隔で、同じペースで歩いているのが不思議で仕方が無い。
奥を見るとメリーゴーランドのようなものも見受けられた。
涼しくなったこの時間帯になって地元の人は遊び始めるのだろうか?公園内に多くの人がいるのだった。
日本から持ってきた地図を頼りに、公園を抜け、2・3本したところにあるHEMと呼ばれる路地を入り、しばらく歩くと見た事のある建物が視界に入る。
オーバーランドクラブであった。
オーバーランドクラブは、料理長が料理の研鑽を重ねた所。
かつては、中心部から程遠いやや郊外の場所にあったが、前回訪れて、料理長が料理を学んだ2年前の時には、ここの場所に移転していた。
2階は電気がついていたので、誰かいるだろうと思い、料理長がブザーを鳴らす。ベルの耳の中を突きさすような音が一瞬したかと思うと、中から人影が現れた。
オーバーランドクラブの経営者・富澤氏であった。
「あらら、わざわざ来られたんですか!まあ暑いでしょう。どうぞ」外見上では、年季の入ったバックパッカーのようにも見えるものの、実際には、全く違う経営者らしい紳士的な態度の富澤氏に案内された2人は、中に入る。
料理長は、日本からのお土産(お菓子)トミザワ氏に渡しながら「ユキさんの携帯電話の番号がわからなかったので、とりあえず来てしまいました。今回は時間が無いので、結局ベンタン市場で済ませてしまいました。ユキさんに宜しくお伝えください」
しかし、富澤氏は大声を出したかと思うと、2階からユキ氏が現れた。
軽い再会を祝った後、そのまま近況の話へ。
オーバーランドクラブは最近、ベトナムに来る日本人の観光客が激減し、その上インフルエンザの問題が重なって、GWの予約は壊滅状態。非常に厳しいということであった。
また、今回のツアーでの料金を説明すると富澤氏もユキ氏も非常に驚き、「ついにそういうのが出たんですね」と声を張り上げるのだった。
かつてのベトナム航空は、タイ航空あたりと比べて、強気の価格を崩す事がなかったのだが、それだけ外国人が来なくなり、外貨が稼げなくなったのだろうか?
7・8年前と比べて、外国人料金の撤廃、ビザの2週間の滞在の免除など、年々ベトナムに行きやすい状況になりつつあるのにもかかわらず、かつてのような魅力に、やや乏しくなっているのかもしれなかった。
「どうやったら、外国人観光客を増やす事ができるか、ベトナム政府も頭を悩ましているのかもしれないな」
3人の会話を聞きながら店長は、カメラで写真を撮りながら一人頭の中で感じているのだった。




