第3話ベトナムの喧騒と究極のヤギ鍋 その2
ベトナムで1番有名なベンタン市場。時間が無いためほぼ観光地化しているこの市場で買い付けを敢行した。
ベンタン市場は、HCMの町の中心ともいえる場所で、以前この市場からどんどん周辺に発展していったと、主に日本人のガイドをやっているベトナム人の友人バオ氏から聞いたことがあった。
今では、メインの観光地でもあるので、スリや引ったくりが特に多い場所ということで、市場内では、特に警戒が必要であった。
市場まで10分くらいの道のりを、歩くと徐々に第2の故郷ともいえるベトナムに来た実感がわいてくる。
店長と料理長は、私的な世界では夫婦であるが、その結婚式をしたのがこのHCM。
ベトナムの伝統的な結婚衣装に身を包み、シクロ(自転車タクシー)でこのベンタン市場の前をぐるぐる回った事がついこの前のように思い出される・・・。
店長が感慨にふけっていると、目の前に市場の建物が見えてきた。
「確かこのあたりに、おやつのお店が」と料理長がつぶやきながら、すぐ横のエリアを見渡すが、その店はすでになくなっていたらしい。
市場の中に入ると、南国特有の強力な湿気が肌に押し寄せる。
市場の建物全体には、”冷房”は無く、市場内の各店舗についている扇風機のみ。中にいる人は慣れているからだろうか?みんな涼しい表情をしているのだった。
まずは’ごはん’ということで、中央にある食堂へ。
何店かある屋台風の食堂のうち、最も多くの人がいるエリアで、2種類の料理”バインベオ(小皿に水溶き米粉を入れて蒸したもの)”.”フーティウ麺(フォーに似たベトナム南部の米麺)”とビール1本を注文。
味は、おいしかったが、値段が予想以上に高い。
予想の1・5倍くらいだろうか?店の人の言い分では、フーティウ麺の中にベトナムハムなど、いろいろな具材をいれた、”スペシャル”と言うことらしいのだが、どうみても ”外国人”と言う理由だけで勝手に”スペシャル麺”を作って値を吊り上げているとしか思えなかった。
このあたりの手法は相変わらずだと苦笑しながら、店長は5万ドンを手渡した。
ドンというベトナム通貨はかつて1万ドンが100円弱くらいのイメージであったが、空港の出迎えをしてくれたガイド、ハンさんからの説明では、円が強くなっているためか、現在1万ドンが50円くらいの価値との事。
その為、今回ベトナムでは、買い付けにせよ食事にせよ、今まで以上に安い思いをする事が出来るのだった。
「韓国行ってる場合じゃないよ。ベトナムだよ」料理長が、この旅の研修中、何度もつぶやいた言葉であった。
ベトナムの買い付けで重要なのは、チェ用の小さな器と飾り切り包丁であった。
前者はランチセットのデザートに使われ、後者はきゅうりなどをギザギザの形に切ることができるもの。
この包丁は、昨年から始まった “アジアンクッキングサロン”の生徒さんからも「欲しい」とのリクエストを多数伺っていた。
結局市場で見つかったのは、後者のほう。
厨房道具を扱うお店で、最初に行った店のほうは、金額の交渉の途中で話がややこしくなりそうだったので、そそくさと退散。
次のお店は、包丁の価格が先ほどの店よりも安く、交渉がしやすそうだったので、他のものも買い始めた。
料理長は小鍋やら空芯菜の飾り切り包丁などを次々と見つけては、店の人に取って貰っていたりしていた。
しばらくして、日本を旅発つ前から雑誌の写真を見てチェックしていた、ベトナム五目鍋用の鍋があるのか、料理長が店の人に尋ねる。
そのやや年配の店主と思われる男性は、ベトナム語で「ちょっと待ってくれ」とでも言ったのか、そのままどこかへ取りに向かっていった。
待っている間も、他の必要そうなものを物色していたが、5分、10分経過しても戻ってくる気配が無かったので、料理長は女性の店員さんに「10分後に戻ってくる」と英語で伝えると、2人は市場全体を見に行く事にした。
市場を見渡すと、他のアジアのローカルな市場との大きな違いは、完全なる観光客相手の土産物屋の存在が目立っていることであった。
ここでは、欧米の観光客が興味深く見ているのだった。
さらに、2人に向かって日本語で「オニイサン、オネエサン、ナニサガシテイル」としきりに声がかかるところは、必ずと言っていいほど、ベトナムコーヒー売り場。
確かに一般の旅行者は厨房道具など興味がないだろうから、そういうエリアに行くし、店の人も相手が外国人と思えば、商売が必死になる。
とあるベトナムコーヒーの店では、ある観光客が電卓片手にベトナムの店員相手に面白いように交渉しているシーンを見かけるのだった。
だが、それ以上に店長が「???」と思うシーンがメインの少し広めの通りで遭遇した。
某日本の旅行会社が主催しているツアーの団体客と遭遇。
自ら「私は旅行者です」と言わんばかりに、ガイドや添乗員に付き添われながら、胸に旅行会社の用意しているバッチをつけて、皆、不安な表情を出しながら、時より横の店を1瞬見渡すものの、普段はただ前だけを向いて歩いていた。
ガイド達から相当脅されたのだろう。
かばんの持ち方一つにしても、あたかも鎖のように堅い腕と手でしっかりと固定され、全くのスキをも感じさせない。
とても買い物を楽しむという空気ではないので、店の人も相手をする雰囲気は全く無い。
それはそれで被害にあいにくいのかもしれないのだろうけど、わざわざそうまでしてこのベンタン市場内を歩く意味があるだろうか?そちらのほうに疑問を持ちざるを得ないのだった。(有名な観光地だから仕方ないか)




